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第三章 黄
第35話 『聖夜の街』
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~第三章・黄~
「うぅ、寒いね。手袋してても手がかじかむ……」
「僕もこの街は、初めて来た。聖王都よりずっと気温が低いみたい」
「ええ、この街は聖王国の北端にありますからね。吹雪いていないだけマシですよ」
私とセオと、ロイド子爵家の使用人エレナの三人でやって来たのは、『聖夜の街』。
雪が降り積もる、聖王国北端の小さな街である。
この街では間もなく『降聖霊祭』という催しが行われる。
降聖霊祭は、この街で一年に一度、この季節に開かれる重要な行事なのだという。
街はキラキラとした電飾で飾られ、夜でも明るい。
「すごいね、電飾って初めて見たわ。街路灯の明かりも、火ではなくて電気なの?」
「お嬢様、よくお気づきになられましたね。この街は、雷の高位精霊様のお膝元なのです。そのため、電気を司る中位、下位の精霊様や妖精たちも暮らしやすいみたいですね。街を彩る電飾や電灯も、加護を受けた町民たちや妖精たちが管理してくれているんですよ」
「へぇ……」
街中がキラキラ輝いていて、眩しいくらいである。
私の目では判断できないが、いろんな色の電飾があるようだ。青や緑の電飾も点在している。
もし全ての色がちゃんと見えていたら、さぞかし綺麗なのだろうと思う。
「僕も、書物で見たことはあるけど、こんなに綺麗だとは思わなかった。電気の明かりだから、雪が降っても消えないんだね」
「セオ様、御明察です。雪の日には時々、線で繋がっている電飾などがショートしてしまうこともあるのですが、そういう時は妖精たちがすぐに対処してくれます。妖精たちのおかげで火事にもなりませんし、近寄ったり触ったりしなければ安全性も高いんですよ」
「聖王国では、本当に妖精や精霊が身近な存在なのね。王国とは真逆だわ」
「ええ、お嬢様。聖王国では、精霊様を何よりも大切にしていますから。魔法の力を自ら棄てた王国とは、精霊様の在り方も人々の在り方も、まるっきり違うのです」
街を案内するエレナの話を聞きながら、私は聖王国についてフレッドから聞いた話を思い出していた――
***
「セオ、パステル嬢ちゃん。ワシ、帝国で騎士やることにしたから、よろしくの。この宿に泊まるのも今日までじゃから、明朝までに荷造りしとくんじゃぞ」
ベルメール帝国の皇城を出て、朝まで泊まっていた宿に戻ると、フレッドは突然そう切り出した。
フレッドは大きな体躯の老人である。
これまではオーバーオールに長靴という農夫スタイルだったが、皇城の客室で会った時には何故か騎士服を着ていたのだ。
「……お祖父様、騎士って、どういうこと?」
眉をひそめてフレッドにそう尋ねた少年は、セオ。
淡い水色の髪と整った容姿、儚げな雰囲気を持つ、絶世の美少年である。
フレッドの実孫なのだが、似ても似つかない。
彼は、出会った当初は感情を持たない不思議な男の子だったのだが、最近は徐々に色々な感情や表情を見せてくれるようになった。
「いやー正直のう、今回の件で身バレしてしまったじゃろ? 聖王国に噂が届くのも時間の問題じゃ。そうなると、早急に強い後ろ盾が欲しいからのう」
フレッドはこれまで隠していたようだが、その正体は、北にあるエーデルシュタイン聖王国を治めていた、元聖王である。
「あの、フレッドさん。ずっと聖王国から身を隠していたのは、どうしてなんですか?」
「ワシが、『岩石の神子』だからじゃ」
「……えっと……?」
私はフレッドに尋ねたものの、返ってきた答えに理解が及ばず、首を傾げた。
フレッドが海岸を岩の壁で覆った時に、彼が『神子』であろうことはうすうす勘づいていた。
