110 / 183
第五章 反撃の狼煙
3-30 南の丘教会の今後は
しおりを挟む牢屋から解放された私たちは、もう夜も遅いということで、その日は王城内に泊まることになった。
お父様たちは、南の丘教会から派遣された聖女たちのおかげで体調が回復したとのことで、自宅に戻っている。
ちなみに、南の丘教会から出てきた聖女や神殿騎士たちも、今日は王城に泊まるらしい。
いや、今日はと言ったが、おそらく、彼らは大人しく教会に戻る気は、もうないだろう。
ステラ様を護衛していたと思われる、例の神殿騎士も、王城に寝泊まりするようだ。
今日は遅いのでもう会うことはできないが、彼が王城にいる限り、いつでも話ができる。いずれゆっくり話を聞くチャンスが来るだろう。
ウィル様の『前回』『今回』の件も、結局聞きそびれてしまった。けれど、約束は約束だ。きっと、近いうちに話してくれるに違いない。
魔法騎士たちが交代交代、夜を徹して警備してくれている中、私もまた、眠れぬ夜を過ごしたのだった。
*
そして、翌日。
国王陛下は、事情を知る関係者と、昨日王族の運び込まれた別室にいた人たち――具体的には侍医、使用人、魔法騎士団の団員だ――を集めて、これからの方針を発表した。
王太子殿下やシュウ様、アシュリー様、魔法騎士団長のオースティン伯爵、そして聖女マリィと例の神殿騎士の姿もあった。もちろん、外務大臣やガードナー侯爵の姿はない。
「皆の者、昨日は大変な一日であったと思う。ご苦労であった。だが、今回の事件はまだまだ終息しておらぬ。現在、魔法騎士団を中心に、目下捜査中である」
陛下はそれから、オースティン伯爵と時折説明を交代しながら、順を追って話した。
犯人は捕まり、陛下を狙った理由や自身のことも含めて何もかも自供したこと。ただし、その証言には裏取りが必要であり、まだ詳細を発表できないこと。
関係者であるガードナー侯爵や、侯爵と関係の深い外務大臣、王弟殿下とその派閥の官僚、さらには隣国の外交官にも順次話を聞いていること。
また、私ミアの力は現状では秘匿されるべきものであり、一切の口外を禁ずること。
そして――。
「舞踏会の会場で二人が動けたのは、魔法師団から試験的に貸与された、『魔法石』の効果によるものである。『魔法石』は現在開発中のものであり、詳細はまだ公表できない。魔法師団は、聖女の『浄化』の魔法を石に込めることに成功した――王太子とシュウ師団長の協力のもとに進められている、最新鋭の研究だ」
そこで王太子殿下とシュウ様が一歩前に出て、軽く一礼した。
どうやら、靄を浄化して魔力を込めた魔石を、普通の魔石と区別して、『魔法石』と呼ぶことにしたようだ。
大きな事件であったが、この機に乗じて魔石研究を公式に認めさせるという思惑は、達成されたことになる――偶然というか、運によるところも大きいけれど。
「そして、今現在、王城には複数人の聖女と神殿騎士が滞在している。彼らの滞在に関しても、口外することを禁ずる」
聖女マリィと、神殿騎士が頭を下げる。
室内にいた者たちは、少し疑問に思ったようだったが、皆一様に頷いている。
その後は、箝口令を破った場合の処分を再確認し、国王陛下が退室、解散となった。
そして一部の関係者は、そのまま残るように言われ、今後のことについて、さらに詳しく話を詰めることに。
「結局、魔石――じゃなかった、『魔法石』についての問題は一気に解決しましたね」
「ああ。怪我の功名といったところか」
アシュリー様とシュウ様は、小さな声で会話しつつ、苦笑いしている。
あれだけ皆の頭を悩ませてきた魔石と聖魔法の問題に、こんな形で決着がつくとは、誰も思っていなかっただろう。
ただ、その分新たな問題も浮上している。
「――それで、現在問題となっているのが、今後のミア嬢及び聖女たちの処遇についてだ」
王太子殿下は私とマリィ嬢を交互に見る。私がマリィ嬢に目をやると、ばっちり目が合って、彼女はにこっと笑った。
「こうして箝口令を敷いてはいるが、ミア嬢の力が露見する危険性は格段に増したと言える。また、聖女たちが城に滞在するとなると、今まで互いに不可侵だった教会と王族との関係を疑う声も、今後出てくるだろう。すぐにでも対策を練る必要がある」
