11 / 11
第十一話 大切なものは、いつもすぐそばに
しおりを挟むそうしてスティーブは、ついにクロエに全てを話した。
アメリアが悪魔だったこと。クロエに呪いをかけたこと。
そして、この十ヶ月間のこと。
「呪いを解くために、不死鳥の涙が必要だったんだ」
「不死鳥の涙?」
「そう。呪いや毒、瀕死の重傷までも癒やすという、伝説の不死鳥」
呪いについては、王宮の禁書庫ですぐに調べることができた。そして、人間や悪霊程度のかける弱い呪いなら、浄化したり跳ね返す手段も確立されている。
しかし、アメリアほどの強力な悪魔がかけた呪いは、簡単には解けそうになかった。術者本人が解くか、もしくは、伝説にある不死鳥の涙を使うしかない。
「不死鳥の居場所は、王族にしか辿ることが出来ない。ようやく辿り着いたとしても、その巣はドラゴンに守られている」
伝説は、真実だった。
スティーブは、王族固有の魔力を頼りに、一人で不死鳥の巣を探し出した。
何度もドラゴンに挑んでは負け、半年以上もその巣に通い続け、満身創痍になるまで一人で戦った。
そして、彼はついにドラゴンに認められ、不死鳥に貴重な涙を分けてもらったのだ。
こうして伝説を辿り、不死鳥に会うことができた勇者は、数百年ぶり――建国王以来だったという。
「私は……君が笑ってくれなくなったことを、ずっと寂しく思っていたんだ。だから、心の隙間から悪魔に侵入され、魅入られてしまった」
「申し訳ございません……わたくしが、殿下のお気持ちを察して差し上げられなかったせいで」
「いや、誓って君のせいではない。私自身の心の弱さが招いたことだ。けれど、もう迷わない」
スティーブは、ベッドに身を起こしたクロエの髪に優しく触れ、ひと房すくいあげる。
「君が、私のために努力してくれていたことを知っている。君が、私を大切に思ってくれていたことを知っている。君が、つらくても人に甘えられない性分であることも、知っている」
スティーブは、すくい上げたクロエの髪に、そっと口づけを落とした。
クロエの瞳が、揺れる。感情を、隠すことなく。
「だから、もう一度――改めて約束するよ。これから一生、命を賭して君を守ると。そして、君がつらいときは……どうか私に、遠慮なく甘えてほしい」
「殿下……」
「君を失いかけて、ようやく気がついた。私は、クロエを、ずっと愛していたんだ。燃えるようにではなく、静かに、穏やかに。凪いだ心に染み渡るように――時間をかけて、ずっと」
スティーブは、クロエの髪を、彼女の耳にかけた。
クロエのルビーの瞳には、みるみるうちに涙が溜まってゆく。
ずっとこらえていたものが、縁から溢れ出すように。
「そして、それは今もだ。クロエ……愛している。私と、結婚してくれ」
こらえきれず、クロエの瞳から、大粒の涙がこぼれた。
「はい……! よろしく、お願い、致します……っ」
スティーブが拭っても拭っても、その瞳からはあたたかな涙がどんどん溢れてくる。
クロエは、泣きながら笑った。
スティーブも、微笑んだまま、何故だか涙が出てきそうになる。
「スティーブ殿下……。わたくしも、ずっと、ずっと、貴方をお慕いしております」
――あの時の自分は、なんて愚かだったのだろう。こんなにも深く心地よい愛情が、いつもそばにあったのに。
もう二度と、迷わない。
クロエの潤んだ瞳を見つめて、スティーブは、心に固く誓ったのだった。
「クロエ……」
スティーブは、クロエの頬に手を添える。
クロエが目を閉じると、二人の唇が、再び近づいていった。
◇◆◇
こうして。
時が経ち、スティーブとクロエは、賢王、賢妃と呼ばれることとなった。
二人は仲睦まじく寄り添い、子宝にも恵まれて、その治世を穏やかに終えたという。
もう二度と、約束を違えることなく――。
(完)
616
お気に入りに追加
363
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
悲劇の悪役令嬢は毒を食べた
桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
【本編完結】
悪役令嬢は
王子と結ばれようとするお姫様を虐めました。
だから、婚約破棄されたのです。
あくまで悪いのは悪役令嬢。
そんな物語が本当かどうか。
信じるのは貴方次第…
コンラリア公爵家のマリアーナは、
ロザセルト王国の王太子のアレクシスの婚約者。
2人は仲つむまじく、素敵な国王と国母になられるだろうと信じられておりました。
そんなお2人の悲しき本当のお話。
ショートショートバージョンは
悪役令嬢は毒を食べた。
けじめをつけさせられた男
杜野秋人
恋愛
「あの女は公爵家の嫁として相応しくありません!よって婚約を破棄し、新たに彼女の妹と婚約を結び直します!」
自信満々で、男は父にそう告げた。
「そうか、分かった」
父はそれだけを息子に告げた。
息子は気付かなかった。
それが取り返しのつかない過ちだったことに⸺。
◆例によって設定作ってないので固有名詞はほぼありません。思いつきでサラッと書きました。
テンプレ婚約破棄の末路なので頭カラッポで読めます。
◆しかしこれ、女性向けなのか?ていうか恋愛ジャンルなのか?
アルファポリスにもヒューマンドラマジャンルが欲しい……(笑)。
あ、久々にランクインした恋愛ランキングは113位止まりのようです。HOTランキング入りならず。残念!
◆読むにあたって覚えることはひとつだけ。
白金貨=約100万円、これだけです。
◆全5話、およそ8000字の短編ですのでお気軽にどうぞ。たくさん読んでもらえると有り難いです。
ていうかいつもほとんど読まれないし感想もほぼもらえないし、反応もらえないのはちょっと悲しいです(T∀T)
◆アルファポリスで先行公開。小説家になろうでも公開します。
◆同一作者の連載中作品
『落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる』
『熊男爵の押しかけ幼妻〜今日も姫様がグイグイ来る〜』
もよろしくお願いします。特にリンクしませんが同一世界観の物語です。
◆(24/10/22)今更ながら後日談追加しました(爆)。名前だけしか出てこなかった、婚約破棄された側の侯爵家令嬢ヒルデガルトの視点による後日談です。
後日談はひとまず、アルファポリス限定公開とします。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
どうぞご勝手になさってくださいまし
志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。
辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。
やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。
アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。
風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。
しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。
ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。
ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。
ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。
果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか……
他サイトでも公開しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACより転載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる