上 下
10 / 25
第2章 ハダクトと怪しい動きⅡ

第9話 民のために

しおりを挟む
 シダが確実に敵を仕留めている間に、アソートとクリスは力の差を見せつけるように敵を倒していた。

『アソートvsプル』
 プルが余裕そうなセリフを言ったあの後。小回りの効かないランスの弱点を突こうと、アソートの背後に回り込んだプル。
 しかし、そう言う攻め方をしてくる敵とは幾度となく戦ってきたアソートは、ランスの持ち手を刃物ギリギリのところに持ち変えていた。長い持ち手の部分で背後に回り込んできたプルの後頭部を殴り、気絶させると、容赦なくランスの刃の部分でとどめを刺した。倒れるプルからは、オレンジ色の煙が上がっており、東側へと流れていった。

『クリスvsリジオン』
 こっちはさらにあっけなかった。あの後、刃のついたグローブに装備を変えたクリスに4発ほど殴られたリジオンは、それまでに急所を2回食らっていたこともあり、とてもあっさりと倒れたのだった。



「よし! 敵の大将は倒した。あとは実質的にこの国を動かしている貴族達を降伏させれば作戦終了だ。行くぞー!」

 クリスの掛け声とともに、クリスを先頭に第2部隊の6大隊の兵士が一気に王城へと侵入した。





 時は少し遡り、1小隊がハダクトの国民を鉱山のトンネルへと誘導し始めた頃。

(あの動き……やっぱりなんか変だわ。何か意図を感じる。あの方向には確か……あ!)

 避難をせず国民の様子を見ていたローズは、何かに気づいたように慌てて部屋を出ようとした。

「お嬢様! どちらへ行かれるのですか」

 部屋を出ようとするローズに執事は少し大きめな声で声をかける。

「あなたは先に避難してて! 私は少し行かなきゃ行けない場所ができたから」

 そう一言残したローズは、自分の家である豪邸を走って出て行った。1人残された執事は、急いでローズの両親に知らせなければと小走りで王城に向かうのだった。



(あの先には鉱山のトンネルがある。これはこの国の地形を把握しての誘導。考えられる理由は2つ。1つは王子を倒した後に、1箇所に集められた国民を狩るため。もう1つは戦いに巻き込まないために遠くに誘導している)

 ローズはトンネルに向かいながら、誘導する理由を2つほど考えた。貴族なだけあって、少しは頭を使うことができるみたいだ。


(でも後者は考えにくいわね。そんな都合のいい話があるわけないもの……え!? リジオン王子が一瞬でやられた……?)

 シダの考えは一般的ではないため、やはりローズも後者はあり得ないと考えた。誰だってそう考えるだろう。倒れるリジオンを見ながらも、止まるわけにはいかず、敵に見つからないようにローズは走った てその場を通り過ぎた。



(これは報いなの? 少しずつ腐って行く、国の変化に気づいていながら、何もしなかった。何もできなかった。だから国を失うの?
 父はいつも言っていた。私達が裕福な生活ができるのは、先代が、私達の家が地位を勝ち取ったから。それを勝ち取れなかったものが苦しい生活をするのは仕方のないことなのだと。
 本当にそうなのかな?私達は、何もしなくてよかったのかな。そこに気づいた私が彼らを救うべきだったんじゃないのかな?
 神様お願い! せめて……せめて今回だけは救わせて! 私に国を守らせて!)

 何もしなかった自分を後悔しつつも、これからは自分の意思のままに行動することを決意して、神に成功を祈った。




 ローズは貴族生まれの女性である。現在の歳は17。政治のことも少しずつ学んできている頃だった。小さな頃から貴族らしく生きるために、自分のやりたいことよりも家のためになることを優先してやってきた。
 唯一許してもらえたのは、初めて自分の意思で始めたバイオリンだけだ。バイオリンって貴族っぽいからね!

