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第二章 いなくなった護衛騎士

10話

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「貴女が無駄にした時間は五分。秒数に換算すれば三百秒。この時間があれば昨日の復習ができたというのに。実に勿体ない」

「お、お義母さま! 今日は外に用事があったのでは。それにオーブリー卿の前で失礼……あッ!」

 施錠されたはずの馬車の扉が、独りでに開く。
 おそらく、風魔法で解錠したのだろう。無詠唱でここまで簡単に補助魔法が使えるのはこの場には一人しかいない。

「さぁ、一刻も早く屋敷に戻りましょう。帰りが遅かった分、夕食は後回しにさせます」

「ま、待って、オーブリー卿がせっかく屋敷まで送ってくださったのに……」

「そうですか。遅れた原因は……貴方ですか。オーブリー卿」

 義母の鳶色の瞳がオーブリーを捉える。
 オーブリーはそれまで尻の打撲に気を取られていたようだったが、義母の刺さるような視線に気づいたのか、顔を上げるなり痩躯を慄かせていた。

「婚約者と過ごしていたとは言え、貴方は王都学園の特別科に身を置いている立場でしょう。時間すら守れないとは、一体どういう了見でしょうか」

「い、いや、しかし、これは将来に繋がる貴重な……」

「時間すら守れないとは、一体どういう了見でしょうか」

 二回言った。
 オーブリーの言葉は聞く耳を持たない、と言わんばかりの威圧感が身に伸し掛かる。
 思えば、義母は昔からそうだった。相手が侯爵家の人間であろうと王族の血を継ぐ者であろうと、態度を変えることは一切ない。最初こそ子爵家出身である義母が無礼を働いたと不敬罪で処罰されるのではないかと冷や冷やしたが、文句を口にするどころか皆が頭をへこへこと彼女に下げていた。

 無論、侯爵家の人間であるオーブリーも例外ではない。

「も、申し訳ございません。僕の不手際でした」

「以後気を付けなさい」

 義母は表情を一切崩さず、顔を蒼白くさせるオーブリーを見下ろす。
 まるで、生徒を叱る教師のような絵図だ。

「さぁ、シエナ。早く行きますよ。まずは魔素マナの復習からです」

「あっ、お義母さま、待って」

 義母はそれ以上聞く耳を持たず、屋敷までの道を闊歩する。シエナは尻餅をついたままのオーブリーに深く頭を下げ、小走りで義母の後を追う他なかった。



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