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第2章 悪女らしい妻
11話 sideエイヴァ※
しおりを挟む二人で迎えてしまった初めての朝。
裸体でベッドに横たわっていたエイヴァは、瞳孔を開いたまま昨夜の情事を走馬灯のように思い返していた。
焦れったくなってしまうほど蜜口を厚い舌で舐められ、長い指で奥まで擦られて。初めての性行為は相当痛いから覚悟しておけと婆やに脅されていたが、圧迫感こそあったもののアルフィーに抱かれているという高揚感と悦びが明らかに勝っていた。
(きっと、相手がアルフィー様だから)
エイヴァは背中から回されたアルフィーの手に自らの手を重ね、熱を分かち合う。耳元から『えいゔぁ~』やら『うへうへ』と変な声が聞こえたが、それさえも心地良い。
寝ていても自分をしっかりと抱き締めてくれる愛する夫の温もりをもう一度噛み締め、アルフィーの顔を見ようと振り返ろうとしたそのとき──
さっと背中から熱が引いていった。
『えっ!?』
突然聞こえた素っ頓狂な声に、エイヴァは反射的に顔を隠すように身を縮める。
どうやらアルフィーの目が覚めたらしい。
起きたら迷わずおはようと言ってまた仲良し小好ししてしまおうと思っていたけれど、ここにきてエイヴァは恥ずかしくなってしまった──のだが。
『え……えっ!?』
状況を把握できていないのか、アルフィーは何度も吃驚している。
どうして驚いているのだろうか。
昨夜、初めてにも拘らず三回も致してしまったというのに。あんなにも名前を何度も呼んで愛してくれたはずなのに。
『あ、アルフィーさま……』
どうしたのですか、と問い掛けようとしたときにはアルフィーの姿はすでになかった。
残されたのは脱ぎ捨てられた服のみ。まさか、素っ裸で外に出てしまったのか。
『そ、そんな、美しい御体を公衆の面前に晒してしまったら、男女問わず襲われてしま……うっ!?』
すぐさまベッドから降りようとしたエイヴァだったが、股間に激痛が走った。
痛い、痛い、とても痛い。
足の小指をぶつけたときよりも遥かに痛い。
最中にそれほど痛みを感じなかったのは、愛の力で封じ込められていたからだろうか。
『ふ、んぐっ、ま、まっで、アルフィー様……!』
エイヴァは鈍痛に耐えながら服を纏い、騎士団本部を飛び出した。もちろん、目的地は逃げ出した夫の元。エイヴァは予め手配しておいた馬車に乗り込み、アルフィーに不審に思われないようにと屋敷へ戻り、普段通りの姿を装って夫を出迎えた。
まさか、妻を抱いたことを忘れるはずがないと、願いにも近い想いに縋りながら──
「と思ったけど、やっぱり忘れているじゃないですか」
「い゛っ」
エイヴァは怯え震えるアルフィーの頬をつねり、両側に容赦なく引っ張る。昨夜の件を一纏めに分かりやすく話したものの、アルフィーが何かを思い出した様子はない。めそめそと泣いたままだ。
「ごめんなひゃい……」
「許しません」
「えいゔぁ……」
妻は上裸、夫に至っては全裸。こんな状態で説教するのもちょっとあれだが、覚えられていないのは無性に腹が立つ。
やはり、エイヴァが一方的にアルフィーを愛しているだけなのかもしれない。
「……旦那様は昨日たくさん私に触れました。ほら、こんな風に」
「あっ」
エイヴァはアルフィーの胸を優しくなぞり、筋肉を纏った腹部を擦る。そのまま繊細なものを労るように唇を何度も肌に押し当てる。
「んっ、だめだって、あっ」
「私の身体に何度もキスをして、舌で擽って、こうやって、何度も、優しく」
顔全体を真っ赤に染めながら、アルフィーは唇を結んで必死に声を堪えている。昨日の余裕っぷりを見せていた姿とは大違いだ。ぞくりと下腹部に愉悦を覚えてしまったエイヴァは、滑るように身体を引き、剥き出しになったアルフィーの男性器に焦らすような口づけを落とした。
「エイヴァ、汚いから、やめて」
「私も昨日、同じことを言いました。けれどもアルフィー様は……あら? あらら? 覚えていないのですか?」
「うっ」
ばつが悪そうに眉根を寄せるアルフィー。ちょっと意地悪なことを言ってしまっただろうか。反省はしていない。
エイヴァは勃ち上がった男根を見据えたまま、躊躇なく口に咥えた。ちらりと視線を向けると、ふるふる涙目で首を横に振るアルフィーの姿が見えた。
こんな時でも憎たらしいほど可愛い。
だがしかし、これはこれ。それはそれ。許す許さないとは別問題である。
エイヴァは舌で裏筋を舐め、亀頭とカリを刺激するように頭を上下に動かした。
「やっ、だ、だめ、だめだ」
「イッてくらはい。アルフィー様」
「~っ!!」
生温かいエイヴァの口の中に、勢いよく精が放たれる。苦々しい味が咥内いっぱいに広がったが、これはアルフィーの身体から漏れた貴重な体液。吐き出すだなんて勿体ないことはしない。
エイヴァは迷わず精液を飲み込み、息を切らしているアルフィーに口づけた。
「アルフィー様、よくできました」
「ううっ、美味しくない……」
「そんなことないですよ」
とても甘い味がします、と嘘を交えてエイヴァは淫らにアルフィーと舌を絡める。アルフィーも顔は顰めていたものの、拒まなかった。控えめではあるが、彼なりにエイヴァと動きを同調させようと必死に舌を動かしている。
くちゅくちゅ、と何度も交互に角度を変えて口づける二人の唇の隙間からとろりと唾液が垂れ落ちていった。
「エイヴァ……」
「……んっ」
「エイ、ヴァ……」
口づけを受け入れてはいるが、アルフィーはまだ鼻を啜っている。喉の奥からうっうっと嗚咽を漏らしている。まるで子供みたいだ。どうしてそんなに泣くのだろうか。
エイヴァが仕方なく唇を離したのと同時、アルフィーが唾液と涙で艶めしく濡れた唇を開いた。
「ごめん、エイヴァ」
「何が」
「知らなかった。エイヴァがあの場にいたの、分からなかった、ごめん」
「そこは気にして、あっ」
ぎゅうっ、と肌と肌を密着するように抱き締められ、エイヴァの柔らかな双丘がアルフィーの胸に潰される。突然の抱擁に戸惑いながらも視線を戻すと、水晶のような瞳を潤ませて嘆くアルフィーの顔がエイヴァの視界に飛び込んだ。
「抱いたとき、痛かった……?」
そっと頬を両手で包まれ、鼻先をちょこんと触れ合わせられる。
まるで天使が涙を流すかのような美しい顔に、頬を赤らめ口から淡い息を漏らした扇情的なその表情に。エイヴァは目を見開き、息を止め、そして。
「……鼻血出てる」
「えっ」
してやられた。まさか粘膜的接触を図らずとも動揺させてくるとは。
エイヴァは内心乱舞するほど興奮し慌てながらも、何とか平静を装い鼻血を指で拭き取る。いけない。このままでは今までと同じ流れに持っていかれてしまう。
「き、気にしてません。私はただアルフィー様が覚えていなかったことを」
「もう一回チャンスがほしい」
「ええ、そうですね。もう一回チャ……えっ?」
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