だが、そのこととフレッドが身を隠す理由と、何の関係があるのだろうか。
「そうか、パステル嬢ちゃんは王国出身じゃから、聖王国の事情は知らないんじゃな」
「はい」
私、パステルは、ファブロ王国の北東部、ロイド子爵家前当主の娘だ。
虹色の髪と色を判別できない眼から、社交とは遠ざかって暮らしてきた。
まあ、もし仮に社交の場に出ていたとしても、王国は長年他国との交流を絶っているため、国外の情報は一切入って来なかっただろうが。
「まず、聖王国がどういう国か、という所から話さなくてはならんな。聖王国は、精霊の力を棄てた王国とは真逆で、精霊の加護と魔法の力を主軸とした国じゃ。何をするにも精霊の意向が強く関わってくる。国民は精霊を崇め大切に守る代わりに、精霊も国土に恵みをもたらしてくれるのじゃ。ここまではいいかの?」
「はい、大丈夫です」
「じゃから、年齢や親の身分に関係なく、成年王族の中で精霊の加護が最も強い者が王座につく。具体的には、六大精霊の加護を持つ『神子』、高位精霊の加護を持つ『祝子』、中位精霊の加護を持つ『加護持ち』の順に、王位継承権が発生するといった具合じゃな」
「なるほど。位の高い精霊の加護を受けているほど、王位に近づくということですね」
「そうじゃ。精霊の加護は生まれつきでの、誰にどの精霊が加護を授けるかは各精霊が決めておるから、人間はまったく関与できないのじゃ。今の聖王マクシミリアンは前王の息子、ワシの甥にあたるんじゃが、中位精霊の『加護持ち』でのう」
そこでフレッドは一度言葉を切り、ため息をついた。少しだけ声のトーンを落として、続ける。
「今現在、聖王国では、現王以外に成年王族で王位継承権を持つ者がいないという異常事態が起こっておる。マクシミリアン……マックスは、どうもその椅子に執着があるようでのう。気付いたら、奴以外の成年王族は皆、あの世か国外に行く羽目になっとった。ワシも含めてな」
「そんな……」
「まあ、証拠も集まっていないから何とも言えんが、色々と想像はしてしまうのう。……さて。それで、そこに『神子』であるワシが堂々と国に戻るようなことがあれば、何が起きると思う?」
「……!」
私は、ようやく事情を理解して、息を呑んだ。
「考えたくもないが、マックスはあの手この手でワシを始末しようとするじゃろうな」
重い沈黙がその場に落ちる。
だが、フレッドは場の空気を吹き飛ばすかのように、明るい声で続けたのだった。
「まあそうは言っても、簡単にはやられないがな。じゃが、ワシが望んでもおらん王位争いで、内乱が起きても困るからのう。はっはっは」
「うーん、事情は分かりましたが、他国の騎士団に所属するというのは問題にならないのですか?」
「見せかけじゃからな、正式な契約はしとらんよ。ほれ、先日の事件のせいで魔法を使わざるを得なくなったじゃろ? それでワシの存在がバレた訳じゃから、ちーと皇帝を脅し……じゃなかった、交渉させてもらってのう」
メーアと話していた時にも感じたが、フレッドは非常に強かな人物である。
「まあ他にも色々と条件をつけといたぞい。いずれ、セオとパステル嬢ちゃんの身にも危険が降りかかる可能性が高いからの。帝国に恩を売れたのは不幸中の幸いじゃな」
「危険、ですか?」
「うむ。まず、セオの立場が危険だというのは何となく分かるかの?」
「はい、セオは『神子』ですから、成人したら王位に近くなるのですよね」
「そうじゃ。しかもセオ以外の未成年王族は皆、下位精霊の加護しか得ておらん。今は、セオも感情を失って王位には『不適格』とされているから、現状では皆成人したとしても、王位継承権を持つ者が一人もおらんのじゃ」
私は一瞬、もしかしてこちらも……と思ったが、怖いのであまり深く考えない方がいいだろう。