「昨日もお話ししたんですけどぉ、私たち南の丘教会のメンバーは、もう教会に戻るつもりがないんですぅ。それでぇ、魔法騎士団長様にお願いしようと思っていたんですけど、魔法騎士団さんで私たちを預かってもらえないかなぁって」
「魔法騎士団で? 教会から離反した貴女たちを?」
オースティン伯爵が、眉を顰める。南の丘教会の聖女たちを預かるということは、教会への対立の意思があるとみなされても、おかしくない。
やはり、表立って教会と対立するのは、魔法騎士団としてはあまり良くないだろう。
「俺からも、お願いします」
例の神殿騎士が、頭を下げた。
「俺たち神殿騎士は、聖女の加護を攻撃に転じる秘技である聖剣技と、結界魔法による守護を得意としています。人間が聖女を襲ってくることはほとんどないので、対魔獣戦、対魔法戦を想定した戦い方を修得しています」
「聖剣技……かつて勇者様が使ったという御業ですね」
「ええ、そうです。邪を払う聖なる剣技は、普通の攻撃が効かない魔族に対しても効果を発揮したと言います」
魔族との戦いが激しかった頃。
大聖女の加護を受けた勇者の剣が、魔族の王を打ち砕いたという。
聖女と剣士、二人で織りなす聖なる剣技――それがすなわち、聖剣技だ。
「これまで教会が秘匿してきた特別な秘伝ですが、魔法騎士団に身を置かせていただけるなら、魔法騎士の皆様も聖剣技を扱えるように、お教えしようと思います。聖剣技は魔族だけでなく、魔獣にも絶大な効果を発揮しますよ」
「もちろん、聖女の魔法も、魔法騎士団さんの都合で好きなように使ってもらって構わないですぅ。聖剣技を扱う時にも必要になりますしぃ、怪我を治したり、呪いを解いたり、他にもお手伝いできることはいっぱいあると思うんですぅ」
「……それは大層魅力的な提案だが……」
そう言って、オースティン伯爵はシュウ様を見た。
「……魔法師団も、聖魔法は喉から手が出るほど欲しいですね。ですが、教会と真っ向から対立するには、魔法師団は大きすぎる組織だ」
「だろうな。魔法騎士団も同じく、だ。下手に動くと、確実に国が乱れる」
「そんなぁ……じゃあ、どうすればぁ」
マリィ嬢は、がっくりと肩を落とした。
「……そもそも貴女たちは、なぜ教会から離反したのだ? 理由によっては、対応を考えなくもないが」
「――教会の中枢には、魔が巣食っているんですぅ」
「……魔?」
「はいぃ。私は最近まで気づかなかったんですけど――」
マリィ嬢は、教会に関する衝撃の実態を、語り始めた。
12
お気に入りに追加
365
あなたにおすすめの小説
ループ中の不遇令嬢は三分間で荷造りをする
矢口愛留
恋愛
アンリエッタ・ベルモンドは、ループを繰り返していた。
三分後に訪れる追放劇を回避して自由を掴むため、アンリエッタは令嬢らしからぬ力技で実家を脱出する。
「今度こそ無事に逃げ出して、自由になりたい。生き延びたい」
そう意気込んでいたアンリエッタだったが、予想外のタイミングで婚約者エドワードと遭遇してしまった。
このままではまた捕まってしまう――そう思い警戒するも、義姉マリアンヌの虜になっていたはずのエドワードは、なぜか自分に執着してきて……?
不遇令嬢が溺愛されて、残念家族がざまぁされるテンプレなお話……だと思います。
*カクヨム、小説家になろうにも掲載しております。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
一日5秒を私にください
蒼緋 玲
恋愛
【第一部】
1.2.3.4.5…
一日5秒だけで良いから
この胸の高鳴りと心が満たされる理由を知りたい
長い不遇の扱いを受け、更に不治の病に冒されてしまった少女が、
初めて芽生える感情と人との繋がりを経て、
最期まで前を向いて精一杯生きていこうと邁進する第一弾。
【第二部】
境遇を悲観せず前向きに生きること、
テオルドに人を想う感情を起動させ、
周りとの関わりを経てユフィーラは命を繋いだ。
王国内での内輪揉め問題や国内部の黒い部分。
新しい命との邂逅。
人伝に拡がる保湿剤からの出逢い。
訳アリ使用人達の過去。
楽観主義でも大切な人達の為に時には牙を剥くユフィーラ。
更に拡がった世界で周りを取り込んでいくユフィーラ節第二弾。
その他外部サイトにも投稿しています
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる