【R18】悪女と冴えない夫

みちょこ

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最終章 悪女と冴えない夫

最終話※

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 はっきり言って、心の底から自分を呪いたいと思った。こんなにも可愛く愛おしい妻との初めてを記憶の端にも覚えていないだなんて。
 酒を呑んでエイヴァを襲った自分を強姦魔にすら思える。

 アルフィーは心に決めた。
 もう一生、酒は呑まないと。絶対に。

「ふふっ、アルフィー様。くすぐったいですよ」

 先ほどから受け身状態でエイヴァと性交していたアルフィーは、今度こそ自分からと寝室に入るなりエイヴァを押し倒した。すでに数回は果てていたのだが、それでも騎士として鍛えた体力がまだ残っていたらしい。
 頬を果実のように染める妻を見ていたら、すぐに身体が臨戦態勢に入った。

「エイヴァ。好き、好きだよ」

「アルフィー様……」

 アルフィーは妻の柔らかな頬に、鎖骨に、胸に、臍に、そして混じり合った性液で濡れた陰部に唇を落とす。
 エイヴァの身体はどこもかしこも美しい。舌を這わせれば、甘さすら感じられる。アルフィーは身体を何度も繋げた蜜口に何度も口づけると、怒張した雄をゆっくりと充てがった。

「あっ、ああっ」

 エイヴァの声色が艶めいたものへと変わる。
 幾度の交わりでほぐされていた媚肉はぬぷぬぷとアルフィーを受け入れ、あっという間に最奥まで呑み込んでいった。
 重なった茂みが互いの肌をチクチクと刺激し、それすらも快楽として拾ってしまう。

「エイヴァ……」

 ここまで来たらもう自分の番だ。
 寝室に来るまでの五回、すべてエイヴァに鳴かされてしまったが、このままでは男の名が廃ってしまう。格好いい夫の姿を今、見せるときが来た。

「エイヴァ……いくよ」

 不自然に力が入ってしまった声に、エイヴァは無言で頷く。
 アルフィーは深く息を吐き、エイヴァと指を交互に絡め、身体を動かそうとしたそのとき。

「あ゛っ」

 腰の奥が歪な音を立て、筋肉が突っ張るような鋭い痛みに襲われた。
 無論、このままの状態で腰など動かせるわけがない。かと言って、エイヴァのナカから一物を引き出せる余裕もない。

 アルフィーはぷるぷると身体を痙攣させ、嗄れた声を喉の奥から漏らす。

「アルフィー様。どうかなされたのですか?」

「あ……あ……っ、こ、しが……」

「腰? 腰がどうしたのです?」

 眉をひそめるエイヴァにまともに受け答えすることもできない。
 アルフィーは最後の力を振り絞ってエイヴァから分身を抜き、横から寝台に倒れた。

「アルフィー様! 大丈夫ですか!」

「ご、ごめ、エイヴァ……その、しすぎで、腰がやられた……」

 口から辛うじて出せた声もなんと情けないことか。アルフィーはあまりの不甲斐なさに泣きそうになりながら、差し出されたエイヴァの手をぎゅっと握り締めた。

「大丈夫ですよ、アルフィー様。今日はゆっくりとお休みになって」

「ううっ、ごめん……」

「そんなところも含めて大好きです。おやすみなさい、旦那様」

 悔しさと情けなさから歯を食い縛るアルフィーに、エイヴァは額へと口づける。まるで母親に宥められる子供のようだ。

 いつの日か、冴えない夫の座から離れる日は来るのだろうか。

 アルフィーは腰の激痛とエイヴァの温もりに包まれながら、意識を夢の中へと手放していった。

 




***





『……アルフィーさま……っ……』

 眼前に広がっているのは、惜しげもなく肌を晒したエイヴァの姿。きめ細やかな白い肌に残された無数の赤い痕。潤んだ瞳。黄金であるはずの髪はなぜか真っ黒だ。
 あまりの美しさに溜め息さえ溢れてしまう。
 アルフィーはエイヴァの目尻に溢れた涙を唇で掬い、彼女の両脚を腕に抱え込む。妻の美しい蜜口が露になる。蜜がとろとろと溢れてくるその光景に、アルフィーは生唾を呑み込んだ。

 何だか尻が痛いような気がするが、そんなことはどうでもよくなるほどエイヴァが綺麗だ。

『続き、致しましょう……?』

 アルフィーは欲望の赴くまま、己の雄をエイヴァのナカへ押し込もうとした──が、視界が突如として暗転した。






「え?」

 真っ暗になったかと思えば、目の前の景色が真っ白に。アルフィーは瞬きを何度も繰り返し、周囲を見渡す。どうやら夢を見ていたらしい。一緒に寝ていたはずのエイヴァの姿も見当たらない。

