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3話※

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 威圧感を含ませた低いレイバードの声に、シルヴァナの肩が大きく震え上がる。同時にボタンを外そうとしていた手も止まってしまい、シルヴァナは何も出来ない状態と化してしまった。

「あ……あ……っ」

 ゆっくりと手を引き、シルヴァナは恐る恐る視線を持ち上げる。そこには、今までに見たことがないほど、険しい表情を浮かべるレイバードの姿があり、シルヴァナは小さな悲鳴を漏らした。

 (どうしよう。本当に怒らせてしまったわ)

「ご、ごめんなさ──」

 咄嗟に出たシルヴァナの掠れた言葉が、ふと途切れた。

 彼女の唇には、先ほども触れた感触があって。ゆっくりと瞼を開くと、近すぎる距離に睫毛を伏せたレイバードの顔があった。

「っ、ん……」

 暫くの時間を経て、シルヴァナは自分がキスをされていることにやっと気が付いた。シルヴァナの小さな唇は愛する人の温もりに包まれて、直ぐに幸せいっぱいの気持ちになる。優しく唇を吸い付かれ、重ねては離れて。何度か啄むような口づけを繰り返し、惜しむように離れていった。

「シルヴァナ」

 低く艶めいた声が、シルヴァナを呼ぶ。

 シルヴァナは長い睫毛を持ち上げて、レイバードを見つめた。宝石のような、美しい瞳。その奥底に獣めいた光のようなものがあって、シルヴァナの胸の奥がゾクゾクと震える。
 レイバードはシルヴァナの顎を掴むと、彼女のふっくらした下唇に親指で触れた。

「……シルヴァナ。舌を出しなさい」

 普段ならば、シルヴァナに対しては決して命令口調で話さないレイバード。まるで、臣下に向けるような冷淡な声に、シルヴァナは逆らうことが出来なかった。

「っ、あ……」

 シルヴァナの唇から、チラリと赤い舌が顔を出す。レイバードはそれを見つめながら顔を近付け、自ら出した舌を彼女の舌先に触れ合わせた。

「っ!」

 突然の感触に驚いたシルヴァナは、思わず舌を引っ込める。まさか、舌同士を触れさせるとは思わなかったのだ。自分の頭の中には存在しなかった行為に、シルヴァナの雪のように白い頬が赤く染まる。

「シルヴァナ。やめるのか」

 唇が触れそうな距離で尋ねられ、シルヴァナは更なる恥ずかしさが込み上げたものの、ぐっと堪えた。

「おっ、驚いただけです! や、めないで……」

「そうか。ならば続けよう」

 レイバードが微かに微笑み、シルヴァナの心に安堵が齎されたのも束の間──二人の唇は再び重なった。シルヴァナに口づけという行為を馴らすように、レイバードは唇同士をひたすら密着させる。僅かに開いたレイバードの唇から漏れる吐息に、シルヴァナは脳の奥が痺れるような感触に襲われた。

 もっと重ねていたい、もっとくっつけていたいと、シルヴァナはレイバードの後頭部に腕を回し、唇をぐっと押し付ける。
 愛する人とするキスがこんなに幸せな気持ちになるなんて、ずっとずっとこうしていたい。そう思っていたシルヴァナだったが、唇の隙間から生温かな感触がぬるりと入り込み、身体がビクンと震えた。

「んっ……!」

 それが先ほど自分の舌に触れた、レイバードの舌だと気づくのに時間は掛からなかった。熱すぎる彼の舌はたっぷりとシルヴァナの口内を堪能し、奥に潜んでいた彼女の舌を絡めとる。

「はぁ、んっ、へい、か……っ」

「んっ……はぁ……」

 瞬く間に舌が絡み合い、シルヴァナは堪らず身を捩らせる。息が苦しいのに、気持ち良くて、胸が恐ろしいほどに高鳴る。
 何だかいけないことをしているような気分になってしまい、それが一層シルヴァナの気分を高揚させた。

