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第六話 王子は答えに辿り着く

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 スティーブが公爵邸を訪れると、クロエは、侍女に支えられながらも、玄関まで出迎えてくれた。

「殿下、お見舞いありがとうございます」
「ああ、婚約者だからな。当然のことだろう?」

 彼の言った『婚約者』という言葉に、クロエは、気取られぬほどわずかに、眉尻を下げた。

「体調が悪いのだろう? 寝ていなくて良いのか?」
「ええ。大切な殿下をお迎えするのに、ベッドの中という訳には参りませんもの」
「しかし……」

 クロエの顔には血の気がない。化粧をしていてもわかるほど、顔色が悪かった。

「どうして君は、そんなに無理を……」
「今は起き上がれますし、わたくしのことなら、問題ございませんわ。それより殿下……婚約は解消できなかったのですね。申し訳ございません」
「なぜ謝る?」
「殿下は、アメリア様のためを思って、大勢の人がいるあの場で、婚約破棄を宣言するおつもりだったのでしょう」

 スティーブは、目を丸くした。
 クロエは、自分が大勢の前で虚仮こけにされるにもかかわらず、負の感情を呑み込み、それを受け入れようとしていたのだ。

 しかも、自分の余命が僅かだと知った今、他者に構う余裕など普通はないはずなのに――クロエは、スティーブに謝罪している。
 それも、悲しいはずなのに、悔しいはずなのに、微笑みの仮面をつけて。

「わたくしも、婚約を解消していただけるよう、父にお願いしたのですが……無理だと断られてしまいました。わたくしは、どうあってもあと一年間は、殿下を縛り付けてしまう定めのようです。ですが、その後はいなくなりますから……そうしたら、アメリア様と、お幸せになってください」

 クロエは、仮面のような微笑みを、無理矢理顔に貼り付け続けている。
 巧妙に隠された仮面の奥に宿っているのは、深い悲しみと寂しさ。今回ばかりは、スティーブにもそれを感じ取ることができた。



 スティーブは、帰り際に、クロエの主治医に話を聞いた。

「……私からお話しできることは、ございません」

 しかし、主治医からも、満足のいく答えは得られなかった。

「殿下……しかし、一つだけ、言えることがございます。お嬢様の症状は、医術で改善できるものではありません。原因を排除できるのも、お嬢様を取り戻せるのも、殿下だけにございます」
「それは、もしや……」

 スティーブには、主治医の遠回しな言い方に、思い当たることがあった。
 ――答えはおそらく、禁書庫の中だ。

「参考になった。感謝する。私が手を打つまでの間……どうか、クロエをよろしく頼む」
「承知致しました」

 スティーブはすぐさま王宮に帰り、禁書庫へと向かったのだった。


 禁書庫で調べ物を始めたスティーブは、すぐに目的の書物に行き当たった。クロエの症状、そして自身の頭を霞ませていた暗い靄について、思うところがあったのだ。

「……やはりか」

 彼は書物を読みこみ、王宮魔術師を呼んで入念に対策を施す。
 そして、決して気取られぬように、元凶と思われる人物――アメリアを学園の空き教室に呼び出した。
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