「じゃが、セオが感情を取り戻したことが示されれば、セオは王位継承権を手にする。これまでマックスは、どんな治療を施しても感情が戻らないセオに興味を持つことはなかったようじゃ。しかし、感情が戻りつつある今、セオがおいそれと聖王国に戻るのは危険なんじゃよ」
「なるほど……」
「次は、パステル嬢ちゃんにも関わる話じゃ。聖王国では、特殊な方法で王位継承権を得られる場合があってな」
「特殊な方法……ですか?」
「うむ。嬢ちゃんは、『巫女』の力が加護と違って、人から人へと継承されることは知っておるな?」
「はい」
私は『虹の巫女』であり、『色』を代償に精霊の力を一時的に借りることができる。
その力は先代の『虹の巫女』であったセオの母、ソフィアから受け継いだものだ。
「特殊な方法というのは、中位精霊以下の加護しか持たない王族が、途中で『巫女』から力を継承し、新たな『巫女』になるという方法じゃ。『巫女』は、高位精霊の『祝子』と中位精霊の『加護持ち』の間に位置付けられる」
「えっと……つまり……」
「『巫女』を手中に収めれば、下位精霊以下の加護しか持たない王族も、王位継承権を得ることが出来るという訳じゃ」
「ちょっと待って、お祖父様。つまり、僕たちが『色』を探す旅を続けて、パステルが力を取り戻すと、パステルにも危険が及ぶってこと?」
セオが、フレッドの話に横槍を入れた。
表情があまり変わらないセオには珍しく、眉をしかめている。
「そうじゃ」
「……僕はいいけど、パステルを巻き込むのは……」
「セオよ。危険ではあるが、これは、罠ではない。唯一の活路じゃ」
「……どういうこと?」
「それは――」
***
「――様、お嬢様? 大丈夫ですか? 宿に着きましたよ」
「え? ああ、ごめんね。考え事をしてた」
いつの間にか思考の海に沈んでしまっていたようだ。
目の前には、帝都で泊まったより少し小さいが趣のある、二階建ての宿屋があった。
「寒いですから、中に入りましょう。さあ、お先にどうぞ」
そう言ってエレナは、宿の扉を開け、私とセオを先に通してくれたのだった。
「うぅ、寒いね。手袋してても手がかじかむ……」
「僕もこの街は、初めて来た。聖王都よりずっと気温が低いみたい」
「ええ、この街は聖王国の北端にありますからね。吹雪いていないだけマシですよ」
私とセオと、ロイド子爵家の使用人エレナの三人でやって来たのは、『聖夜の街』。
雪が降り積もる、聖王国北端の小さな街である。
この街では間もなく『降聖霊祭』という催しが行われる。
降聖霊祭は、この街で一年に一度、この季節に開かれる重要な行事なのだという。
街はキラキラとした電飾で飾られ、夜でも明るい。
「すごいね、電飾って初めて見たわ。街路灯の明かりも、火ではなくて電気なの?」
「お嬢様、よくお気づきになられましたね。この街は、雷の高位精霊様のお膝元なのです。そのため、電気を司る中位、下位の精霊様や妖精たちも暮らしやすいみたいですね。街を彩る電飾や電灯も、加護を受けた町民たちや妖精たちが管理してくれているんですよ」
「へぇ……」
街中がキラキラ輝いていて、眩しいくらいである。
私の目では判断できないが、いろんな色の電飾があるようだ。青や緑の電飾も点在している。
もし全ての色がちゃんと見えていたら、さぞかし綺麗なのだろうと思う。
「僕も、書物で見たことはあるけど、こんなに綺麗だとは思わなかった。電気の明かりだから、雪が降っても消えないんだね」
「セオ様、御明察です。雪の日には時々、線で繋がっている電飾などがショートしてしまうこともあるのですが、そういう時は妖精たちがすぐに対処してくれます。妖精たちのおかげで火事にもなりませんし、近寄ったり触ったりしなければ安全性も高いんですよ」
「聖王国では、本当に妖精や精霊が身近な存在なのね。王国とは真逆だわ」
「ええ、お嬢様。聖王国では、精霊様を何よりも大切にしていますから。魔法の力を自ら棄てた王国とは、精霊様の在り方も人々の在り方も、まるっきり違うのです」
