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7話
しおりを挟む昼間から寝室でフィンと無我夢中で身体を何度も重ね、気付けばもう夜中を迎えていた。
たっぷりと愛し合った余韻に浸るように、フィンと裸で抱き合いながら深い口づけを交わして。身も心も幸せに包まれていた。あとはあのストーカー女さえいなくなれば、完璧なのに。
「フィン。んっ」
私が舌をチラリと覗かせれば、フィンも躊躇うことなく舌を出して。ざらりとした生温い感触を堪能するように、お互いの舌を念入りに舐め合った。
「はぁ……シャーリー……」
「フィン……っ」
舌のキスで興奮を煽られたのか、フィンは唇を密着させて口づけをより深くさせていく。ぬちゃぬちゃと唾液が混じる音を立てて互いの口内を貪れば、下腹部を疼くような熱がじんわりと広がっていった。
この深くて甘い口づけだけは、私だけのものだったのに。あのくそ女、私のフィンにディープキスまでしやがった。本当に本当に許せない。今度フィンに触れたら、四肢を引き千切って──
「シャーリー。どうしたの?」
「え?」
突然唇を離されたと思ったら、フィンが私の眉間をほぐすように指先で触れてきた。
「眉間にシワ寄ってる。なんか怒ってる?」
顔を顰めて尋ねるフィンに、ほんの少しだけ、胸の奥につっかえるようなモヤモヤが生まれた。
フィンもフィンよ。あれだけ気を付けろって言ったのに、簡単にキスされて。舌を入れられてもされるがままで。泣くほど嫌だったのなら、我慢しないでソフィアを殴り飛ばしてくれれば良かったのに。
例えどんな脅しをされても、撥ね付けて欲しかった。私以外とキスなんてしないで欲しかった。
「……フィ、フィンのバカ……」
心の中で留めようとした言葉が漏れた瞬間、瞳から滝のように涙がこぼれ始めた。急に泣き始めた私に、フィンは大きく目を見開いて。頭を撫でながら、宥めるように何度も口づけをした。
「泣くな、シャーリー。何があったか、ちゃんと教えてくれ」
「んっ、んっ」
ちゅっ、ちゅっ、と啄むようなキスを交わしながら、フィンの首に腕を回す。そして、強張った喉に唾を流し込み、震える唇をゆっくりと開いた。
「フィ、フィンは私の旦那さんなのに、他の女と二回もキスするから」
「シャーリー……」
「私以外とキス、しないで。嫌なの。本当に嫌なの」
キスすると言うよりはキスされた、と言う方が正しいかもしれないけれど、それでも嫌なものは嫌。
フィンと出会ってから七年、恋人になってから五年、結婚してから二年。そろそろ落ち着いてもいいはずなのに、時が経っても彼への執着心が薄れるどころか膨れ上がるばかり。他の女が少しでも彼に近寄れば、直ぐにやきもちをやくし、牽制もする。髪の毛の一本だって触れられたくない。こんなにも醜い嫉妬をする自分が本当に嫌だ。
「シャーリー」
フィンは口づけを止めると、微かに震える私の身体をそっと抱き寄せて、背中を優しく擦った。
「ごめん、シャーリー。傷付けて本当にごめん」
「ダメ。許さない」
「困ったな。どうしたら許してくれる?」
私を抱き締めながら、耳朶に音を立ててキスをするフィン。
フィンは寧ろ被害者側だからそこまで責めるのは間違いなのかもしれないけれど、ちょっとくらい不貞腐れてもバチは当たらないはずだ。
「……じゃあ、今度の休みにデートして」
「そんなんでいいのか?」
熱い吐息が混じったフィンの声が、耳に吹きかかる。問い掛けに答えるように、ぎゅっとフィンの身体を抱き締めて小さく頷いた。
「優しいな、シャーリーは。デートで許してくれるんだ」
「ん。心が広いの」
まぁ、あのストーカー女は死んでも許さないけどな。二度とフィンに近付けないように、身体を切り刻んで鍋でじっくり煮て、最後は肉食獣に食わせて──
「そう言えば、前も思ったんだけど」
「んぇっ」
頭の中に思い浮かべていたグロテスクな処刑方法が、フィンの一声によって遮られる。抱き締められた腕からフィンの顔を覗き込んだのと同時に、彼の口から思いがけない疑問が放たれた。
「何で、シャーリーは俺とソフィアがキスしたこと、知っているんだ? あの場にいなかったよな?」
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