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3話※

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「アレッサンド! 一体何をするのですか……!」

 狭い馬車の中。レベッカはアレッサンドに両腕を掴まれ、椅子の上に組み敷かれていた。いくら騎士として鍛えてきた身体とは言え、相手は一回り大きい男。レベッカが幾ら抵抗しようと、アレッサンドは顔色一つ変えなかった。

「レベッカ」

 アレッサンドの顔がレベッカに迫る。鼻先が触れ合い、唇から漏れる吐息が掛かってしまうほど近い距離に、レベッカの頬が見る間に紅潮していく。アレッサンドは微かに身を震わせる彼女を見下ろしながら、薄い唇をそっと開いた。

「……お前は私を愛しているんじゃなかったのか。何故、簡単に婚約を諦めるようなことを口にしたんだ。お前の気持ちはそれほどに薄っぺらいものだったのか」

「な、何を仰いますか! 私がどれほどアレッサンドを愛して……んっ!」

 レベッカの唇がアレッサンドの唇によって塞がれる。呼吸を妨げるように湿った感触を強く押し付けられ、レベッカの唇から微かな呻き声が漏れる。今までアレッサンドとは、両手で数えられる程しか口づけを交わしてこなかった。それも軽く触れ合わせる優しいキスだけ。
 しかし今、唇の皮が剥けてしまうような擦り付け合う口づけをされ、身に覚えの無い熱がレベッカの身体の奥底から滲み出していく。

「っ、んんっ、アレッサン……ド……!」

 彼の名を呼ぼうとしたレベッカの唇の隙間から、ぬるりと熱い感覚が入り込む。それがアレッサンドの舌だと気付いた瞬間、レベッカの腰がゾクゾクと震え上がった。

 (な、に、この感覚……?)

 歯列を丁寧になぞられ、頬の肉をたっぷりと舐め回され、口内に唾液が溢れていく。頭の中には存在しなかった激しい口づけをされ、レベッカは恥ずかしさに似た感情に身体を支配される。

「はっ、あ、んんっ、アレッ、サン、ド……!」

「……レベッ、カ……」

 アレッサンドを押し退けようとしていたレベッカの手が、ゆっくりと彼の背中へと回る。レベッカが睫毛を伏せれば、それを合図に二人の舌が絡み合った。

「んっ、あぁ、ふ……っ」

 狭い空間の中、ぬちゅぬちゅと唾液が絡まる音が響き渡る。
 いつの間にかアレッサンドの情熱的な口づけを受け入れていたレベッカは、必死に彼に合わせて舌を動かした。ぬるぬると舌を舐め合い、唾液を求めるように舌に吸い付き、ゴクンと音を立てて唾液それを呑み込んだ。

「っ、は……ぁ」

 唾液に濡れた二人の唇が離れ、熱い吐息が交わる。レベッカの口の端からはどちらのものか分からない唾液が伝っており、瞳はうっすらと熱を孕んでいた。初めて目にするレベッカの淫らな姿に、アレッサンドの瞳の奥に獣めいた光が落とされる。

「レベッカ。私のことを愛しているか」

「……え、ええ。愛しています。誰よりも」

「私と一生を添い遂げる覚悟もあるんだろうな」

「も、勿論です」

「そうか、ならば」

 アレッサンドは椅子に腰を掛けると、自らの太股の上にレベッカを座らせた。二人向き合った状態、視線が自然と絡み合う。今まで目にしたことがない獰猛にも見えるアレッサンドの姿に、レベッカの心臓がドクドクと鼓動を打った。

「アレッサンド……一体何を……」

「私以外の男を婿に迎えることが出来ない身体にしてやる」

「えっ……な、んんっ!」

 再び噛み付くように唇を奪われる。大きく仰け反りそうになったレベッカを、アレッサンドは固定するように彼女の後頭部を掴んで執拗に口づけを続けた。

「はぁ……っ、んっ、アレッサンド……」

「レベッカ……」

 レベッカは最初こそ抵抗していたものの、全身を痺れさせてしまうような甘い刺激には勝てなかった。

 この数年間、アレッサンドと婚約者として共に時を過ごしてきたのに、身体を重ねることは疎か、口づけすら数えるほどしか重ねてこなかった。それが、今はこんなにも愛しい人から激しく求められている。レベッカは戸惑いと身体の内側から沸き起こる興奮に、瞳から涙を溢した。

