【R18】婚約者の優しい騎士様が豹変しました

みちょこ

文字の大きさ
上 下
9 / 9

after story2

しおりを挟む


 父に情事の現場を見られてしまったレベッカは、別室へと一人連れ込まれ、お説教を食らっていた。

「全く、結婚式まであと一ヶ月だと言うのに、何故お前達は我慢ができんのだ!」

 両腕を組みながら仁王立ちをする父を前に、レベッカは身体を縮こめるようにして視線を落とす。

「……ごめんなさい。でもアレッサンドは悪くないんです。三ヶ月前に初めて誘ったのは私なんです」

「さ、三ヶ月前!?」

 声を裏返して目を大きく見開く父に、レベッカは慌てて口元を覆う。これでは三ヶ月前からずっとアレッサンドとセックスをしていたと告白しているようなものだ。
 レベッカの父は暫く微動だにせず固まっていたが、何かを諦めたように深々と息を吐き出した。

「……結婚前にお前達の寝室を一緒にしたのは間違いだったか。アレッサンドを信用した私が馬鹿だった。後であいつは、なぐ……きつく言っておこう」

「……お父様。ごめんなさい」

 レベッカは消え入りそうな声で謝罪し、唇をきゅっと結ぶ。レベッカの父は二度目の深い溜め息を吐き出すと、ゆっくりと手を伸ばし──レベッカの頭をくしゃりと撫でた。

「愛し合うことが悪いと言っている訳じゃない。ただ、正式な夫婦となる前に子を授かれば、誰よりも負担が掛かるのはお前なんだ、レベッカ。それを分かってくれ」

「……はい」

「今更かもしれないが、式まではお前とアレッサンドの寝室は分ける。分かったな?」

「…………はい」

 僅かな間を経てレベッカが頷くと、レベッカの父は胸の衣嚢からとあるものを取り出した。

 ──それは光輝くエメラルドの宝石が嵌められたネックレス。レベッカが首を傾げながらそれを見つめていると、父は何かを懐かしむような表情を浮かべた。

「……これは母さんが昔、結婚式の時につけたものだ。本当は式の前日に渡そうと思ったんだが、持っておきなさい。御守り代わりだ」

「お母様、の?」

「ああ、結婚式でつけるといい。一つしかないから、妹達には秘密にしておけ」

 眼鏡の奥の瞳を細めて笑う父に、レベッカの目頭がじんわりと熱くなっていく。

 ──馬車まで父が自分を追い掛けてきてくれたあの時、父は家のことよりも娘である自分のことを心配してくれた。普段は家のことを優先しているように見えるけれど、その奥には何よりも深い家族に対する愛情があって。

 (……お母様が病で亡くなった後も、お父様は新しい妻を娶らなかった。跡継ぎとなる男が生まれなかったのに、それでも)

 そんな家族を誰よりも愛する父が本当に大好きなのだと、レベッカは改めて痛感した。


「……ありがとう。お父様」

 レベッカは父の背中に腕を回し、ぎゅっとその身体を抱き締める。父は一瞬戸惑ったような表情を浮かべたものの、直ぐに笑みを綻ばし、そっと娘の背中を撫でた。

 そして「幸せになりなさい」と優しい声で囁いた。










 ウィツールの王都にある大聖堂──

 純白のドレスを身に纏ったレベッカは、多くの人々に見守られながら、アレッサンドと聖壇の前で向かい合っていた。普段より美しさを際立たせた彼女の胸元には、父から貰った母の形見が翡翠色の煌めきを放っている。

「……綺麗だ。レベッカ」

 聖壇の前で誓いの言葉を立てる神父を前に、アレッサンドは穏やかな表情で笑い掛ける。

「ありがとう。アレッサンドも素敵よ?」

「いや。お前には敵わないな」

 周囲の人々に聞こえないように囁く婚約者に、レベッカはクスクスと微かな笑い声を漏らす。アレッサンドはつられるように柔らかな笑みを浮かべると、隣に佇んでいた神父が控えめに咳払いをした。


「──ではベールを上げてください。誓いのキスを」


 神父から告げられた言葉に、アレッサンドはレベッカの顔を覆ったベールをそっと捲り上げる。

 レベッカは愛しいアレッサンドと見つめ合い、引き寄せられるように一歩近付き。アレッサンドは彼女の肩に優しく手を乗せた。

「レベッカ。幸せにする」

「ふふっ。よろしくね、

「……え? おと……」

 目を大きく見開くアレッサンドの顔を見て、レベッカは微笑みを返して。繊細なものに触れるように、お腹の子の父親となる夫の唇をそっと塞いだ。



 (──愛しい私の婚約者。心優しいアレッサンド。私は貴方と幸せになります)



 唇から伝わる愛する人の温もりに涙を流し、レベッカは心の中で優しい婚約者に愛を誓うのだった。


しおりを挟む
感想 17

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(17件)

転生ストーリー大好物

ハッピーエンド、良かった

みちょこ
2020.08.25 みちょこ

感想ありがとうございます(^^)

ハッピーエンドでした✨

解除
海野すじこ
2020.08.22 海野すじこ
ネタバレ含む
みちょこ
2020.08.22 みちょこ

感想ありがとうございます(^^)

レベッカ妊娠ハッピーエンドでした✨
きっとこの先も二人は幸せに暮らしていけると思います!

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

解除
海野すじこ
2020.08.21 海野すじこ
ネタバレ含む
みちょこ
2020.08.21 みちょこ

感想ありがとうございます(^^)

作者がヒロインとヒーローのいちゃラブハッピーエンドが好きなもので(^o^;)

幸せなのが一番ですね💕

是非ラストは更新をお待ち頂けると幸いです✨

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました

Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。