【R18】悪女と冴えない夫

みちょこ

文字の大きさ
上 下
2 / 16
第1章 冴えない夫

2話

しおりを挟む
――3か月後

桜が綺麗に咲く季節がやってくる。

私は無事2年生に進級した。


新学期初日、今日から私の新しいクラスとなる2年3組の教室。

その扉の前で私は深呼吸を繰り返しながら緊張した面持ちで立っていると、ふいに後ろから声を掛けられる。


「ねぇあんた、そこ邪魔なんだけど」

「あ、ごめんなさい!」


入り口の扉を塞いでしまっていた私は慌てて声の主に謝罪をしながら振り返る。


「げ、あんた……」


振り返った私の頭上からは、何だかとても嫌そうな声が聞こえてきて、私は「え?」と顔を上げた。

するとそこにはどこか見覚えのある、懐かしい人物が立っていて。 


「……え……えぇ? 先輩? えっと確か……月岡佑樹先輩!」


胸元につけられた名札をチラリと見ながら私はその人の名前を呼んだ。

その人は去年の秋、まだ私がクラスに馴染めなかった頃に何度かお世話になった1学年上の先輩で、階段から落ちかけた私を偶然にも助けてくれた人だった。


「え?どうして先輩が2年の教室に?」

「どうしてって……見りゃ分かるだろ。ここが今日から俺のクラスだからだよ」

「えぇ?!どうしてですか? だって先輩は先輩のはずじゃ……」

「るっせーな。留年したからに決まってんだろ」

「えぇ~留年?!」

「バカ、大声だすな」


恥ずかしそうに周りをキョロキョロ見ながら月岡先輩は慌てた様子で私の口を塞ぐ。


「ご、ごめんなさい。でも、どうして留年なんて?」

「単位が足りなかったんだよ。去年9月に事故にあって、今までずっと入院してたからな」

「えぇ……そうだったんですか。それは大変でしたね……」

「哀れんだ目で見るな。むかつく。それよりあんたは? その後どうだったんだよ。まだいじめられてるのか?」

「あ、そのせつは色々とお世話になりまして――」


私が先輩に近況を報告しようとした丁度その時、後ろから声を掛けられ振り返る。

そこには安藤さんと石川さんの姿があった。


「ちょ、ちょっと葵葉?! そのイケメン誰?!」

「あ、安藤さん。おはようございます」

「あれ、こいつ、お前のこと階段から突き落と――」



先輩が言いかけた言葉を何となく察して、今度は私が先輩の口を両手で塞いだ。


「どうしたの、葵葉?」

「いえ、何でも」


突然の私の行動に驚いた顔の二人に軽く咳払いしてみせながら、私は先輩と安藤さん達お互いの自己紹介をした。


「えっと、お二人にご紹介しますね。こちらは月岡佑樹先輩って言って、前に何度かお世話になった方なんです。で先輩、こちらは安藤さんと石川さん。今日から先輩のクラスメイトになる方達ですよ」

「ど、どうも。私達この子の友達で安藤可奈子って言います」

「私は石川咲良です。宜しく~」


二人が月岡先輩に向けて自己紹介している内容を聞きながら、私は不意に自分の顔がかぁと赤くなるのを感じた。
安藤さんが口にした“友達”の言葉が嬉しくて。

そんな私の姿を見ながら、先輩は何かを察したようのに「ふ~ん」と溢しながら私達を交互に見比べていた。


「なるほどね。案外楽しそうじゃん、今のあんた。良かったな」


そしてそれだけ言い残すと先輩は、私の頭をポンと一度叩きながら、教室へと入って行った。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

溺愛御曹司の独占欲から逃れたい

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛御曹司の独占欲から逃れたい

処理中です...