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2 今度こそ君を守ると誓う ★ウィリアム視点
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ウィリアム視点です。
***
あの事件が起こったのは、俺が十九歳、ミアが十七歳の時だった。
王城前広場で催された大きな式典――俺の所属する魔法騎士団を狙って、ある一団が暴動を起こしたのだ。
奴らは、滅びたはずの魔族が扱う『呪い』が込められた矢を、複数所持していた。
不覚にも俺は気が付かなかったのだ。そのうちの一矢が俺を狙っていることに。
俺を狙った矢は、真っ直ぐに俺に向かってきて、そして――俺の隣にいたミアの身体に、深々と突き立ったのである。
ミアは、あろうことか身を呈して俺を庇ったのだ。
「なぜ、俺を庇った……?」
とっさに自分の口から出た言葉は、ミアの身を案じるものではなかった。
この頃俺とミアは冷め切った関係で、ミアが俺との婚約から逃げたいとさえ思っていたのを、薄々感じ取っていた。
そんな関係のミアが、身を呈してまで俺のことを守ったことが、俺はただただ不可解だった。
「これで……私も、あなた、も……自由に、なれ……る」
ミアはどこか晴れやかな、しかし今にも泣きそうな表情でそう告げ、気を失った。
「ミア……? ミア……、ミアぁぁぁあ!」
叫んでも、嘆いても、ミアはもう、目を覚まさなかった。
身体の傷が癒えても、彼女の心は、呪いに囚われ帰ってこなかった。
その言葉を最後に、ミアは覚めることない深い眠りに落ちてしまったのだ。
誰も信じてくれないかもしれないが、俺はミアを深く深く愛している。
だが、ここ数ヶ月は特に魔法騎士団の職務が忙しくて、彼女と過ごす時間を取ることが出来なくなっていた。
いつしか、彼女の笑顔は感情が乗らない空っぽなものに変わっていて、会うたびに俺の心は沈んでいった。
全く関わったことのない、顔も知らない令嬢との不本意な噂が流れていると知ったのは、屋敷を訪ねてもミアが俺に会ってくれなくなった後だった。
そして、俺も忙しさのあまり、その令嬢との噂などすっかり忘れ去り、撤回することもせずに放置してしまったのである。
こうなってしまってからではもう、何もかも遅すぎた。
それでも、ミアも参加するこの式典で、今日こそはきちんと説明しようと思っていた――その矢先の、この事件だった。
俺は、深く激しい後悔に襲われた。
もっとミアに心を砕いていれば。
恥ずかしがったりせず、惜しみなく愛を伝えていれば。
俺があの時、呪いの矢に反応できていれば。
式典の前に、不穏な動きを察知できていれば。
――偶然にも『魔女の秘薬』を手に入れたのは、幸運だった。
俺は願った。
ミアを呪いから護る力を。
愛しいひとに惜しみない愛と幸福を。
もう二度と、大切なひとを失うことがないようにと。
そして俺は、光に包まれ――
戻ってきた。
三年前――俺が十六歳、ミアが十四歳の、うららかな春の日。
そう、ミアが新しいドレスを身に纏って、現れた日。
そう、あの時――ミアは天使のように美しくて、衝撃を受けたのを覚えている。以前の俺は、あまりの美しさに固まってしまって、一言も話せなかったんだ。
それからミアに会うたびに、俺は内心の動揺を悟られぬよう、寡黙を貫いた。
あの時、言葉を飲み込んだりせず、一言でも褒めることが出来ていたら――何かが変わったのだろうか。
今度はもう、遠慮などしない。
ミアの心が凍ってしまったのは、間違いなく俺のせいなのだから。
そして応接間の扉が開く。
美しい天使の、憂いを帯びた海色の瞳と、視線が交わる。
愛しい人との再会に、俺の心は、歓喜に震えた――。
***
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あの事件が起こったのは、俺が十九歳、ミアが十七歳の時だった。
王城前広場で催された大きな式典――俺の所属する魔法騎士団を狙って、ある一団が暴動を起こしたのだ。
奴らは、滅びたはずの魔族が扱う『呪い』が込められた矢を、複数所持していた。
不覚にも俺は気が付かなかったのだ。そのうちの一矢が俺を狙っていることに。
俺を狙った矢は、真っ直ぐに俺に向かってきて、そして――俺の隣にいたミアの身体に、深々と突き立ったのである。
ミアは、あろうことか身を呈して俺を庇ったのだ。
「なぜ、俺を庇った……?」
とっさに自分の口から出た言葉は、ミアの身を案じるものではなかった。
この頃俺とミアは冷め切った関係で、ミアが俺との婚約から逃げたいとさえ思っていたのを、薄々感じ取っていた。
そんな関係のミアが、身を呈してまで俺のことを守ったことが、俺はただただ不可解だった。
「これで……私も、あなた、も……自由に、なれ……る」
ミアはどこか晴れやかな、しかし今にも泣きそうな表情でそう告げ、気を失った。
「ミア……? ミア……、ミアぁぁぁあ!」
叫んでも、嘆いても、ミアはもう、目を覚まさなかった。
身体の傷が癒えても、彼女の心は、呪いに囚われ帰ってこなかった。
その言葉を最後に、ミアは覚めることない深い眠りに落ちてしまったのだ。
誰も信じてくれないかもしれないが、俺はミアを深く深く愛している。
だが、ここ数ヶ月は特に魔法騎士団の職務が忙しくて、彼女と過ごす時間を取ることが出来なくなっていた。
いつしか、彼女の笑顔は感情が乗らない空っぽなものに変わっていて、会うたびに俺の心は沈んでいった。
全く関わったことのない、顔も知らない令嬢との不本意な噂が流れていると知ったのは、屋敷を訪ねてもミアが俺に会ってくれなくなった後だった。
そして、俺も忙しさのあまり、その令嬢との噂などすっかり忘れ去り、撤回することもせずに放置してしまったのである。
こうなってしまってからではもう、何もかも遅すぎた。
それでも、ミアも参加するこの式典で、今日こそはきちんと説明しようと思っていた――その矢先の、この事件だった。
俺は、深く激しい後悔に襲われた。
もっとミアに心を砕いていれば。
恥ずかしがったりせず、惜しみなく愛を伝えていれば。
俺があの時、呪いの矢に反応できていれば。
式典の前に、不穏な動きを察知できていれば。
――偶然にも『魔女の秘薬』を手に入れたのは、幸運だった。
俺は願った。
ミアを呪いから護る力を。
愛しいひとに惜しみない愛と幸福を。
もう二度と、大切なひとを失うことがないようにと。
そして俺は、光に包まれ――
戻ってきた。
三年前――俺が十六歳、ミアが十四歳の、うららかな春の日。
そう、ミアが新しいドレスを身に纏って、現れた日。
そう、あの時――ミアは天使のように美しくて、衝撃を受けたのを覚えている。以前の俺は、あまりの美しさに固まってしまって、一言も話せなかったんだ。
それからミアに会うたびに、俺は内心の動揺を悟られぬよう、寡黙を貫いた。
あの時、言葉を飲み込んだりせず、一言でも褒めることが出来ていたら――何かが変わったのだろうか。
今度はもう、遠慮などしない。
ミアの心が凍ってしまったのは、間違いなく俺のせいなのだから。
そして応接間の扉が開く。
美しい天使の、憂いを帯びた海色の瞳と、視線が交わる。
愛しい人との再会に、俺の心は、歓喜に震えた――。
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