「っ、あぁ……」

 アレッサンドの舌がレベッカの唇から頬へ、そして耳へと移る。輪郭を湿った感覚がなぞり、レベッカは堪らず目の前のアレッサンドにしがみついた。

「は、あぁ、だめっ、アレッサンド……!」

「随分と可愛い反応を見せてくれるな」

 焦らすように耳全体を舐められ、耳朶を甘噛みされ、吐息を吹き掛けられる。アレッサンドの息遣いと、舌と、唇が、レベッカの耳をじわりと犯していく。
 アレッサンドは身悶えるレベッカを見て楽しむように愛撫を続け、最後に耳裏に音を立ててキスをした。

「アレッサンド……っ」

 はぁはぁ、とレベッカの甘い吐息がアレッサンドの首筋に吹き掛かる。既に腰の力が抜けきっていたレベッカだったが、アレッサンドの手が彼女の腰からスカートの下へ這ったところで、身体が大きく震え上がった。

「ア、アレッサンド! ダメです! そんなところまで……!」

「私の言うことを聞いていなかったのか。お前を他の男が触れられない身体にしてやると言ったはずだが。

「じ、時間……? あ、あぁ……!」

 下着をずるりと下ろされ、アレッサンドの骨張った指が秘匿すべき場所に滑り込んだ。そのまま柔らかな肉をほぐすように弄られ、レベッカの唇から絶え間なく淫らな声がこぼれる。

「だ、だめっ、あっ、あぁっ、いやぁ……!」

 秘肉を揉まれる度にぐちゅぐちゅと卑猥な水音が際立ち、レベッカの顔が、かぁぁぁっ、と熱くなる。アレッサンドはそんなレベッカを煽るように彼女の頬に何度も口づけながら、指を少し上へとずらした。

「はっ、うっ……!?」

 刹那、レベッカを強烈な快楽が襲った。

 今までの感覚とは比較にならないほどの刺激に、レベッカの身体がビクンビクンと跳ね上がる。

 一体何が起こっているのか、分からなかった。
 何かに身体を蝕まれ、全身を熱が駆け巡って。混乱するレベッカに構う様子なく、アレッサンドは彼女の股を大きく開かせて、敏感な花芽を焦らすように擦り撫でた。

「あっ、あぁ、ん……アレッサンド……」

「ほら。こんなにも濡れてきたぞ」

「や、あぁ……っ」

 涙をぼろぼろと流すレベッカに、アレッサンドは口元を綻ばせて彼女に触れるだけのキスをする。レベッカはきゅっと唇を結ぶと、再び身体を委ねるようにしてアレッサンドの首に抱き付いた。そんな甘えてすがるレベッカを愛おしむように、アレッサンドは彼女の髪を片手で梳かし、耳に唇を這わせる。

「……レベッカ。本当は今すぐにでもお前を抱き潰したいが、先程も言った通り時間が無い。私と離れたくないのなら、言った通りに出来るな?」

「っ、ん、え……?」

 有無を言わせないアレッサンドの艶めいた言葉に、レベッカは舌足らずな声で言葉を返す。
 熱を帯びた彼の首に唇をくっ付けたまま呆けていたレベッカだったが、カチャカチャと金属が擦る音が聞こえ、ふと我に返った。

「っ、あ……っ!?」

 アレッサンドから腕を離し、視線を落とすと──そこには、僅かに下ろされた黒のブリーチズから雄々しく勃ち上がった彼の肉の楔があった。初めて見る男性の雄にレベッカは唖然とする。

「レベッカ」

「うっ、あぁ……!?」

 レベッカの腰から下を覆うスカートが捲り上げられ、アレッサンドの雄と向き合うように大胆に脚を開かされた。
 羞恥に浸る暇もなく、レベッカの秘部にアレッサンドの裏筋が当てられ、挟み込むようにして押し付けられる。

