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第五話 王子は光を取り戻す
しおりを挟むスティーブがクロエの身体のことを知ったのは、翌日のことだった。
普段は顔も合わせない国王に、珍しく朝食の席へと呼ばれ、そこで知らされたのである。
「スティーブ。昨日、クロエ嬢が倒れたと聞いたが」
「ええ。卒業パーティーの途中で倒れたと聞きました。貧血だったそうです」
「貧血? 誰がそのようなことを言ったのだ。それに、他人事のように言うが、お前はクロエ嬢が倒れるところを、間近で見ていたのだろう?」
「え……? 間近で……私が……? うっ」
昨日のことを思い出そうとして、スティーブの頭にまた鈍い痛みが走った。
血の気を失った顔。
力なくくずおれる細い身体。
白い頬に残る、一筋の涙――。
暗く澱んでいたスティーブの目に、再び青い光が戻ってくる。
「クロエ……、確かに彼女は、私の目の前で……。医務室に運ばれて、その後は」
彼女が貧血で倒れたのだと伝えてきたのは、誰だったか。
不思議なことに、スティーブはクロエが貧血だと聞いた覚えはあるのに、誰がそう言ったのか全く覚えていなかった。
「よく聞きなさい。詳しいことは言えないが、クロエ嬢の余命はあと一年だそうだ」
「……は……? 今、何と……?」
スティーブの頭は、真っ白になった。
確かに顔色は悪かったし、以前よりも痩せてしまったように思ったが……余命一年?
スティーブは趣味の悪い冗談だと思ったが、間違っても国王が冗談など言うはずがない。
「このままお前が何もしなければ、彼女は一年で死ぬ、と言ったのだ」
「……そんな……!」
衝撃を受けているスティーブに、畳み掛けるように国王は話を続ける。
「それから、彼女が生きている限り、余はお前とクロエ嬢との婚約を解消する気はない。お前たちがいくら望もうともな」
「私がクロエとの婚約解消を望むなど……」
「……望んでいたのだろう?」
スティーブの脳裏に、昨日のパーティーで言おうとしていた口上がよみがえってくる。
――どうか悪夢であってほしい。
そう思うが、全て現実だったようだ。
スティーブは、自分がクロエに行った仕打ちを次々と思い出す。重い石が、心にどんどん積み上がってゆく。
「私は……なんということを……」
「……ようやく思い出したか」
「父上。クロエは……重い病気なのですか? 治る見込みはあるのですか?」
「――余は、何も言わぬ。それが余の答えだ」
国王は、詳しいことを何一つ教えてくれなかった。
試すような視線が、スティーブを強く射貫いている。
「スティーブ。自らがどうするべきか、今一度よく考えろ。――禁書庫の鍵を、しばらくお前に預けておく」
国王はそう告げると席を立ち、スティーブの前にゴトリと重たい鍵を置いて去った。
禁書庫の件も気にはなるが、スティーブは、先に公爵邸へ見舞いに行くことに決めた。
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