【R18】夫を奪おうとする愚かな女には最高の結末を

みちょこ

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8話※

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 ──しまった。やらかした。


 実際の現場を見てもいないのに、そしてあの現場にはフィンとソフィア以外にはいなかったのに。キスしたことを私が知っているのはおかしいじゃない。フィンがキスされた怒りから感情的になり過ぎて、矛盾に気づかなかった。

 フィンはモニター室の存在は疎か、監視カメラで日頃の生活を見られていることも、勿論知らない。
 万が一この事が知られてしまったら、絶対に引かれる。そんな女とは離婚すると言われるかもしれない。

 誤魔化すのよ、シャーリー。
 なんとか上手い言い訳を。

「シャーリー?」

 フィンが曇りなき瞳でじっと見つめてくる。

 やめて、お願い。そんな目で見ないで。
 罪悪感で一杯になってしまうから。

「……えっと」

「うん」

「……夫婦だから、何処にいてもフィンが何しているか、分かっちゃう、の?」

 何故か最後を疑問系で締め括ってしまった。

 うーん。我ながら苦しい言い訳……!
 こんな言い訳、頭の中がお花畑の人しか誤魔化せない。笑顔で誤魔化してみたけど、フィンも流石に──

「そっか! 凄いな、シャーリーは。俺が何してても分かっちゃうのか」

「えっ」

「凄い。シャーリーは凄い。好きだよ、好き。大好き」

 フィンは目元をくしゃりと綻ばせながら、鼻先を合わせるようにして擦り寄せる。

 もしかして、信じてくれた?
 フィンがバ……素直で良かった。でも、ここまですんなりと人が言ったことを鵜呑みにされてしまうと、此方が逆に不安になる。

「フィン。お願いだから、知らない人に何を言われてもついていかないでね」

「え?」

「ソフィアの件もあるし、凄く不安なの。お願い」

 瞳を大きく見開くフィンの頬を両手で包み、顔をゆっくりと近付ける。フィンは唇をきゅっと結んだまま私を見つめると、私の髪を愛おしむように指先で優しく梳かした。

「不安ならシャーリーがずっと俺の側にいてくれればいいんだ」

「え?」

「俺の稼ぎだけでも十分に生活は出来る。だからシャーリーは仕事を辞めて、ずっと俺の側にいればいいんだ。俺が仕事をしている時も、家にいる時も、ずっと」

「えっ、いや、でも」

「シャーリー。こんなにも愛し合っているのに、ずっと一緒にいれないのは辛い」

 戸惑う私に構わず、フィンは私の身体をきつく抱き締める。胸が潰れてしまいそうな力強さに、思わず顔を上げれば、一瞬の間を惜しむように唇を塞がれた。

「んっ、んん……!」

 ちゅううううっ、と強く唇を吸われ、腰がゾクゾクと震え上がる。唇が離されたかと思えば、直ぐにまた奪われて。厚みのある舌が差し入れられてきた。

「あっ、んんっ、ダメ、フィン……」

「シャーリー……」

 唇の裏側をぬるりと舐め、歯列をなぞり、頬の裏側まで丹念に舐め尽くしていくフィンの舌に、身体が快楽の渦に突き落とされていく。
 最初は抵抗しようと思っていたのに、全身を疼く熱には勝てなくて。気付けば彼の首に腕を回していた。

「フィン……フィン……っ」

「シャーリー……好きだよ。愛している。誰にも渡したくない、誰にも触れさせたくない」

 唇を重ねたまま甘い言葉を囁かれ、身体が悦びの声を上げる。フィンの柔らかな舌から唾液を搾取するように吸い付けば、いつもの始まりの合図を告げるように腰を撫で回された。

「……んっ……」

 混ざり合った唾を喉の奥へと流し込み、ゆっくりと唇を離す。
 フィンの表情からは、普段の可愛らしい笑顔は消えていて、獲物を捕らえた獣のように唇の周りをペロリと舐められた。

「ダメ……フィン……明日から、公演の稽古が始まるんだから、休まないと……」

「無理だ。シャーリーが足りない。シャーリーがもっと欲しい」

 フィンは獰猛な瞳を向けたまま、私の首筋に吸い付く。チクリと刺すような痛みに、堪らず顔を横へと背けた。
 淡い吐息をこぼして、フィンの唇と手の動きに身を任せていたその時──偶々視線を向けた本棚の二段目の端に不馴れな光が見えた。

「っ……?」

 光の正体を確かめようと、フィンに動揺を悟られないようにしながら目を凝らす。

 あれは、もしかして──


 
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