「い、やっ、アレッサンド……やめ、て……!」

「やめる? そんな選択肢は無い。レベッカ、お前から擦り付けて腰を揺らせ」

「うっ、そん、な……はずか、し……」

「行為を続けるのと、私と離れるのとどっちがいいんだ」

 切れ長の瞳で睨むような視線を向けられ、レベッカは何も言えなくなる。

 今までのアレッサンドは、レベッカに対してこんな口振りで話すことは無かった。いつも優しい口調で、穏やかな眼差しを向けてくれて、相手の意見を尊重してくれて。

 なのに、今の彼の口調は酷く冷たく、向けられた眼差しはまるで獲物を捕らえた獣のようで、普段のアレッサンドとはまるで違った。そう、違うはずなのに、レベッカの心はアレッサンドから離れるどころか、彼の熱に囚われていく。

 頭の中の奥底の理性の裏側で、アレッサンドにこのまま食べられたいという想いが疼いた。

「っ、はぁ……っ」

 レベッカはアレッサンドの先端を手で包み、秘部にぴたりと彼の楔を宛がう。そして、ゆっくりとゆっくりと、腰を上下に揺らし始めた。

「あっ、あぁ、うっ……」

 蜜に濡れた花溝が肉の楔と摩擦を起こしていく。動く度に赤くぷっくり膨れた花芽が擦れて、レベッカは淫らな声を溢してしまう。

「はっ、あぁ、アレッサンド……!」

「……っ、レベッカ……堪らないな」

 お互いの性感帯である陰部を擦りつけ合うという事実と、肉体的快感、そして視覚的刺激──全てがレベッカの身体を狂ったように興奮させ、腰を振る速度を上げさせた。

 アレッサンドは、快楽に身を焦がすレベッカをどこかうっとりとした表情で見つめる。アレッサンドがレベッカの頬に触れれば彼女は身体を震わせ、優しく口づければ彼女は小さく鳴いた。

「……あぁ、アレッサンド、もうダメ、好き、好きぃ……っ!」

「ぐ、うっ……レベッカ……死んでもその姿、他の男には、見られたくない……な……っ」

 ぐちゅぐちゅと水音が際立つ中、アレッサンドはレベッカのだらしなく開いた唇を性急に奪った。レベッカはそれを拒むことなく、唾液にまみれた唇を必死に擦り付けて、どちらの唾液か分からなくなるほどに舌を絡める。

「ふっ、はぁ、んっ」

「っ、レベッ、カ……」

 透明な糸を緩やかに繋いで、二人の唇がゆっくりと離れる。レベッカは唾液を垂らして恍惚とした表情を浮かべながら、ひたすら互いの秘部が擦れ合う気持ちよさに浸った。愛する婚約者と、こんな場所で背徳的行為をすることが、こんなにも熱を煽ってしまうのだ。

「レベッカ……もう、そろそろ、だ。脚をしっかりと、開いたままにしろ……!」

「あっ、あぁ……っ」

 アレッサンドはレベッカの両膝を掴んだまま、僅かに彼女から距離を取る。そして絶頂を迎えた彼女の太腿の間にかけて、先端から白濁を勢い良く放った。

「うっ……あぁ……」

 欲望を浴びたレベッカは、ぐったりとした身体でアレッサンドに抱き付く。秘部もスカートも、椅子も、足元も、全てがどろりとした体液で汚れてしまっていたが、今のレベッカにはそんなことはどうでも良かった。
 ただただ、愛するアレッサンドと触れ合えた悦びに浸りたい、その想いだけが彼女の心を占めていた。

「アレッサンド……」

 顔を上げて力の抜けた微笑みを向ければ、アレッサンドもそれにつられるように微かに笑みを綻ばす。レベッカはそれが嬉しくて堪らなくて、彼の首に腕を回して自ら口づけたその時──馬車の扉が勢い良く開いた。

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