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「色のない虹は透明な空を彩る」スピンオフ第一弾

第8話 ようやく僕の出番です

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 カイの叫びを受けて、僕たちはすぐにその場に伏せた。

 爆発自体は、小規模だ。
 毒茸トードストゥールの胞子も、遠くから魔法攻撃をしていたアリサ達や、僕達には届かない。

 ――しかし。

「カイっ!」

「待て、アリサ! 近づくな!」

 カイに駆け寄ろうとしたアリサを、オリヴァーが制する。

 盾の精霊の力で身体を強化していたカイは、至近距離での爆発をものともしなかった。
 しかし、間近で浴びた毒茸トードストゥールの胞子のせいか、膝を折り、苦しそうな表情をしている。

「蛇じゃない。迷宮ダンジョンの主の本質は、毒の精霊だったんだ。急いで解毒しないと!」

「で、でも、オリヴァー様。解毒が可能な水の精霊の力は使ってしまいましたし、毒茸トードストゥールの解毒薬は持っていないですよ」

「けど、早くしないと、カイが……!」

 オリヴァー達は、胞子の舞う中でカイに近寄ることも出来ず、狼狽うろたえている。

 僕は、森で調査をしていた時と同じように、布で鼻と口をしっかり覆って、無言でカイの近くへと歩み寄っていった。

「デ、デイビッド!? 危ないから――」

「大丈夫だ。坊ちゃんは、専門家・・・だ。坊ちゃんに任せて、出来るだけ空気が綺麗な所で待っていた方がいい」

 トマスが、皆をしっかり退避させたようだ。
 遠くにいれば胞子の影響を受けづらいとはいえ、密室では少しずつ身体が毒に侵されてしまう可能性もある。
 すぐ屋外に出られない状況であれば、出来るだけ離れてもらった方がいい。

「お……俺を置いて、逃……げろ……」

 カイは玉のような汗をかきながら、そんな情けないセリフを口にした。
 だが、僕は黙って口元に人差し指を当て、静かにしろとサインを出す。

 僕は腰に付けたポーチから、数種類の薬瓶を取り出す。

 先程迷宮ダンジョンの外で採取した毒茸トードストゥールの胞子。
 それが、各々の薬瓶に入った薬品と混ざり合い、様々な色に変化していた。

 僕はその内の一つの瓶の蓋を開ける。

 ――これは駄目だ。次。

 ――こっちは逆に毒が増えている。慎重に蓋をする。次。

 ――これは……これなら、いけるかもしれない。

 試しに、水に浸けただけの毒茸トードストゥールの欠片に試薬を垂らす。
 一滴の試薬で、毒茸トードストゥールの欠片は溶けていき、その毒性は綺麗さっぱり消えてなくなった。

 ――これだ。

 僕は、試薬を数滴、清潔なガーゼに染み込ませる。
 ガーゼを少し揉んで薬剤を浸透させると、カイの鼻と口を覆うように当てた。

 ものの数分で、カイの顔は血色を取り戻し、無事、呼吸も安定したのだった。
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