「シルヴァナ」

 夢中になってレイバードに合わせて自分の舌を動かしていた最中、ふと、緩やかな唾液の糸を繋いで唇が離れた。
 はぁはぁ、と必死に息を切らしてレイバードを上目で見つめるシルヴァナ。レイバードに愛おしむように見つめられ、唾液に濡れた唇に彼の唇が優しく触れた。

「よく頑張ったな。偉いぞ、シルヴァナ」

「は……ぁっ……へい、か……」

 シルヴァナはレイバードに褒められたことと、彼とこんな風に触れ合えたことに、嬉しさが込み上げる。堪らず、自分からレイバードに抱き付き、ちゅっ、ちゅっ、と唇を頬にぶつけた。

「愛い奴だ。お前は」

 レイバードにしがみついた状態で頭を撫でられ、そのままゆっくりと身体を離される。同時に彼と目があったシルヴァナは、幸せを主張するように愛くるしい笑みを浮かべた。

「……ああ。愛しいシルヴァナ」

「っ、ん……」

 眩しすぎる彼女の笑顔にレイバードは瞳を細め、再び唇を重ねる。しかし、長い間そこには留まらず、首筋、鎖骨、胸元、と唇をそっと落とした。
 柔らかな感触が触れる度にシルヴァナの身体は小さく跳ね、淡い吐息がこぼれる。

「……は、ぁ……へい、か……」

 レイバードは身体への口づけを止めると、彼女の胸元で結われた寝着の紐を指で引いた。紐はするすると簡単にほどけ、捲れた寝着からシルヴァナの美しい身体が露になる。

「や……、あっ……」

 透き通った瞳に上体を見つめられ、シルヴァナの身体が熱さに見舞われる。愛しい人に身体を見られる羞恥心から、思わず胸の膨らみを隠しそうになった──が、レイバードの手に優しく退けられた。

「……綺麗だ。シルヴァナ、お前は本当に美しくなった」

「へい、か……あぁ」

 レイバードの唇が、膨らみに軽く触れる。あまりにも優しい感触に、シルヴァナは恍惚とした表情を浮かべた。愛する人に身体を触れて貰えることが、幸せで堪らない。彼女の目尻に幸福から生まれる涙が伝う。

「……シルヴァナ」

 名前を呼ばれ、視線を落とした刹那、レイバードの舌がシルヴァナの先端に触れたのが見えた。濡れた感触に突かれ、ビリビリとした感触が身体を駆け巡り、シルヴァナの唇から甘美な声がこぼれる。

「はぁ、や……へいか……っ!」

 初めての快楽にシルヴァナは身悶え、身体をシーツに擦り付けるように動かす。そんな彼女を見て愉しむように、レイバードは先端に舌を這わせ、優しくキスをして、反対側の胸も同様に愛でた。

「んっ、はぁ、あぁ……」

 じっくりと可愛がられた先端が唾液に濡れ、空気を冷えた感触として拾っていく。
 シルヴァナは初めての快感の連続に、呆けたように天井を見つめた。

 (……ああ、もう既にこんな気分になってしまうなんて。確か、こっそり書斎で読んだ本には、口では言えないようなもっと凄いことが書いてあったはずなのに)

「シルヴァナ」

 名前を呼ばれ、シルヴァナの意識がはっと戻る。いつの間にか目の前に、自分をじっと見つめるレイバードの姿があった。

「へい、か」

 胸の奥から愛おしさが込み上げたシルヴァナは、レイバードに手を伸ばして顔を自ら近づける。

「キスしてください。陛下……っ」

「っ、可愛いやつだ」

 レイバードは躊躇うことなくシルヴァナの唇を塞ぐ。今度は自分からと、シルヴァナは積極的に舌を絡めて口づけをせがみ、それに欲情したレイバードも乱暴に舌を動かした。まるで獣がむしゃぶり合うような口づけに、自然とシルヴァナの腰がぐっと上がってしまう。

 そしてシルヴァナは気づいてしまった。秘部にじんわりと濡れたような感触があることに。

 (これは、一体…………あ……っ!)

