7 / 20
7話
しおりを挟む昼間から寝室でフィンと無我夢中で身体を何度も重ね、気付けばもう夜中を迎えていた。
たっぷりと愛し合った余韻に浸るように、フィンと裸で抱き合いながら深い口づけを交わして。身も心も幸せに包まれていた。あとはあのストーカー女さえいなくなれば、完璧なのに。
「フィン。んっ」
私が舌をチラリと覗かせれば、フィンも躊躇うことなく舌を出して。ざらりとした生温い感触を堪能するように、お互いの舌を念入りに舐め合った。
「はぁ……シャーリー……」
「フィン……っ」
舌のキスで興奮を煽られたのか、フィンは唇を密着させて口づけをより深くさせていく。ぬちゃぬちゃと唾液が混じる音を立てて互いの口内を貪れば、下腹部を疼くような熱がじんわりと広がっていった。
この深くて甘い口づけだけは、私だけのものだったのに。あのくそ女、私のフィンにディープキスまでしやがった。本当に本当に許せない。今度フィンに触れたら、四肢を引き千切って──
「シャーリー。どうしたの?」
「え?」
突然唇を離されたと思ったら、フィンが私の眉間をほぐすように指先で触れてきた。
「眉間にシワ寄ってる。なんか怒ってる?」
顔を顰めて尋ねるフィンに、ほんの少しだけ、胸の奥につっかえるようなモヤモヤが生まれた。
フィンもフィンよ。あれだけ気を付けろって言ったのに、簡単にキスされて。舌を入れられてもされるがままで。泣くほど嫌だったのなら、我慢しないでソフィアを殴り飛ばしてくれれば良かったのに。
例えどんな脅しをされても、撥ね付けて欲しかった。私以外とキスなんてしないで欲しかった。
「……フィ、フィンのバカ……」
心の中で留めようとした言葉が漏れた瞬間、瞳から滝のように涙がこぼれ始めた。急に泣き始めた私に、フィンは大きく目を見開いて。頭を撫でながら、宥めるように何度も口づけをした。
「泣くな、シャーリー。何があったか、ちゃんと教えてくれ」
「んっ、んっ」
ちゅっ、ちゅっ、と啄むようなキスを交わしながら、フィンの首に腕を回す。そして、強張った喉に唾を流し込み、震える唇をゆっくりと開いた。
「フィ、フィンは私の旦那さんなのに、他の女と二回もキスするから」
「シャーリー……」
「私以外とキス、しないで。嫌なの。本当に嫌なの」
キスすると言うよりはキスされた、と言う方が正しいかもしれないけれど、それでも嫌なものは嫌。
フィンと出会ってから七年、恋人になってから五年、結婚してから二年。そろそろ落ち着いてもいいはずなのに、時が経っても彼への執着心が薄れるどころか膨れ上がるばかり。他の女が少しでも彼に近寄れば、直ぐにやきもちをやくし、牽制もする。髪の毛の一本だって触れられたくない。こんなにも醜い嫉妬をする自分が本当に嫌だ。
「シャーリー」
フィンは口づけを止めると、微かに震える私の身体をそっと抱き寄せて、背中を優しく擦った。
「ごめん、シャーリー。傷付けて本当にごめん」
「ダメ。許さない」
「困ったな。どうしたら許してくれる?」
私を抱き締めながら、耳朶に音を立ててキスをするフィン。
フィンは寧ろ被害者側だからそこまで責めるのは間違いなのかもしれないけれど、ちょっとくらい不貞腐れてもバチは当たらないはずだ。
「……じゃあ、今度の休みにデートして」
「そんなんでいいのか?」
熱い吐息が混じったフィンの声が、耳に吹きかかる。問い掛けに答えるように、ぎゅっとフィンの身体を抱き締めて小さく頷いた。
「優しいな、シャーリーは。デートで許してくれるんだ」
「ん。心が広いの」
まぁ、あのストーカー女は死んでも許さないけどな。二度とフィンに近付けないように、身体を切り刻んで鍋でじっくり煮て、最後は肉食獣に食わせて──
「そう言えば、前も思ったんだけど」
「んぇっ」
頭の中に思い浮かべていたグロテスクな処刑方法が、フィンの一声によって遮られる。抱き締められた腕からフィンの顔を覗き込んだのと同時に、彼の口から思いがけない疑問が放たれた。
「何で、シャーリーは俺とソフィアがキスしたこと、知っているんだ? あの場にいなかったよな?」
3
お気に入りに追加
2,820
あなたにおすすめの小説

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる