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6話
しおりを挟むストーカー女によるディープキス事件が起こってから、何処へ行くにもフィンは私にべったりとくっ付いて回るようになった。
恐らくソフィアと二人きりになるのが怖いからだとは思うのだけれど、密着具合が半端ない。
手を繋いだり、後ろから抱き付いたり、頬や額にキスをしたり、今まで以上に人目を気にすることなく私に触れてきて。そして今、使用人達もいる部屋の中で堂々と熱烈な口づけを彼にされている。躊躇うことなく舌までねっとりと絡められ、一瞬だけ戸惑いはしたものの、扉の影からソフィアが恐ろしい形相で睨んでいることに、ふと気付いてしまった。
──ふん。見てなさい。私達が愛し合っている姿を。
直ぐ様、彼女に見せつけるようにキスを受け入れ、フィンの首に腕を回しながら、態とらしく何度も角度を変えて唇を這わせた。
「ん……フィン……好きよ。愛しているわ」
「俺もだ。シャーリー、愛している……」
声がソフィアに聞こえるように愛の言葉を紡ぎ、唇をぴったりとくっ付けたまま、身体を密着させるように抱き合う。
そうしたら、ソフィアは下唇を血が滲むほど噛み締めながら、肩を震わせていて。彼女の嫉妬が空気を通して犇々と伝わってきた。
ふっ。いい気味だわ。あんたがフィンにした野蛮なキスは、犯罪的無理矢理行為だけど、私とフィンのキスは深く愛し合っている上での同意的行為よ!
あんたには一生することが出来ない、私達だけに許された身も心も蕩けてしまうような愛の行為。一生そこで指をくわえて見ていたらいいわ! バーカ!
──と、フィンの舌の動きに応えながら心の中でソフィアに毒を吐く一方、困っていることもあった。
フィンがいつでもどこでも私の傍にいてくれるのは勿論嬉しい。寝る時も、本を読む時も、音楽を聴く時も、食事をする時も、家で仕事をしている時も、シャワーを浴びる時もずっと一緒。
嬉しいのは嬉しいんだけど、お陰様で一人になる時間を完全に失った。つまり、モニター室に行く時間が無くなってしまったのだ。
セバスチャンに必要な証拠は集めて貰ってはいるけれど、決定的な裏付けが足りない。
そう。ソフィアを完全に追い詰めるには、まだ準備が整っていないのだ。
だから、モニター室で情報収集と整理をしたいんだけれど──
「フィ……ン……」
フィンは身体を離すどころか、唇すら離してくれない。口づけに夢中になって周囲のことを忘れてしまったのか、私の腰を厭らしい手つきで撫で回し始めた。完全にセックスを始める態勢を整えている。
「んっ、フィン……っ!」
流石に昼間から皆が見ている前で、これ以上の行為をするのは不味い。
慌ててフィンの厚い胸板を押して、くちゅりと唾液が絡まる音を立てながら唇を離した。
「ダメ……っ! こんな皆が見ている部屋で……!」
「ん? それなら、寝室に行こうか」
フィンは唾液に濡れた艶やかな唇で囁き、有無を言わさずに私の身体を軽々と両腕で抱き上げた。
違う。そういうことじゃない。そういう意味では無いんだけれど、フィンに甘い口づけをされたら何も言葉を返せなくなってしまって。気付けば身体を完全に彼に委ねてしまっていた。
ああ、私はフィンという人間に本当に弱い。大好きな彼に求められたら、拒むことなんて出来やしない。
「フィン……」
淡い吐息を溢し、甘えるように彼の首に顔を擦り寄せる。
扉の前を通り過ぎた刹那、視界の端に今にも発狂しそうな醜い顔のストーカー女が映ったような気がしたけれど、きっと見間違いだ。怨霊か何かの類いだと思っておこう。
「俺の可愛いシャーリー。今日は寝させないから」
「やだ、もう。フィンったら。ふふっ」
まるで新婚ホヤホヤのような阿呆丸出しの会話をしながら、フィンの頬に何度も口づけて。そのまま彼に抱かれた状態で、寝室へ。
──そして結局、情報収集のことは頭からすっぽ抜け、フィンと夜まで甘い一時を過ごすことになった。
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