 そういった環境で育ったローズは、自分の考えをあまり積極的に表現できていなかったのだ。




 国の地形をしっかりと把握しているローズは、裏道や抜け道を使い小隊よりも早くにトンネルへとたどり着くと、国民達の前に立ち、敵を迎え撃つ体制を整えた。

「あんた貴族のやつだろ!」

「あれは いばら家 の者だ!   俺たちを見捨てた貴族が何しにきた!」

「そうよ!   今更何しにきたのよ!」

 他にもたくさんの罵声を浴びたローズ。悔し涙が溢れてくる。しかしくじけている場合ではない。
 ローズは、なぜか持ってきていたバイオリンを想いを込めて弾きだした。そのメロディは力強く、それで持って穏やかなもので、騒ぎ立てていた国民が次第にそのメロディに耳を取られていった。

「皆さん!   これは罠です。私はあの場から逃げず、次期国王になる王子の戦いをこの目に焼き付けようと、少し離れた場所から拝見していました。しかし、先ほど王子が敵にやられるところを見ました」

 静かになったあと、ローズは国民に現在の状況を訴えかけるように使えると、話を続けた。

「敵は皆さんをこの一点に誘導し、王子を殺した後にここに来て、一斉に攻め用としているのかもしれません。ですので、早くここからもっと奥へと逃げてください!」

 ローズは必死にそう訴えかけると、状況を理解したのか、国民達は少しずつトンネルよりさらに奥の山の高台へと逃げ始めた。

 しかし、とうとうそこに小隊の兵士が現れてしまった。ローズは民を守ろうと弱々しくバイオリンを構える。

「お?   お嬢さんやるのかい?」

「刃向かうものはやっていいって指示だからな。やっちまおうぜ!」

 兵士たちはそう言いった後、ローズを蹴り飛ばしたり、わざと攻撃を外しながら徐々に精神的に追い詰めると、悪役の笑みを浮かべながらとどめを刺そうとした。

「じゃあなお嬢さん。楽しかったぜ!」

 兵士は横に倒れるローズに向かって、とどめを刺すために剣を振り下ろそうとした。


(ここまでなの?   結局私は、何もできないまま死ぬの?   ちくしょう!   ちくしょうちくしょう!)

 そんなことを思いながら、ローズは目をつぶり死を覚悟した。





 ……


 恐怖で周りの音など聞こえていなかったローズは、死を覚悟し身構えたはいいが何も起きないことに疑問を抱き、恐る恐る目を開いた。

 そこには、茶髪で緑色の服を着た自分より10センチくらい身長の高い男の人が穏やかな顔をして立っていた。


「あなたは?   ……あ!   あなたはさっきまで王子と戦っていた!」

 ローズは、一瞬状況が掴めないまま起き上がったが、すぐにさっきまで王子と対峙していた敵の1人だと気づき、後ろに飛んで距離をとって構えた。

 そこに立っていたのはシダだった。


「まって!   君と戦う気は無いんだ。話を、ッッ!   話を聞いてほしい」

 優しく話しかけるシダ。

 味方であるシダに仲間を殺られた狙撃手は、不思議に思いつつもこれも作戦かもしれないと思い、この隙にローズを狙撃しようと、ローズの背後で銃を構えた。
 それを腰につけていたナイフを投げて防いだシダは、武器を捨てて両手を挙げ、戦いの意思がないことを示した。倒れた狙撃手からは、オレンジ色の煙が上がっていた。


「……話って何ですか」

 まだシダを信用できないローズは、腰を引きながらバイオリンの弦をシダに向けてそう言った。


「俺の、俺たちの仲間になってほしい」

 先ほどまで穏やかな顔をしていたシダは、急に真剣な顔になると、力強くローズにそう告げた。

「え?   仲間?   私に自分の国を裏切って敵に寝返ろっていうの!?」

 この状況で予想もクソもないのだが、それでも予想外すぎたシダの発言にローズは動揺を隠せずにいた。



「俺の名前はシダ。世界征服を目指すモノボルゥー王国第2部隊の参謀長だ。だがそれは仮の姿にすぎない。俺の真の目的はモノボルゥー王国現国王、オリバムの殺害。今はそれを達成するための仲間を集めている」

 シダはローズにそう告げると、一度一呼吸起き、挙げていた両手を下ろして最後にこう告げた。


「俺と一緒に、この腐った世界を変えてくれ!!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...