 突然、レイバードに下着をずるりと膝まで下ろされ、驚いてしまったシルヴァナは、んぱっ、と彼から唇を離した。

「へ、陛下。何を……!」

「もっと気持ち良くさせてやる」

「えっ? あっ、あぁ……っ!」

 ぐにぐにぐに、とレイバードの指が秘部の柔らかな肉をほぐすように捏ね回す。ぬちゃぬちゃと水音のような厭らしい音も混じっていて、シルヴァナの顔が、かぁぁぁっ、と熱くなる。

「やだっ、陛下。そんなところ、きたないです……!」

「汚くなどない。お前の身体はどこも綺麗だ」

 ふっ、と息を漏らして笑うレイバード。
 こんな時なのに、シルヴァナは彼の笑顔が素敵だと思ってしまう。

 シルヴァナはレイバードの笑顔が大好きだった。普段、仕事の時は滅多に笑わないのに、二人でいる時はたまに笑顔を見せてくれて。自分だけが知る彼の素敵な姿、と密かな独占欲に浸っていた。

「へい……あっ……!?」

 レイバードの指がとある場所に触れた途端、シルヴァナの脳天に雷が落ちた。ビリビリビリ、と全身を蝕むような刺激に苛まれ、シルヴァナの背中が大きく仰け反る。 

 レイバードはシルヴァナが身悶えた瞬間を見逃さず、颯と彼女の足元へ移動した。

「ここがいいんだな」

 膝まで落ちていた下着が完全に脱がされ、シルヴァナは生まれたままの姿となる。しかし、シルヴァナにはそれを恥じる余裕もなく、同じ場所を焦らすように弄られ、狂ったように淫らな声を漏らした。

「あっ! あぁぁ! へいか! へいかっ!」

「っ、シルヴァナ……」

 自分の手で乱れるシルヴァナを前に、レイバードはうっとりとした表情を浮かべる。
 何度も何度も時間を掛けて、丁寧に撫で回されて。胸を触られた時よりも遥かに強烈な刺激に、シルヴァナの円らな瞳から涙が零れ落ちていく。

「あっ……あ……!」

 刺激に紛れて何かがどんどん迫ってくるような感覚、と言えばいいのだろうか。同時に寂しさのようなものも覚え、シルヴァナは泣きながら太ももの間にいるレイバードに両手を差し伸べた。

「へいかっ、こっち、こっち来てください……っ」

「は……っ……シルヴァナ……」

 カラダの悦びに震えながら、泣いてすがるシルヴァナを、レイバードはきつく抱き締める。シルヴァナは快楽と幸せに脳が犯され、触れ合う恥ずかしさなどは完全に消え去っていた。

「へ、陛下も、脱いで、肌のまま……!」

「っ、ぐ……!」

 シルヴァナの言葉に煽られ、レイバードは破り裂くようにシャツを脱ぎ捨てる。シルヴァナは息を乱してその光景を見つめ、薄い筋肉を纏ったレイバードの身体が露になった瞬間、彼の身体に肌を密着させた。レイバードも彼女を拒むはずもなく、抱き締め返す。

「は、ぁ……はぁ……」

「シ、ルヴァナ……」

 ぎゅうっ、と骨が軋むほどに抱き締め合い、シルヴァナは素肌を通して伝わる温もりと心音に心を震わせた。
 愛する人の吐息も、汗でさえも、全てが心地よく感じられて、永遠にこのままでもいい。そう思えるほどに身体が満たされていた。

 しかし、レイバードの顔は苦しいままだった。

「……シルヴァナ」

 名前を呼ばれ、シルヴァナはレイバードから僅かに顔を離す。額に汗を滲ませ、荒々しい呼吸を繰り返すその姿は、普段皇帝として振る舞う姿からは考えられず、情欲的に感じられた。

「もし、怖いのなら止めるのは今の内だ。この先は恐らく、止められなくなる」

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