街を案内するエレナの話を聞きながら、私は聖王国についてフレッドから聞いた話を思い出していた――
***
「セオ、パステル嬢ちゃん。ワシ、帝国で騎士やることにしたから、よろしくの。この宿に泊まるのも今日までじゃから、明朝までに荷造りしとくんじゃぞ」
ベルメール帝国の皇城を出て、朝まで泊まっていた宿に戻ると、フレッドは突然そう切り出した。
フレッドは大きな体躯の老人である。
これまではオーバーオールに長靴という農夫スタイルだったが、皇城の客室で会った時には何故か騎士服を着ていたのだ。
「……お祖父様、騎士って、どういうこと?」
眉をひそめてフレッドにそう尋ねた少年は、セオ。
淡い水色の髪と整った容姿、儚げな雰囲気を持つ、絶世の美少年である。
フレッドの実孫なのだが、似ても似つかない。
彼は、出会った当初は感情を持たない不思議な男の子だったのだが、最近は徐々に色々な感情や表情を見せてくれるようになった。
「いやー正直のう、今回の件で身バレしてしまったじゃろ? 聖王国に噂が届くのも時間の問題じゃ。そうなると、早急に強い後ろ盾が欲しいからのう」
フレッドはこれまで隠していたようだが、その正体は、北にあるエーデルシュタイン聖王国を治めていた、元聖王である。
「あの、フレッドさん。ずっと聖王国から身を隠していたのは、どうしてなんですか?」
「ワシが、『岩石の神子』だからじゃ」
「……えっと……?」
私はフレッドに尋ねたものの、返ってきた答えに理解が及ばず、首を傾げた。
フレッドが海岸を岩の壁で覆った時に、彼が『神子』であろうことはうすうす勘づいていた。
だが、そのこととフレッドが身を隠す理由と、何の関係があるのだろうか。
「そうか、パステル嬢ちゃんは王国出身じゃから、聖王国の事情は知らないんじゃな」
「はい」
私、パステルは、ファブロ王国の北東部、ロイド子爵家前当主の娘だ。
虹色の髪と色を判別できない眼から、社交とは遠ざかって暮らしてきた。
まあ、もし仮に社交の場に出ていたとしても、王国は長年他国との交流を絶っているため、国外の情報は一切入って来なかっただろうが。
「まず、聖王国がどういう国か、という所から話さなくてはならんな。聖王国は、精霊の力を棄てた王国とは真逆で、精霊の加護と魔法の力を主軸とした国じゃ。何をするにも精霊の意向が強く関わってくる。国民は精霊を崇め大切に守る代わりに、精霊も国土に恵みをもたらしてくれるのじゃ。ここまではいいかの?」
「はい、大丈夫です」
「じゃから、年齢や親の身分に関係なく、成年王族の中で精霊の加護が最も強い者が王座につく。具体的には、六大精霊の加護を持つ『神子』、高位精霊の加護を持つ『祝子』、中位精霊の加護を持つ『加護持ち』の順に、王位継承権が発生するといった具合じゃな」
「なるほど。位の高い精霊の加護を受けているほど、王位に近づくということですね」
「そうじゃ。精霊の加護は生まれつきでの、誰にどの精霊が加護を授けるかは各精霊が決めておるから、人間はまったく関与できないのじゃ。今の聖王マクシミリアンは前王の息子、ワシの甥にあたるんじゃが、中位精霊の『加護持ち』でのう」
そこでフレッドは一度言葉を切り、ため息をついた。少しだけ声のトーンを落として、続ける。
「今現在、聖王国では、現王以外に成年王族で王位継承権を持つ者がいないという異常事態が起こっておる。マクシミリアン……マックスは、どうもその椅子に執着があるようでのう。気付いたら、奴以外の成年王族は皆、あの世か国外に行く羽目になっとった。ワシも含めてな」
「そんな……」
「まあ、証拠も集まっていないから何とも言えんが、色々と想像はしてしまうのう。……さて。それで、そこに『神子』であるワシが堂々と国に戻るようなことがあれば、何が起きると思う?」
