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第47話『Q.期待に応えられますか?』

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 やはりテューは天才だった。テューは私がグランドガントレスについて伝える前にその妙なオーラに感づいていたようで、突拍子も無い私の話をすんなりと受け入れ、いち早く対策を立ててくれた。彼の頭脳がなければ今頃私たちは全滅していたかもしれない。そしてそのテューが大役を任せたのはポールだ。彼は飛び抜けて剣術が優れねいたわけでは無い。また他の生徒のような騎士として重要となる大きな体格を持っているわけではなかった。しかしパーティを組むことで気づいたこともあった。それは彼の器用さだ。直径百メートルはあるこの部屋の端から正確にあの鉄球を当てることができるのは、努力によって鍛え上げたその肩と腕力そして持って生まれた器用さがあってのことだ。グランドガントレスはポールの攻撃に反応するように方向を変更した。ポールは見事期待に応えた。
 グランドガントレスは一直線にポールへと加速している。ポールは私たちの待機する見張り台の前で、グランドガントレスを誘導する構えだ。ギリギリまで引きつけたところでテューの今だと言う声に反応するようにポールは壁際を右方向に走り出した。グランドガントレスはポールを追うようにその速度をゼロ近くまで下げ、方向転換を図っている。

「今よ!」

 私たちは一斉に台から飛ぶと、正面にやってきたグランドガントレスの瞼目がけ、自身の体重を全て乗せ剣を振り下ろした。トールやテューの言っていた通り、瞼は胴体ほどの硬さはなく手にダメージを与えた感覚が強く残った。グランドガントレスは思わぬ方向からの攻撃に混乱した様子で不規則な軌道で地面を転がっている。それはまるで痛みに悶えているようにも見え、私たちはこの方法でグランドガントレスを倒すことができると確信した。

「もう一発行くぞ!」

 攻撃の成功に興奮するのもつかの間、テューの言葉に私たちはもう一度攻撃の態勢を作るため見張り台の階段を急いで登った。




 ■■■




 目の前で瞼へのダメージにもがき苦しむグランドガントレスの姿を見てウチらは作戦の成功を確信した。その後もテューたちが囮を引き受け、ポールが敵の軌道をこちらへと誘導し瞼を晒したところを見張り台のみんなで攻撃をする。ウチも得意の剣撃で嵐とまではいかないが一度に二回の攻撃をしていた。そうした攻撃を五回成功させた直後だ。これまでよりも大きく体勢を崩したグランドガントレスの瞼は無防備にも下を向いていた。あの位置ならば地面かでもウチの剣が届く。ここしか無いと思い、ウチは力一杯剣を振るった。身動きが取れない分必死に瞼を守ろうとしているのか、瞼は先ほどよりも高質化されいてるように感じた。

「まだまだぁ!」

 絶え間無く剣を振るった。右へ左へ下へ上へ。その瞼を叩き斬るまで。逃げる隙などない猛攻。一瞬の間に放ったのは八つの蓮撃。それによってグランドガントレスの瞼は音を立てて崩れ落ちた。動きは完全に停止した。歓喜のあまりみんなが完成とともにこちらへと寄ってくる。しかしウチらは忘れていた。グランドガントレスの身体は未だここに健在だ。瞼を砕かれむき出しになったその瞳は、トールが戦っていた時とは全く異なる赤黒い色をしていた。その禍々しい目はこれからウチらに死を与えると言っているようで、全身に鳥肌が走った。




 ■■■




 むき出しになった赤黒い眼球を見て僕は大事なことを思い出した。
 そうだ。あの時もそうだった。球体の魔物と対峙した時、僕は見事にその魔物の感覚器官をとらえることに成功し倒すことができた……ように思えた。しかし、その魔物は突如として光を放ち出し、それは同時に熱も発生させていた。明らかにまずいと思った僕は近くの岩の陰に隠れた。直後その球体の魔物は爆音とともに大きな衝撃波を放った。少しして収まったあと、岩の影から状況を確認すると、そこには魔物の姿はなく魔石だけが落ちていた。あの時は何かの攻撃に失敗したのかくらいに、あまり気にしていなかった。しかし知識を深めた今ならあれがなんだか分かる。
 僕は慌ててみんなに指示を出した。

「まずいみんな、この部屋からすぐに出るんだ!」

 萎縮してしまったか、はたまた足がすくんで動けないのか、僕の声を聞いてもみんなはその場から動けずにいた。僕は目を覚まさせようといつもは出さない大きな声でみんなへと呼びかける。

「早く逃げろ! この魔物、自爆する気だ!」

 自爆という言葉を聞いて我に返った生徒たちは奇声とともに勢いよく入口へと走り出した。入り口までの距離はわずか五十メートル。グランドガントレスの身体からは高熱が発せられており身体の隙間からはレーザーのように光が漏れ出している。このままでは僕たちが入り口へたどり着く前に爆発する勢いだ。みんなに送れるようにして僕もまた入り口へ向かい走り出したが、正直間に合う気はしなかった。諦めかけた僕は何故だかは分からないがトールを見ていた。いや、期待しているのだ。こんなピンチでも、どんなに絶望的な状態でもトールならなんとかしてくれるんじゃないか。そう思わせるものがトールにはあった。自分よりもはるかに低いステータスの少年。剣術も知識も経験も圧倒的にこちらが上。それでも僕は、いや、多分ここにいる全員がその不思議なオーラを放つ彼にすがっていたと思う。そしてトールは僕らのそんな思いに気付いているかのように立ち上がると、そのボロボロになった体を前へと進め両手を体の前にかざした。その瞳には希望の光が見えるようだった。
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