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6話
しおりを挟む情欲を剥き出しにして身体を重ねて、そのまま眠りに就いた後──
夫の甘い口づけで目覚めたエルヴィールは、素肌をぴったりと重ねるようにしてスコールの逞しい身体に両腕を絡めた。
二人で一緒に朝を迎えられるなんて、今まで思ってもみなかったこと。自然とエルヴィールの口元が綻んでいく。
「……スコール様。おはようございます」
「ああ、おはよう」
近くにあった唇が触れ合い、音を立てて離される。深い愛情の感じられる夫の接し方にうっとりした表情を浮かべると、スコールは困ったように笑みを綻ばせた。
「スコール様、好きです。大好きです」
「分かっている。昨日それは十分に伝わった」
「今日からは寝室も一緒ですよ? ちゃんと一緒に寝てくれないと嫌ですからね」
華奢な身体でぎゅっぎゅっと抱き付く妻に、スコールはどこか幸せそうな表情を浮かべながらエルヴィールの長い髪を指先で梳かす。
「そういえば、何故スコール様は雷が苦手なのですか?」
ふと、エルヴィールの唇からこぼれた疑問。
滑らかに妻の髪を撫でていたはずのスコールの手が、石のように硬直した。
「……言わなくては駄目なのか」
「別に言わなくてもいいですけど、隠し事をする人は嫌いです」
「……」
柔らかな表情を浮かべていたスコールの顔が一気に険しくなる。暫く願いを乞うように見つめられたものの、エルヴィールはニコニコと笑っているだけで何も言葉を返さなかった。
スコールの喉の更に奥深くから、深すぎる溜め息がこぼれ落ちる。
「……昔、あれは八歳だった頃だった」
「はいっ」
目を輝かせて顔をぐっと近付けるエルヴィール。
待ってましたと言わんばかりの表情に、スコールは一瞬顔を顰めつつも小さな声で話を続けた。
「あの頃は剣の腕が全く上達しなくてな。父親に屋敷から離れた小屋まで連れられて、此処で血を吐くまで一人で訓練しろと閉じ込められたんだ」
「まぁ、酷いお父様」
「一人にされた後、不運なことに嵐が来てな。暴風雨で小屋が壊されそうになっただけではなく、近くに雷まで落ちて山火事になったんだ。その後は無事に救出されて、父親は母親に散々怒られていたが」
昔の記憶が甦っているのか、スコールの顔が青白く変わり、大きな身体がぶるりと震える。
彼の話に、一昨日の夜と昨夜の記憶が繋がった。子犬のように毛布にくるまって震え、落雷の音に驚いて寝室から逃げ出したあの衝撃的な姿が。
(異様なほどに怯えていたのは、そういう理由があったのね)
エルヴィールがスコールの髪を慰めるように撫でてやると、直ぐに安心したように目元をくしゃりと綻ばせた。
なんて可愛い顔をするのだろう。腹の内側がゾクゾクと震え上がって、また襲いたくなってしまう。
「……今はエルヴィールがいるから大丈夫だ」
「まぁ。でもスコール様が浮気でもしたら、私も同じことをするかもしれませんよ?」
「浮気なんて絶対にしない。私が愛しているのはエルヴィールだけだ」
スコールはエルヴィールの頬を優しく撫でると、甘えるように唇に吸い付いて。身体をより一層きつく抱き締めた。
今までの無愛想な態度からの可愛い豹変っぷりに、先程から身体の奥底から熱が疼いて止まらない。
少しだけ、可愛い旦那様に意地悪をしてあげようかしら。
「ではスコール様、私がもし浮気をしたらどうします?」
完全に蕩けきった表情を浮かべていたスコールに、ちょっとした悪戯心から生まれた疑問を投げ掛ける。すると、スコールの眉が分かりやすいほどに吊り下がっていき、あっという間に捨てられた子犬のような顔に成り果てた。
「……そんな男がいるのか」
「いません。私が愛しているのはスコール様だけです」
「ならいい。お前の気持ちが変わらないように努力する」
スコールの緋色の瞳が細められ、再び端正な顔が近付く。そのまま、額、頬、鼻先、唇と、キスの雨が降り注ぎ、エルヴィールの唇から艶やかな声がこぼれた。
「……なぁ、エルヴィール。もう一回……」
「あっ、旦那様。大変です。もうこんな時間」
エルヴィールは脱ぎ捨てていた服と共に置いてあった懐中時計に手を伸ばし、スコールにそれを見せる。途端にスコールの表情は一変し、勢い良くその場を起き上がった。
「ま、まずい。今すぐ外に……!」
「あっ、旦那様、待って!」
相当慌てていたのだろうか。服どころか下着すら身に付けずに素っ裸で部屋の外へと飛び出すスコール。エルヴィールは急いで寝着を身に纏い、その場にあった夫の服をかき集めて後を追った──が、既に手遅れで。
スコールの裸体を目の前に悲鳴を上げる侍女達と鉢合わせしてしまった。
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