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第57話『Q.冒険者の魅力といえば?』

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「ようやく頭のお出ましか」

 ガイはそう言って落ちている財宝を一つポッケへと入れると再び剣を構えた。直後ゴブリン三匹が同時にガイへと襲いかかる。ガイは最初の時と同様一振りでそれを薙ぎ払う態勢だ。しかし待ち構えるガイへと届いたのは飛び掛かるゴブリンの攻撃ではなく、その後ろから攻撃を放つゴブリンロードの魔法だった。ガイは後ろに飛ぶことでその火属性の魔法を回避するが、体勢を崩してしまったせいで飛び掛かるゴブリンの攻撃をいなすことで精一杯に見える。先ほどまでの勢いは見られない。
 休む事なく襲いかかるゴブリンの群れ。右から左から次々にガイへと襲いかかる。俺は助けに入ろうと一歩足を踏み出す。しかし――

「大丈夫だ! Aランク冒険者の力見せてやるからよ、そこで見てな!」

 ガイはそう言ってブンブンと大剣を振り始めた。アレでは助けに入ろうにも巻き添いを食らってしまう。おそらくそれを狙っているのだろうが、あの数を一人で相手にするのは少々無茶な気がするのだ。しかし俺の身体能力ではガイのあの動きに合わせられない。
 ――少なくとも今はまだ。
 だから俺は見る事にした。ゴブリンの動きを、ゴブリンロードの魔法を、そしてガイの動きを。




 ■■■




 村の襲撃を止めたのは殆どがトールの提案した罠だった。俺は残りの雑魚をちょっとだけ倒しただけ。アレでは最後の美味しいところを持っていっただけの情けない奴だ。トールはこんな俺とパーティを組んでくれた。だからいいところを見せたい。

 俺はAランク冒険者だ。しかし戦闘スタイルがどうもソロ向きらしく、パーティを組んでも「お前と組んでもやりにくい」「もーちょっと周り見てくれないとねぇ」などと他の冒険者は去って行くばかりだ。周りに合わせて戦ってみようとしたこともあっただがそれでは俺の実力は発揮されず、それどころか大好きな冒険をつまらないと感じてしまっていた。いつしか俺はパーティを組まなくなった。ギルドにいても話しかけてくるやつは昔からの顔馴染みと同じAランク冒険者の奴らくらいだ。
 あの日も俺は一人でその日の仕事を探していた。そんな時俺に困った様子で話しかけてきたのがトールだった。椅子に座り一休みしていた俺に文字を教えて欲しいと言うのだ。普通なら周りのもう少し明るい雰囲気の奴らに声をかけるものだ。なんだかこいつは不思議なやつだとそう思った。
 数ヶ月後俺はトールと再会した。相変わらず入り口の挨拶? は意味がわからなかったが、ひとまわりもふた回りも成長したその姿に俺は少し驚いていた。話をしていくうちにトールが俺と一緒に仕事をしたいと言い出した。トールは気付いてすらいなかったが周りの奴らは『アイツも気の毒なやつだな』という風な目でこっちを見ていた。それでも俺はトールとパーティを組んでみたいと思った。だからとっさにメンバーを探してたなんて嘘をついてパーティを組んだのだ。結果は凄いなんてものじゃない。トールは頭が回る。見たことも聞いたこともない罠でゴブリンを何もしないままほぼ全て倒してしまった。これが初仕事だというのだから驚くのも無理はない。Aランク冒険者になってからもここまで才能を感じた冒険者はトールが初めてだ。というか魔物に対してトラップを仕掛けるなんて発想は冒険者にはなかった。冒険者といえば相棒の武器一本で敵を蹴散らすというのがセオリーだからだ。だがトールはそんな固定概念には囚われていない。騎士学校に通っているということもあって、知識が豊富なのだろうか。
 そうこうしているうちに俺たちはゴブリンの住処を荒らすだけ荒らして、今まさにその住人たちと戦っている。正直なところ俺はここまで何もしていない。だからまたパーティを組んでもいいと言われるようにここでいいところを見せておきたいのだ。
 俺の剣は特注品だ。どんなに振っても折れることはまずない。だから俺の得意な暴れで敵を蹴散らす。剣の重さなら誰にも負けない。
 俺は力一杯剣を振るうことでゴブリンロードの魔法を打ち返し、周りのゴブリン共々吹き飛ばしてやった。
 それでもゴブリンたちの攻撃は止むことがなかった。次第に俺の手数は減っていき、魔法を避ける事に集中せざるおえなくなっていった。これではトールにいいところなんて見せられない。
 くそ。大型モンスター一匹相手にするのとはわけが違う。これが俺の捨てた『連携』か。
 気付いたとき、俺の目の前にはゴブリンロードの放った炎が迫っていた。
 まずい、打ち返す? いや間に合わない。なら避ける? いやそれも間に合わないだろう。ヤバイ、燃え――
 とっさに目をつぶった。しかし、俺の体は熱くない。燃えていない? 避けられたのか?
 俺は瞼を開いた。魔法はなかったが、今度はゴブリンが三匹襲いかかってきていた。しかしそのゴブリンたちは目の前を飛んで行った影によって吹き飛ばされた。その方向を見れば、そこにはトールがいた。

「まったく、無茶するなぁ」

「トール?」

「Aランク冒険者ってみんなこんな無茶苦茶なのか? 一人でこの数相手にするのは無茶だぜ?」

 囲まれている今の状態で、俺の背中にトールは自分の背中をぶつけてきて言うのだ。

「ガイってさ、もーちょい周り見ろとか言われるだろ」

「なんでわかったんだ?」

「誰でも分かるわ!」

 ああ、また言われてしまった。もうトールとパーティを組むこともないのかな。せっかくいいところ見せようと思ったのに……。
 しかしそんな俺の想いを吹き飛ばすようにトールは背中の俺に笑いかけるのだった。

「お前のそういうとこ好きだぜ! それ一本で、一人でAランクまで上り詰めたんだろ? なら俺がその力最大まで引き上げてやるよ」

「それってどう言う?」

「これまでどうだったかは知らんが、ガイが周りに合わせたって実力は発揮できないんだろ? なら俺が合わしてやるよ! 一から十まで全部な!」

 俺にはトールがこの時何を言っているのか分からなかった。だが次の瞬間全てを理解した。そしてトールとならやっていけるとそう信じられた。
 こんな言葉をかけられたのは初めてだったから。

「だからガイ、背中は任せたぜ!」

 俺はいつも以上に剣を握る拳に力が伝わっているのを感じていた。
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