「まさか……あれも夢?」

 アルフィーは寝惚けたまま重たい瞼を擦る。

 試しに毛布を捲ってみたが、やはり裸だ。どこからどこまでが現実か幻なのか、皆目見当もつかない。エイヴァが自分を襲ったり、かと思えば自分から逃げたり、素直な可愛い顔を見せたり甘い声を出して愛し合ったのも夢だったのだろうか。そういえば昨夜、最中に腰をやってしまったはずなのに、痛みが嘘のように消えている。代わりになぜか尻が痛い。変な体勢で寝ていたのだろうか。
 ──だがそれにしても、昨日の夢は幸せに満ち溢れていた。エイヴァがとてつもなく可愛かった。夢の続きをまだ見ていたい。

「へへ、もう一回寝よ……」

 アルフィーはいそいそと再び毛布の中に潜伏しようとした──が、勢いよく身包みは剥ぎ取られてしまった。

「さ、さむ……へくしゅ!」

「旦那様、何をしているのですか」

「え? あっ」

 声につられて顔を上げると、そこにはエイヴァが無表情で佇んでいた。皺一つない質素なドレスを身に纏い、黄金の髪は一つに束ねられている。
 目つきはまるでゴミ屑を見るようなそれだ。何だか懐かしさすら感じられる。

「あっ、エイヴァ。おはよ」
「早くしないと遅刻しますよ。準備してください」

 挨拶すら遮られた。
 愛し合った後の余韻すら微塵も感じられない。

 ちょっぴり哀しい気持ちに見舞われたアルフィーは、秒で背を向けたエイヴァを見つめながら眉根を寄せる。
 もしかしたら、昨夜のことは本当に幻だったのかもしれない。もしくは大事な営み中に不意打ちの腰痛が原因で雰囲気が壊されてしまったから、怒っているのだろうか。どちらも可能性としては十分にありえる。

 アルフィーは疑問を抱えながらもいそいそと正装に着替え、紅茶の香りが漂う食卓へと足を運んだ。

「……ん?」

 いつもは形崩れすらしていない卵料理が焦げている。向かいに座るエイヴァの朝食に至っては、更に真っ黒焦げだ。  
 いくら自分が屋敷の主人だからと言って、エイヴァに失敗作を食べさせるわけにはいかないだろう。かと言って料理人に直接文句を言う度胸もない。
 アルフィーはしばらく朝食を眺めたあと、料理人に見られないようにこっそりエイヴァと朝食を入れ替えた。

「だ、旦那様?」

「エイヴァの料理の方が美味しそうだなと思って。交換してよ」

「いえ、でも」

「ほら、早くしないと端ないって思われちゃう」

 エイヴァが止めに入る前に、アルフィーはぽいっと口の中に料理を放り込む。

 絶妙に苦い。味付けもいつもと異なるような気がする。だがしかし、残すなんて勿体ないことはしない。せっかく人様が心を込めて作ってくれた料理だ。
 アルフィーは綺麗残さず料理を平らげた。

「よし、ご馳走さま」

 顰めっ面を浮かべたエイヴァが何となく気がかりだったが、アルフィーは駆け足で外出の準備をした。急がないと遅刻してしまう。

「これ持った、あれ持った、あとは……」

 玄関先で足を止め、さりげなく振り返る。やはり、普段通りエイヴァが見送りのためについてきていた。顔はいつもと変わらず、真顔のままだが。

「いってらっしゃい。お気をつけて」

 淡々とした口調で告げる妻。
 よくよく見たら口の端にパンの欠片がついたままだ。急いで追いかけて来てくれたのだろうか、無愛想でも可愛くて仕方がない。

 アルフィーはしばらく考え込むようにエイヴァの顔をじっと見つめ、一度は外に出ようとしたものの、くるりと踵を返した。

「いってきます!」  

 勢いでしてしまえと、アルフィーはエイヴァの頬にちゅっと口づけた。
 殺されはしなくとも、怒られるかもしれない。アルフィーが恐る恐る目を開ける──と、顔を真っ赤にして目を丸くするエイヴァの顔が見えた。

「な、なんてことを……!」

「え?」

「あ、あんなことをした後だったから、ちょっと気まずくて朝に素っ気ない態度を取ったのに怒ったりもせず、それどころか私が作った料理も残さず食べて、こっ、こうしていってきますのキスまでするとは……!」

「えっ、あれエイヴァが作っ……ん、んむっ!?」

 有無を言わさず、エイヴァはアルフィーにむちゅりと口づける。それも軽く触れ合わせるようなものではなく、熱烈なもの。アルフィーは息苦しさに身悶えたが、エイヴァは構わず夫の唇にちゅぅっと吸い付く。
 そして、二人のすぐ側で、使用人達が生暖かい目でいつも通り並んで彼等を見守っていた。

