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妖精たちのティーパーティー☕️Tea party of Fairies
第13話 恵みの森の妖精たち
しおりを挟む鈴を鳴らしたような音に振り返ると、花のドレスを纏った妖精たちが、たくさん集まって来ていた。
『アデルーこんにちはー』
『新しい人間ー』
『誰ー?』
「わぁっ!?」
私は、びっくりしてよろめいてしまった。アデルが、慌てて支えてくれる。
彼女たちの言葉は、鈴のような音色に聞こえるのに、何故かその意味を理解することが出来るのだ。
『人間ー私たちの言葉届いてるー?』
『森の祝福、届いてるー?』
「え、えっと、妖精さんたち……こんにちは。私はレティ。あなたたちの言葉、届いてるよ。でも、何でだろ……」
「精霊の祝福のおかげだ。レティがこの森で生きていくことを認め、森の生き物と意思の疎通を出来るようにしてくれたんだ」
「わぁ……!」
先程の祝福で、妖精たちの言葉が分かるようになったのか。
なら、先日アデルが巨鳥のエピと話していたのにも、納得がいく。
「ありがとう、精霊様……! 妖精さんたち、これからよろしくね」
『よろしくー』
『今日からレティも森の仲間ー』
『レティは森で何の仕事するー?』
「仕事?」
『アデルは森の管理してるー』
『働かざる者食うべからずー』
『レティは何するー?』
妖精たちは私に興味津々だ。私を取り囲んできらきらした目で尋ねてくる。
私が返答に困っていると、すぐに横から助け舟が出た。
アデルはそっと私の肩を引き寄せ、妖精たちに向かって優しい口調で告げる。
「レティは、怪我をしているんだ。仕事は、怪我がきちんと治ってからするよ」
『そっかーわかったー』
『怪我、早く治すー』
『お大事にー』
「あ、ありがとう」
妖精たちは、思い思いに、ひらひらと森の奥へ去っていった。
私は当然の義務を失念していたことに気付いて、独りごちる。
「そっか。森で暮らすなら、森の一員として何か仕事をしないといけないんだ。当たり前だよね」
「ああ、すまない。だが、そんなに重く考える必要はないぞ。何なら俺の補佐という形でも構わないんだが、君自身は何かやりたいことはあるか?」
「やりたいこと……と言っても、私が出来ることといったら、お料理ぐらいです」
独り言に律儀に反応を返してくれたアデルの言葉に、私は自分に出来ることを思案する。
料理が得意と言っても、人が住まないこの森の中では役に立たない。
アデルやドラコに食事を作るぐらいしか、役に立てそうなことは――
「――あ」
「どうした?」
「ドラコって、そういえば妖精ですよね。森に住む妖精さんたちも、ドラコと同じように食事をとるんですか?」
「ああ、もちろん。森にある果実や野菜を食べて暮らしている。好みはそれぞれだが、味覚も俺たちと大差ないようだぞ」
「なら――妖精さんたち相手にレストランを開いたら、喜んでもらえると思いますか?」
「妖精相手のレストラン……いいんじゃないか? 珍しいものに興味を持つ妖精もいるだろう。それに、それなら――」
アデルは、何か言おうとして言い淀んだ。
先程、精霊の祝福を受ける前に見せたほんの少しの翳りもすっかり消え、逆にホッとしたような表情に切り替わる。
「いや、何でもない。とにかく、賛成するよ」
「なら、早速……! 妖精さんたちは、どんな食べ物が好きなんですか? 飲み物は? 味は薄いのと濃いのと、どちらが好みですか? 食べられない食材は――」
「ま、待て、レティ。確かに賛成はしたが、それより君は、先にやることがあるだろう」
「へ? ……あ、それもそうですね……」
「そうだ。一旦家に戻ろう」
私としたことが、アデルのことが最優先のはずなのに、うっかりした。気分を害しただろうか。
妖精相手とはいえ、夢だったレストランを開けるかもしれないと思って、ついつい夢中になってしまった。悪い癖だ。
「レティ、何よりまずは怪我を治して――」
「――アデルさんの好きな料理は、何ですか?」
「……え?」
アデルは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。何か言おうとしていたところだっただろうか?
けれど、やっぱりちゃんと伝えなきゃ……彼が最優先だって。
「私、誰よりもアデルさんに、一番に喜んでもらいたいんです。レストランを開いても、これから毎日アデルさんのご飯は私が作りますから、安心してくださいね」
「いや、俺は」
「あ、私の料理がお口に合わないようなら、ちゃんと練習して調整しますから。時間はかかるかもしれませんけど、きちんとアデルさん好みの味をマスターして――」
「レティ」
「はいっ」
「俺は、君の手料理なら、何でも嬉しい。だが、それ以上に、君に無理をしてもらいたくないんだ。だから、まずはしっかり静養して、その怪我を治そう」
「……え? でも」
「大丈夫。これから、時間はたっぷりあるんだから。君はもう、この森の家族だ」
「家族……」
たった二文字のその言葉がもたらす喜びは、計り知れないものだった。
じわじわと心に染み込んできて、あったかくて、くすぐったくて――
ああ、もう――、幸せ。
「さあ、帰ろう。俺たちの家に」
「――はい!」
私とアデルは、どちらからともなく、自然と手を取り、微笑み合う。
二人でゆっくりと歩いて戻る道は、差し込む木漏れ日に明るく照らされていた。
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