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第五章 反撃の狼煙

3-30 南の丘教会の今後は

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 牢屋から解放された私たちは、もう夜も遅いということで、その日は王城内に泊まることになった。
 お父様たちは、南の丘教会から派遣された聖女たちのおかげで体調が回復したとのことで、自宅に戻っている。

 ちなみに、南の丘教会から出てきた聖女や神殿騎士たちも、今日は王城に泊まるらしい。
 いや、今日はと言ったが、おそらく、彼らは大人しく教会に戻る気は、もうないだろう。

 ステラ様を護衛していたと思われる、例の神殿騎士も、王城に寝泊まりするようだ。
 今日は遅いのでもう会うことはできないが、彼が王城にいる限り、いつでも話ができる。いずれゆっくり話を聞くチャンスが来るだろう。

 ウィル様の『前回』『今回』の件も、結局聞きそびれてしまった。けれど、約束は約束だ。きっと、近いうちに話してくれるに違いない。

 魔法騎士たちが交代交代、夜を徹して警備してくれている中、私もまた、眠れぬ夜を過ごしたのだった。





 そして、翌日。
 国王陛下は、事情を知る関係者と、昨日王族の運び込まれた別室にいた人たち――具体的には侍医、使用人、魔法騎士団の団員だ――を集めて、これからの方針を発表した。
 王太子殿下やシュウ様、アシュリー様、魔法騎士団長のオースティン伯爵、そして聖女マリィと例の神殿騎士の姿もあった。もちろん、外務大臣やガードナー侯爵の姿はない。

「皆の者、昨日は大変な一日であったと思う。ご苦労であった。だが、今回の事件はまだまだ終息しておらぬ。現在、魔法騎士団を中心に、目下捜査中である」

 陛下はそれから、オースティン伯爵と時折説明を交代しながら、順を追って話した。

 犯人は捕まり、陛下を狙った理由や自身のことも含めて何もかも自供したこと。ただし、その証言には裏取りが必要であり、まだ詳細を発表できないこと。
 関係者であるガードナー侯爵や、侯爵と関係の深い外務大臣、王弟殿下とその派閥の官僚、さらには隣国の外交官にも順次話を聞いていること。
 また、私ミアの力は現状では秘匿されるべきものであり、一切の口外を禁ずること。

 そして――。

「舞踏会の会場で二人が動けたのは、魔法師団から試験的に貸与された、『魔法石』の効果によるものである。『魔法石』は現在開発中のものであり、詳細はまだ公表できない。魔法師団は、聖女の『浄化』の魔法を石に込めることに成功した――王太子とシュウ師団長の協力のもとに進められている、最新鋭の研究だ」

 そこで王太子殿下とシュウ様が一歩前に出て、軽く一礼した。
 どうやら、靄を浄化して魔力を込めた魔石を、普通の魔石と区別して、『魔法石』と呼ぶことにしたようだ。

 大きな事件であったが、この機に乗じて魔石研究を公式に認めさせるという思惑は、達成されたことになる――偶然というか、運によるところも大きいけれど。

「そして、今現在、王城には複数人の聖女と神殿騎士が滞在している。彼らの滞在に関しても、口外することを禁ずる」

 聖女マリィと、神殿騎士が頭を下げる。
 室内にいた者たちは、少し疑問に思ったようだったが、皆一様に頷いている。

 その後は、箝口令かんこうれいを破った場合の処分を再確認し、国王陛下が退室、解散となった。

 そして一部の関係者は、そのまま残るように言われ、今後のことについて、さらに詳しく話を詰めることに。

「結局、魔石――じゃなかった、『魔法石』についての問題は一気に解決しましたね」

「ああ。怪我の功名といったところか」

 アシュリー様とシュウ様は、小さな声で会話しつつ、苦笑いしている。
 あれだけ皆の頭を悩ませてきた魔石と聖魔法の問題に、こんな形で決着がつくとは、誰も思っていなかっただろう。
 ただ、その分新たな問題も浮上している。

「――それで、現在問題となっているのが、今後のミア嬢及び聖女たちの処遇についてだ」

 王太子殿下は私とマリィ嬢を交互に見る。私がマリィ嬢に目をやると、ばっちり目が合って、彼女はにこっと笑った。

「こうして箝口令を敷いてはいるが、ミア嬢の力が露見する危険性は格段に増したと言える。また、聖女たちが城に滞在するとなると、今まで互いに不可侵だった教会と王族との関係を疑う声も、今後出てくるだろう。すぐにでも対策を練る必要がある」

「昨日もお話ししたんですけどぉ、私たち南の丘教会のメンバーは、もう教会に戻るつもりがないんですぅ。それでぇ、魔法騎士団長様にお願いしようと思っていたんですけど、魔法騎士団さんで私たちを預かってもらえないかなぁって」

「魔法騎士団で? 教会から離反した貴女たちを?」

 オースティン伯爵が、眉を顰める。南の丘教会の聖女たちを預かるということは、教会への対立の意思があるとみなされても、おかしくない。
 やはり、表立って教会と対立するのは、魔法騎士団としてはあまり良くないだろう。

「俺からも、お願いします」

 例の神殿騎士が、頭を下げた。

「俺たち神殿騎士は、聖女の加護を攻撃に転じる秘技である聖剣技と、結界魔法による守護を得意としています。人間が聖女を襲ってくることはほとんどないので、対魔獣戦、対魔法戦を想定した戦い方を修得しています」

「聖剣技……かつて勇者様が使ったという御業ですね」

「ええ、そうです。邪を払う聖なる剣技は、普通の攻撃が効かない魔族に対しても効果を発揮したと言います」

 魔族との戦いが激しかった頃。
 大聖女の加護を受けた勇者の剣が、魔族の王を打ち砕いたという。
 聖女と剣士、二人で織りなす聖なる剣技――それがすなわち、聖剣技だ。

「これまで教会が秘匿してきた特別な秘伝ですが、魔法騎士団に身を置かせていただけるなら、魔法騎士の皆様も聖剣技を扱えるように、お教えしようと思います。聖剣技は魔族だけでなく、魔獣にも絶大な効果を発揮しますよ」

「もちろん、聖女の魔法も、魔法騎士団さんの都合で好きなように使ってもらって構わないですぅ。聖剣技を扱う時にも必要になりますしぃ、怪我を治したり、呪いを解いたり、他にもお手伝いできることはいっぱいあると思うんですぅ」

「……それは大層魅力的な提案だが……」

 そう言って、オースティン伯爵はシュウ様を見た。

「……魔法師団も、聖魔法は喉から手が出るほど欲しいですね。ですが、教会と真っ向から対立するには、魔法師団は大きすぎる組織だ」

「だろうな。魔法騎士団も同じく、だ。下手に動くと、確実に国が乱れる」

「そんなぁ……じゃあ、どうすればぁ」

 マリィ嬢は、がっくりと肩を落とした。

「……そもそも貴女たちは、なぜ教会から離反したのだ? 理由によっては、対応を考えなくもないが」

「――教会の中枢には、魔が巣食っているんですぅ」

「……魔?」

「はいぃ。私は最近まで気づかなかったんですけど――」

 マリィ嬢は、教会に関する衝撃の実態を、語り始めた。
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