「んんっ、わ、わかっ、エイヴァ、わかったか、ら、ながい、ながい……!」

 必死になって肩を叩くアルフィーに、エイヴァはやっと唇を離す。アルフィーがぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返す中、エイヴァはアルフィーの腰から尻に腕を回し、甘えるように抱きついた。

「ごめんなさい、旦那様。昨夜、私が無理をさせたから……もうは大丈夫ですか?」

「は……はぁ、え? あっ、腰のこと? 大丈夫。何ともないよ」

「よかった」

 エイヴァは安心したように笑みを浮かべる。
 尻を揉むように触られているのが気になるが、笑顔が可愛くて心から癒やされる。

 やっぱり昨夜の件は夢ではなかった。
 厭らしく尻を揉まれ続けているが、心の底から安心した。エイヴァと初夜を過ごせたのも真実だったのだ。

「今日、早く帰ってきてくださいね。すっごくのでアルフィー様としたいことがあるんです」

「したいこと? あ、あぁ。分かった。へへっ、分かった」

 色っぽい表情で懇願され、アルフィーの頭の中は桃色に染まる。夫婦ですることなんて一つしかない。あれだけ愛し合った後なら尚更だ。今日は王都見回りが終わったらすぐに──

「あと、これ。アルフィー様に私からの贈り物です」

「え?」

 そろそろ仕事に行かねばとアルフィーが玄関の取手に手を伸ばしたのとほぼ同時、エイヴァが付き添いの使用人から何やら受け取っていた。

 細長く蛇のようにうねうねとした奇妙な物体を。

「何それ」

「男性の一物の血流と精液の動きに反応し、ぎゅぎゅっとしてくれる植物です」  

「意味が分からない」

「つまり、アルフィー様が他の女性に興奮したら、私の代わりにお仕置きしてくれる優秀な方です」

 実にいい笑顔でエイヴァは説明する。
 一歩ずつじわりと迫ってくる。

 アルフィーはさっと顔を青褪めさせ、すぐさま後ろ手でガシャンと扉を開けた。

「アルフィー様、今すぐ一物にこれをつけてください」

「嫌です」

「待ちなさい」

「嫌です」

「逃げるな」

「い、嫌です!」

 迫真の笑顔で追いかけてきた妻に、アルフィーは叫び声を上げて屋敷の玄関口から外へと飛び出す。馬にも乗らず必死に逃げる夫を、妻は片手に軟体植物を持ちながら全力で追い掛けた。

「旦那様! 不貞行為は許しません!」

「そんなことしないって! 愛しているのは君だけだよ!」

「だったらつけなさい!」

「絶対に嫌です!」

 わぁわぁと叫びながら賑わう王都の道を走る二人。結局、騎士団本部に辿り着く前にエイヴァに捕まったアルフィーが泣く泣く分身に植物を巻き付け、満足した妻にいってらっしゃいのキスをされて愚息が反応してしまい、大惨事に見舞われてしまったのはその数秒後のこと。

 寝室でなぜかエイヴァに「アルフィー様の初めてをください」と新たな植物を片手に持ちながらお尻を追いかけ回されたのはその日の夜のこと。

 度重なる戦績を評価され、栄誉授与式にて表彰される際に騎士団員達の前で盛大に転けてしまったのはその二年後のこと。

 副騎士団長就任式の初めての講演で、緊張のあまり呂律が回らなくなってしまったのはその五年後のこと。

 エイヴァが初めての子を授かったと知り、人目も憚らず声に出して泣いてしまったのはその七年後のこと。

 彼が冴えない夫から卒業できる日は、まだ先になりそうだ。


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みんなの感想(18件)

2021.12.21 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

みちょこ
2021.12.25 みちょこ

煉瓦様

感想ありがとうございます!
返信が遅くなりました💦

面白かったと言っていただけて嬉しいですヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
新作投稿やら連載投稿が落ち着いたらちょっとチャレンジしてみようかな……!?
気長にお待ちいただけると幸いです♡

解除
おゆう
2021.12.11 おゆう
ネタバレ含む
みちょこ
2021.12.12 みちょこ

おゆう様

感想ありがとうございます✨✨

ざまぁがあまり得意ではないので、別枠としましたヾ(*´∀`*)ノ
ちょっとやりすぎた感😂

解除
とまとさん
2021.12.10 とまとさん
ネタバレ含む
みちょこ
2021.12.12 みちょこ

とまとさん

感想ありがとうございます✨✨
彼は記憶の彼方へ……

解除

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