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第三章 帰る者、残る者、進む者

4-15 互いに皺が刻まれるまで

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 ウィル様との話し合いを終えたところで、タイミング良く、お兄様とマーガレットが戻ってくる。

「ミア、すっきりした顔してるね。話はまとまったのかな?」

「はい、お兄様……おかげさまで。ありがとうございます」

 私がお兄様とマーガレットに微笑みかけると、二人は安心したように頷く。
 そして、マーガレットはウィル様をキッと睨みつけ、お兄様は逆に目を細めて微笑んだ。

「次にお姉様を泣かせたら、承知しませんからねっ! 貴方がお姉様を幸せにしてくれないなら、この家に連れ帰ってきて、わたくしとずーっと一緒に過ごすんですから!」

「そうですよ、ウィリアム様。ミアを不幸にしたりしたら、僕が……いえ、僕たちがミアをもらっちゃいますからね」

「……不幸になんてしませんよ。ミアは、俺の妻になるんです。互いの顔に皺が刻まれるまで、ずっと一緒に生きていくのだから――ね、ミア?」

 ウィル様は、そう言って、私をもう一度腕の中に閉じ込める。
 見上げる彼の顔には、甘い甘い微笑みが浮かんでいた。

「――はい、ウィル様。必ずですよ」

 私も微笑みを返すと、ウィル様は優しく頷いたのだった。





 その後しばらくして、お父様とお母様は領地へと帰っていった。
 私は変わらずオースティン伯爵家に。お兄様とマーガレットは、エヴァンズ子爵家のタウンハウスから学園に通うことになっている。

 ――本当なら、私は、もうエヴァンズ子爵家に戻っても良いのだ。
 陛下が、私を聖女ではなく魔法石の研究員として発表したことで、身の安全も確保されたためである。
 それに、両親がいなくても、エヴァンズ子爵家にお兄様も妹も使用人たちも残っているのだから。

 けれど、もうしばらくの間……お父様たちが王都へ戻ってくるまでのおおよそ半年間は、オースティン伯爵家で引き続きお世話になることにした。

 どうやら、お父様がウィル様に改めて「王都を離れる自分たちに代わって、ミアを守ってほしい」とお願いをしてくれていたらしい。
 前のように安全な生活が戻ってきたとわかっていても、自分の目の届かないところに私を置いておくのは、やはり不安なようである。

「逆行する前の時は、ミアもこのタイミングで、ご両親と一緒に領地へ帰ってしまったんだ。魔法騎士の職務が忙しくなりはじめたのも、この頃だったな」

 ウィル様はそう言って私を見つめると、「今回は一緒に過ごせて嬉しい」と微笑んだのだった。





 魔法石研究所では、相変わらず新しい聖魔法の修得に注力する日々。

 『浄化』の聖魔法を自分の外へ円形に放って聖属性の結界を張る方法や、その応用で低威力の魔法や物理攻撃を弾く結界を張る方法も身につけた。
 『治癒』も広範囲、高威力になったし、『解呪』についても、呪われた人だけではなく、呪物本体に対しても効果を発揮できるまでに。

 ウィル様に手伝ってもらって詠唱の簡略化をすることにも成功し、魔法の発動スピードが速くなったりもした。


 また、『加護』のイレギュラーについても、研究が進んでいる。
 ウィル様の予想したとおり、他の聖女と騎士の組み合わせでもイレギュラーが発生することがわかったのだ。

 そして、やはりというべきか、仲が良く信頼関係が構築されている相手同士であるほど、『加護』が弾かれる率も低かった。
 イレギュラーは、私たちを除いてまだひと組しか発現していないが、その聖女と魔法騎士が最近仲睦まじくしていたこともわかっている。

 また、神殿騎士にかけられていた制約魔法の効果で、神殿騎士にはイレギュラーが偶然発生することがないようになっていたことも判明。

 ちなみに、南の丘教会の神殿騎士に関しては、その制約魔法はすでに解除されている。

 制約魔法は教会のオリジナル魔法で、聖魔法と何らかの一般魔法を組み合わせたものだったようだ。シュウ様自らが解析をし、解除の方法を編み出してしまったらしい。
 ウィル様によると、オリジナル魔法をこうも簡単に解析・解除するなど、普通は出来ない芸当なのだそうだ。
 シュウ様はウィル様以上の魔法オタク。ここ数週間、休みも取らず寝食も最低限に、「新しい魔法だ」と言って、嬉々として解析を進めていたのだとか。


 聖剣技に関しては、ウィル様はもうほぼ完全修得といって差し支えないレベルに達していた。
 私の『加護』がイレギュラーであり、扱いやすいということもあるだろうが、それでもこれほど短い期間で完全に修得したのは、ウィル様の努力と魔法センスの賜物だろう。

 元々の強さも相まって、ウィル様は向かうところ敵無しの状態。神殿騎士と魔法騎士が協力し、束になってかかっていっても、今のウィル様には全く歯が立たない。
 なんせ、聖剣技だけではなく、得意の氷魔法まで自在に操るのである。神殿騎士には魔力を持つ者も多いが、聖剣技を繰り出しながら魔力操作も同時に行うなんて離れ業、普通はできないらしい。

 唯一ウィル様に食らいついていたのが、魔法騎士団の同期、シナモン様ぐらいだ。
 ウィル様によると、聖剣技を修得するまでは、逆行前も含めてウィル様は一度も彼女に勝てたことがなかったのだそうだ。
 聖剣技のおかげで初めてシナモン様に勝てたと、珍しく人前にもかかわらず、感情をあらわにして喜んでいた。
 対するシナモン様も相当悔しかったようで、聖剣技を真剣に習い始め、日々研鑽を積んでいるとのことである。





 そうしているうちに、時間はあっという間に過ぎ去っていく。

 ウィル様の十七歳の誕生日――彼が時間遡行をしてからちょうど一年の月日が経ち、季節は夏を迎えていた。
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