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7話

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 それから二週間も経たない内に城から婚約解消の撤回が言い渡され、パトリツィアは隣国の王族へ輿入れさせることが決まったとの報せも同時に届いた。パトリツィアは「レベッカと会えなくなってしまう」と泣いて縋ったようだが、国王はそれを聞き入れることは無く。毎日王女は泣き腫らしているとのことだった。その噂を耳にしたレベッカは王女の為に「時間を作ることが出来れば、可能な限り会いに行きます」と手紙を書いて送ったところ、「お手紙もちょうだい」と可愛い我が儘が書かれた返事が直ぐに届いた。

 此れから忙しくなると苦笑するレベッカだったが、その後は大きな事件が起こることもなく、アレッサンドと共に幸せな時間を過ごしていた。



「レベッカ。もっと此方に」

「……はい」

 ベッドの上で寄り添うように寝ていたレベッカとアレッサンド。婚約者の艶めいた言葉に、レベッカはすり寄るようにして彼にゆっくりと近付く。アレッサンドはレベッカの身体を抱き寄せると、彼女の額にそっとキスをした。

「……レベッカ。私の愛しいレベッカ」

「アレッサンド……」

 夜は一緒に寝て、抱き合って、キスをして。

 これはいつもと変わらぬこと。しかし、アレッサンドはしてこようとはしなかった。つまり、レベッカの純潔は未だに散らされていなかったのだ。

 (……あの時は、あんなにも激しく求められたのに)

 レベッカは幸せを感じつつも、心の奥にじわじわと染み出す黒い蟠りが存在感を主張してきていることに気付いてしまった。
 アレッサンドは婚約解消騒動が起こる前の、優しい婚約者に戻ってしまって。それが悪いことだとは言わない。寧ろ喜ぶべきなのかもしれない。しかし、心の奥底では──

 レベッカはアレッサンドの腰に腕を回しつつ、唇を不満げにぎゅっと結んだ。そんな彼女の様子には気づかずに、アレッサンドはレベッカの頭を優しく撫で続ける。

「心優しいレベッカ。式を挙げるまではお前を大事にさせてくれ」

 (えっ──)

 アレッサンドの言葉に、レベッカは思わず彼の顔を見上げた。

 結婚式を挙げるのは、数ヶ月後。
 それまで、手を出さないということなのだろうか。
 やはり、あの時は状況が状況だったから、仕方なく愛の営みの疑似行為を働いただけであって。愛していると口では言っても、欲情はしていないということなのか。

 レベッカの心の中に悶々とした不満が込み上げていく。

「レベッカ?」

 やっとレベッカの異変に気が付いたのか、アレッサンドは眉を顰めて顔を覗き込む。

 もうレベッカは限界だった。

 あんなに淫らな行為をした後に、愛しい婚約者とただ添い寝を続けるだけの毎日を過ごすなんて。愛されていないのではないかという不安な気持ちと、身体の奥底に潜む劣情が爆発してしまいそうだった。

「レベ……っ!?」

 気付けば、レベッカはアレッサンドの身体に覆い被さっていた。
 瞬きを繰り返して硬直する婚約者を見下ろしながら、レベッカはゆっくりと顔を近付けていく。

「アレッサンド。どうして私を抱かないのですか」

「な、だ……ど、どうしたのだ。いきなり」

「いきなりではありません。毎晩同じベッドで眠りながら、手を出さないのは私に魅力が無いからということでしょうか」

 レベッカは更に顔をぐっと近付ける。
 もう、少し動けば唇が触れ合ってしまいそうな距離で。
 アレッサンドの喉仏が唾を呑み込む音を立てて上下に動いた。

「落ち着け、レベッカ。万が一、式の前に子供が出来てしまったら……」

「まぁ、あの時お父様に強気な態度を取られたアレッサンドはどこに行ってしまわれたのですか? どうせお父様には馬車の件で一線を超えたと思われているかと。それに」

 レベッカはアレッサンドの唇を一周するように舐め、厭らしく音を立てて吸い付いて離して。乱れたシャツから覗かせる胸に手を添えれば、アレッサンドの心臓がドクドクと音を立てて波打っているのが分かった。

「……愛する人にただならぬ色気を出されながら、襲わない方が無理と言う話ですよ。アレッサンド」

 にっこり笑うレベッカを前に、アレッサンドは喉の奥から小さな悲鳴を漏らす。慌てふためきレベッカを止めようとしたものの、レベッカがアレッサンドのシャツを盛大に引き裂くようにして脱がしてしまい──

 アレッサンドは豹変した優しい婚約者に美味しく頂かれてしまうのだった。


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