「……!」
私は、ようやく事情を理解して、息を呑んだ。
「考えたくもないが、マックスはあの手この手でワシを始末しようとするじゃろうな」
重い沈黙がその場に落ちる。
だが、フレッドは場の空気を吹き飛ばすかのように、明るい声で続けたのだった。
「まあそうは言っても、簡単にはやられないがな。じゃが、ワシが望んでもおらん王位争いで、内乱が起きても困るからのう。はっはっは」
「うーん、事情は分かりましたが、他国の騎士団に所属するというのは問題にならないのですか?」
「見せかけじゃからな、正式な契約はしとらんよ。ほれ、先日の事件のせいで魔法を使わざるを得なくなったじゃろ? それでワシの存在がバレた訳じゃから、ちーと皇帝を脅し……じゃなかった、交渉させてもらってのう」
メーアと話していた時にも感じたが、フレッドは非常に強かな人物である。
「まあ他にも色々と条件をつけといたぞい。いずれ、セオとパステル嬢ちゃんの身にも危険が降りかかる可能性が高いからの。帝国に恩を売れたのは不幸中の幸いじゃな」
「危険、ですか?」
「うむ。まず、セオの立場が危険だというのは何となく分かるかの?」
「はい、セオは『神子』ですから、成人したら王位に近くなるのですよね」
「そうじゃ。しかもセオ以外の未成年王族は皆、下位精霊の加護しか得ておらん。今は、セオも感情を失って王位には『不適格』とされているから、現状では皆成人したとしても、王位継承権を持つ者が一人もおらんのじゃ」
私は一瞬、もしかしてこちらも……と思ったが、怖いのであまり深く考えない方がいいだろう。
「じゃが、セオが感情を取り戻したことが示されれば、セオは王位継承権を手にする。これまでマックスは、どんな治療を施しても感情が戻らないセオに興味を持つことはなかったようじゃ。しかし、感情が戻りつつある今、セオがおいそれと聖王国に戻るのは危険なんじゃよ」
「なるほど……」
「次は、パステル嬢ちゃんにも関わる話じゃ。聖王国では、特殊な方法で王位継承権を得られる場合があってな」
「特殊な方法……ですか?」
「うむ。嬢ちゃんは、『巫女』の力が加護と違って、人から人へと継承されることは知っておるな?」
「はい」
私は『虹の巫女』であり、『色』を代償に精霊の力を一時的に借りることができる。
その力は先代の『虹の巫女』であったセオの母、ソフィアから受け継いだものだ。
「特殊な方法というのは、中位精霊以下の加護しか持たない王族が、途中で『巫女』から力を継承し、新たな『巫女』になるという方法じゃ。『巫女』は、高位精霊の『祝子』と中位精霊の『加護持ち』の間に位置付けられる」
「えっと……つまり……」
「『巫女』を手中に収めれば、下位精霊以下の加護しか持たない王族も、王位継承権を得ることが出来るという訳じゃ」
「ちょっと待って、お祖父様。つまり、僕たちが『色』を探す旅を続けて、パステルが力を取り戻すと、パステルにも危険が及ぶってこと?」
セオが、フレッドの話に横槍を入れた。
表情があまり変わらないセオには珍しく、眉をしかめている。
「そうじゃ」
「……僕はいいけど、パステルを巻き込むのは……」
「セオよ。危険ではあるが、これは、罠ではない。唯一の活路じゃ」
「……どういうこと?」
「それは――」
***
「――様、お嬢様? 大丈夫ですか? 宿に着きましたよ」
「え? ああ、ごめんね。考え事をしてた」
いつの間にか思考の海に沈んでしまっていたようだ。
目の前には、帝都で泊まったより少し小さいが趣のある、二階建ての宿屋があった。
「寒いですから、中に入りましょう。さあ、お先にどうぞ」
そう言ってエレナは、宿の扉を開け、私とセオを先に通してくれたのだった。
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