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第3話 ただの駆け出し冒険者

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 さすがは獣人族といったところか。
 ニーナは華奢きゃしゃな体をしている割に、あの重たい荷物を軽々と持ち運びしていた。
 初めての依頼と言ってたから、おそらくは同い年なのだろう。

 地図によると、今歩いているこの《マッツクナの森》を南東の方角に進んで行くと《ギガント岩》があるらしい。そこまで辿り着くと遺跡はもう目と鼻の先。
 ただ問題なのは、街を出ると遺跡まで宿屋がないことだ。今日の目標は《ギガント岩》に日没までに辿り着けられれば上出来だろう。


 「あの、エイトさんはどうして冒険者になられたんですか?」

 「そうだな……最初はカッコ良さそうとかモテたいとか、そんなくだらないことだった。でも今は負けたくない奴がいるし、倒さなくちゃならない奴もいる。そんなところかな。ニーナは?」

 「私は故郷の弟や妹達を楽させてあげたいから……なんてね」

 ニーナはあまり気にしてないだろうが、一応この人生では俺も初依頼。だがどうにも経験からか先輩風をふかせてしまってる自分がいる。気をつけないと。
 
 だんだんと街から離れてきたにもかかわらず、この森はかなり穏やかだ。魔物や魔獣といった類いのものの気配がまるで感じられない。植物や動物達が生き生きとしている。

 「ニーナ、ギルドで渡されたカメラを出してくれないか? こんなに綺麗な風景なんだ。せっかくだから撮影しておこう」

 ニーナはリュックからカメラを取り出し撮影を開始する。
 とても真剣な表情で、この子は熱中しやすいタイプなのだろうか。

 「あ、そうそう、今からカメラは録画モードで。それと俺の合図があるまで撮影は切らないでくれ。証拠・・になるからな」

 「えっと、はい、わかりました」

 ニーナは少し不思議そうな顔をし撮影を再開させた。

 「ところでよー。ゴルゴーンさん、そこにいるんだろ? さっきから殺気がだだ漏れなんだよ」

 「なんだよ──気づいていたのか。せっかく脅かしてやろうと思ってたのに」

 俺とニーナが後ろに振り返ると、木の陰からゴルゴーンを筆頭にガラの悪い野郎がゾロゾロと出てきた。

 「ゴルゴーンの旦那、こんなやつがいっぱい金を持ってるって本当なのか?」

 「ああ、間違いねえ。俺はギルドではっきりと見たからなあ」

 向こうは全員で4人。対するこっちはニーナを含めて2人。数の上ではかなり不利な状況だ。

 かくなる上は──

 「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。ゴルゴーンさん。そんなに仲間がいるなんて、き、きき、僕聞いてないですよ」

 「──っぷははははー」
 「こいつ、めっちゃびびってるぜ」
 「許してほしかったら、俺の靴の裏舐めてみろや。きゃはははっ」

 後ろにいた他の3人の仲間達は大笑い。対するゴルゴーンはこちらを睨みつけて持っていたナイフを手に当てペチペチと音を立てていた。

 「か、カネが目的なんだろ? 全部置いていくから命だけは助けてくれよ、な? 靴、舐めたら見逃してもらえるんだよな!? これでも俺達、同じ冒険者のはしくれじゃねーか」

 俺は一切の恥を忍んで頭を下げた。そして身振り手振りをまじえて奴らに思いを伝えた。
 まさに阿鼻叫喚あびきょうかんとはこのことだろう。

 「バーカ。金だけじゃ俺の気がすまねぇ。お前は俺様に恥をかかせたからな。なるべく苦しむように殺してから金を奪って、ついでにそこの女ももらってやるよ」

 俺は一生懸命に命乞いをした。でも聴き入れてもらえない。
 なら実力行使しかねえよな!?

 「よし、ニーナありがとう。カメラを止めてくれ、これで正当防衛になりそうだ。それにここから先は、よいこにはとても見せられないになりそうだからな」

 奴らからみが消えた。俺としたことが、あまりに殺気が漏れてしまっていたらしい。もう少しあいつらのマヌケづらを拝みたかったんだけどな。

 本来なら、現時点俺は駆け出し冒険者だ。だが、前世では【拳闘士】だった。


   ──にやっ

 久しぶりの戦闘に血がたぎる。
 拳闘士だった時代を体が覚えているのか、高揚感にも似た感覚がする。

 「あいつ、俺たちを前に笑っていやがる……舐めやがって。ここは確実に全員で仕留めにいくぞ! 敵は実質、あいつ1人だけだからな」

 ゴルゴーン達はお互いに顔を見合わせてから、こくりと1つ頷くと一斉に俺の元へと襲いかかってきた。
 右の奴は俺の顔を。左の奴は俺の左足をとりにきている。目線や動作でバレバレだ。
 俺は最小限の動きで首を捻り、まずは右のハゲのみぞおちに強烈なボディーを喰らわせる。

 「ぐへっ……おっおっお……」

 左からきたモヒカン野郎のローキックに対して、俺は敢えて同じようなローキックを繰り出し、膝と膝がぶつかりあった。

 「ぐあぁぁ、足が……俺の足がぁぁああ!!」

 更に俺は中央の後ろにいる、さっき俺を見て大笑いしていた奴の元へとダッシュ。上体を低くし、顎にアッパーを当てていく。まだだ……奴が宙に浮いたところに右ストレートと左フックをコンパクトに当てていく。

 「げふっ……」

 ゴルゴーンは一瞬で何が起きたのか、整理がつかないのか、ナイフを持ったまま棒立ちで硬直していた。

 「何なんだ、お前のその強さは……?」

 「へ? ただの駆け出し冒険者だけど」

 「ふ、ふ、ふざけるなぁああああ!!!」

 プルプル震え出したと思ったら、策もなくコチラに猪突猛進。でもまあ逃げないだけまだ見込みのある奴だと一応評価はしといてやろう。

 ナイフを突き刺すようにしながら走ってくるだけで隙だらけだ。俺はゴルゴーンの手首に蹴りをいれるとナイフが音をたてて転がっていく。

 ──カランカラーン

 「俺様が負けるはずないんだあああ!!!」

 今度は両腕を高々と挙げて覆い被さるように突進。
 こいつは毎回、芸がない奴だな。

 俺はがら空きだったゴルゴーンの腹に渾身の一撃を喰らわせる。

 「うぐっ」

 ゴルゴーンは腹を両手で押さえながら、両膝を地面に着けながら崩れて落ちていった。

 「凄い……凄いです、エイトさん。そんなにお強かったんですか? 私ビックリしましたよ」
 
 勝負がついたところでニーナが俺の元へと駆け寄るが、俺は奴らの巾着袋を漁っていた。

 「──っち。シケてんなあ」
 「エイトさん、何してるんですか?」
 「何って見れば分かるだろ。ニーナにも半分やるよ」

 巾着袋を4つ回収し、逆さにすると硬貨がバラバラと地面に転がり落ちていった。
 合わせて金貨3枚、銀貨12枚、銅貨20枚。
 思ったより少なかった。金貨は俺が多めに貰っておこう。

 「日没まで時間がない。少しペースをあげるぞ」

 俺達は再び《ギガント岩》を目指して歩き始めた。
 
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