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9話※
しおりを挟むフィンと深く愛し合い、彼がぐっすりと眠りに就いた後──私は、本棚に設置されていた光の正体を確認し、それを持って直ぐにモニター室へ足を運んだ。
「こ、れは……」
本棚に隠すように置かれていたもの、それは小型の監視カメラだった。私が前々から設置していたものではなく、恐らく他の誰かが取り付けたもの。
──犯人は一人しか考えられない。
「……あのストーカー女」
舌打ちをして、小型監視カメラに内蔵されていたカードを取り出す。
いつから取り付けられていたのかは、分からない。でも、ソフィアが私達の寝室に侵入したということは、紛れもない事実だ。つまり、フィンが着替えているところも、私の可愛いフィンの寝顔も、私達が毎晩ベッドで愛し合っているところも、この映像を通して全て見られていた可能性が高いという訳だ。
鍛えられた夫の美しい身体を、私だけのフィンの身体を盗み見た罪は重い。ソフィアの目玉をくり抜いてやらないと気が済まない。
「……い、一応、状況確認の為にデータを見てみないと駄目ね」
べ、別に、客観的に見て私達がどういうセックスをしているか、気になった訳じゃない。映像の中身によっては複製して保存しちゃおうとか、全然考えてないわよ。何をストーカー女に見られていたか、確認することは重要だもの。
「……よし」
ゴクリと音を立てて唾を呑み込み、再生機にカードを差し込む。機械音を立てて再生機がデータを読み込み、一番大きなモニターの画面がノイズを暫く起こした後──
『あ、ああん! フィン! 激しい……っ!』
『シャーリー! 愛しているよ、シャーリー……!』
耳を突き抜けるような喘ぎ声を上げながら、ベッドの上で獣のように腰を振っているフィンと私の姿が映し出された。
いきなり、とんでもなく生々しい映像が。
私、セックスする時、あんなに声出してたんだ。口もだらんと開いて涎垂らしているし、あんなに乱れた姿、フィン以外には到底見せられな──
「……あの。奥様」
「ひぁっ!?」
背後から聞こえた低い声に、身体が大きく震え上がる。咄嗟に後ろを振り返ると、気まずそうにモニターから目を逸らして立ち尽くすセバスチャンの姿があった。
「申し訳ございません。ノックをしたのですが、奥様が映像に夢中で……」
「ち、違うわよ! これはソフィアが私達の寝室に取り付けた監視カメラの映像を確認しているだけで、そういう趣味がある訳じゃないの! 勘違いしないで!」
動画を止めようと、慌てて停止ボタンを押そうとした──のに、焦りすぎて手元が狂ってしまい、スキップボタンを押してしまった。
『やっ、あぁん。フィンのおっきくて、おいしいの……』
『シャーリーのも美味しいよ……シャーリーの味がする。ずっと舐めてたい……』
今度は互いの性器をびちゃびちゃと卑猥な水音を立てて舐め合う自分達の映像が。
セバスチャンは見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりに、俊敏に顔を横に背ける。私はもう顔から烈火の如く火が出そうでになるのを感じながら、汗ばむ手でやっと停止ボタンを押した。
もう恥ずかしいを通り越して、泣きたい。子供の頃から私の側にいた御年七十のセバスチャンに、こんな映像を見せてしまうなんて。
全部ソフィアのせいだ。絶対に許さない。
「……奥様がフィン様と仲良くされているようで、安心しました」
「やめて、セバスチャン。お願いだからもう忘れて」
「……確かお二人の出会いは、奥様が十七歳、フィン様が十六歳の時でしたか。お互いが初めての恋人同士で、何年経っても変わらず愛し合えるのは本当に凄いことで、お二人を見守ってきた私としては感極まって涙が」
「もう、本当にやめて! 恥ずかしいから!」
火照っていく頬を両手で覆い隠しながら、消え入りそうな声で呟く。セバスチャンは控えめに咳払いをすると、机の上にそっと資料らしき物を置いた。
「奥様。話が変わってしまい申し訳ないのですが、準備が整いました。やっと例の件が解決に向きそうです」
「えっ、それって……!」
「恐らく、此れで奥様の望み通りに解決するかと」
セバスチャンの言葉に、身体の力が一気に抜ける。
ソフィアの本当の正体、そして彼女の企みに疑念を抱いてから数ヶ月。本当に時間が掛かった。やっとここまで来れた。
あとは此れを本人に突き付ければ……!
安堵から大きなため息をこぼし、セバスチャンが集めてくれた資料に手を伸ばそうとした──その時だった。
「お、奥様! 大変です! 此方のモニターを見てください!」
私とフィンのセックス映像を見てもそれほど取り乱さなかったセバスチャンが、突然大声を上げた。驚いて、彼が指差した先のモニターを見てみると──
「なっ……!」
現時刻の私達の寝室前の映像。そこには、不気味な笑みを浮かべて寝室の扉を開けようとするソフィアの姿が映し出されていた。
「ど、どうしてこんな時に……!」
突然の敵の来訪に、心臓が大きく飛び跳ね、指先が酷く震え始める。セバスチャンはぐっとモニターに顔を近付け、映像を睨むように見据えた。
「もしや、奥様がカメラを外したタイミングで部屋を出たことにお気づきになったのでは……! 若しくは他に監視カメラを予め設置していた可能性も」
「っ! 早くフィンの所へ戻らなきゃ……!」
セバスチャンが用意してくれた資料と携帯用のモニターを両手に抱え、急いで寝室へと向かった。
どうか間に合うようにと、心の中で必死に祈りながら。
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