1 / 5
1話
しおりを挟む「陛下。わたくし、もう十五を迎えます」
白藍色の夜着を纏ったシルヴァナは、寝台の上で声を震わせた。帝国の主──そして彼女の夫であるレイバードの大きな手をぎゅっと握りしめながら。
この一言を告げるのに、どれほどの勇気を絞ったことだろうか。
王国の第一王女であるシルヴァナが、グレンデール帝国の皇帝であるレイバードと結納を交わしてから二年。彼女は一度足りともレイバードに抱かれたことは無かった。かと言って、日頃から冷たい扱いを受けていた訳でもない。夜は必ずと言っていいほど、添い寝をしてくれたし、不安で眠れない時は額や頬に何度も優しくキスをして、シルヴァナの小さな手を握りしめてくれていた。そんな優しい彼を、例え政略結婚とは言えども、シルヴァナは深く愛していた。故にもっと愛されたい、触れて欲しいと日々思っていたのだ。
レイバードは願いを乞う彼女を前に、一瞬だけ目を見開いた。
「何か欲しいものでもあるのか」
「陛下が、欲しいのです」
シルヴァナの声は更に震えた。もう、緊張しているなんてものではなく、口から出そうなほど心臓が暴れていて、寝着から染み出してしまうのではないかというほどに汗が噴き出していた。
一方のレイバードは表情を全く変えない。生まれたての小鹿のように震える彼女を前に、一つ深い息を吐くだけだった。
「そうだな。お前ももうそんな年か。だが……まだ早いだろう」
「へ、陛下」
「おいで。もう寝よう」
レイバードの唇が、シルヴァナの額に落ちる。そして有無を言わさずに身体を引き寄せられ、彼女はいつものようにレイバードの逞しい腕の上に頭を乗せられた。
「……へい、か」
「おやすみ。シルヴァナ」
ちゅっ、とレイバードに頬をキスされ、シルヴァナは何も言えなくなる。
(また、はぐらかされてしまった)
チクチクと針が刺すような痛みが、シルヴァナの胸を襲う。
キスだって、そう。婚姻の儀式で口づけをして以来、唇へは殆どして貰っていなかった。一回り年上であるレイバードが紳士なのか、それとも自分に女としての魅力が無いのか、シルヴァナには分からなかった。しかし、時が経つにつれて後者なのではないかと、不安が増していくばかりで。
「……へいか」
シルヴァナはレイバードの胸に顔を埋め、唇をきゅっと結んだ。そして、気付かれないようにほんの少しだけ泣いた。
1
お気に入りに追加
664
あなたにおすすめの小説
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
女主人は大剣の檻のなか
若島まつ
恋愛
【捨てられた騎士がかつての女主人を手籠めにする7000字短篇】
瀕死の少年を拾って忠実な騎士に育てた王女メーヴ。
王女のために戦功を上げ最強の騎士となったガラハッド。
メーヴが簒奪者の妻になったとき、ガラハッドは王国を去った。
五年後、ガラハッドは王国へ舞い戻る。騎士ではなく、略奪者として。
「いい気分だ。あなたを権力で縛るのは」
歪な情で結ばれたふたりの運命は――
騎士団長の幼なじみ
入海月子
恋愛
マールは伯爵令嬢。幼なじみの騎士団長のラディアンのことが好き。10歳上の彼はマールのことをかわいがってはくれるけど、異性とは考えてないようで、マールはいつまでも子ども扱い。
あれこれ誘惑してみるものの、笑ってかわされる。
ある日、マールに縁談が来て……。
歳の差、体格差、身分差を書いてみたかったのです。王道のつもりです。
責任を取らなくていいので溺愛しないでください
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。
だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。
※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。
※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。
大きな騎士は小さな私を小鳥として可愛がる
月下 雪華
恋愛
大きな魔獣戦を終えたベアトリスの夫が所属している戦闘部隊は王都へと無事帰還した。そうして忙しない日々が終わった彼女は思い出す。夫であるウォルターは自分を小動物のように可愛がること、弱いものとして扱うことを。
小動物扱いをやめて欲しい商家出身で小柄な娘ベアトリス・マードックと恋愛が上手くない騎士で大柄な男のウォルター・マードックの愛の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる