上 下
47 / 70

第44話『Q.ピンチの乗り越え方は?』

しおりを挟む
 岩の魔物は常に二本の腕でこちらへ攻撃をしてくる。それが足ではなく腕だと断定できる理由は、腕の先端についているものの形が人間と同じ形をしており、ダンジョン内に落ちている石や岩を掴むとこちらへ投げてくることが度々あったからだ。
 俺たちは一点に固まらずに幅広く散らばることで攻撃を分散させていた。そのおかげで致命的な傷を負うことは無く、飛んでくる石や岩を躱すことができてはいるが――

「くそっ。テューのやつ何してるんだ。もーそろそろあいつらがきてもおかしくない頃合いなのに……」

 俺たちの役目はあくまで先陣を切り注意を引くこと。メインとなる攻撃は後ろの三グループとサポートのテューたちだ。だが肝心のメイン部隊がいつになっても来てくれない。俺たちも今の所はなんとか持ちこたえているが、周りの生徒の様子を見てもこれ以上長続きするのは危険だ。このままでは俺のグループはみんなが来る前にスタミナ切れでやられてしまうかもしれない。
 そんな事を考え入り口で待機をしているであろうテューの方へ目をやった時だった。どうやら効いていないように見えていた俺たちの攻撃はダメージとして蓄積されていたようで、RPGゲームでいうHPゲージが一本失われたことによって発生する攻撃パターンの変化が訪れたのだ。一本の腕でバランスをとり立ち上がった岩の魔物は自由となった三本の腕で俺たちへと広範囲の攻撃を仕掛けてきた。悲鳴とともに俺のグループの半数以上の生徒たちが地面に叩きつけられている。俺もまともに立っていることができず、片膝をついてその攻撃の揺れに対抗していた。
 そんな時立ち込める土煙の中からここに居るはずのないよく知った顔の友人が姿を現した。

「トール!」

「ユナ? これは一体どういうことだ? どうしてみんなは攻撃を開始しない?」

「聞いて! この魔物の名はグランドガントレスって言うの」

 俺の元へとたどり着いたユナは乱れた呼吸を整える間も無く膝に手をついた状態で話を続けた。

「私も小さい子の記憶で曖昧なところもあるんだけど、この魔物は絵本に出てくるほど強力な力を持っているの」

 ようやく呼吸が整い始めたユナは話しながら体を起こしていく。
 しかし絵本に出てくる魔物って強いのか? 俺は疑問を抱きながらもユナの話を聞いた。

「追い込まれると腕を体に収納して転がって攻撃してくるわ。そしてその攻撃は目の前の敵がやられるまで止まらない。絵本の中では大勢の騎士がその攻撃によって命を失っているわ」

「なんだって?」

 おいおいまじかよ。絵本ってそんな残酷な内容描くものだっけか? いや、今はそれよりも――

「じゃあダメージを与えて追い込んでも逆にこっちがピンチになるってことか……」

「そういうことよ」

「だとしたら俺たちの包囲作戦じゃあまり意味がないかもしれないな」

「そうなの。だから今テューが突破口がないか考えている。だからもう少しだけ持ちこたえて!」

 そういう事だったのか。通りであいつら全然来ないわけだ。

「伝えてくれてありがとう」

「どういたしまして。私もここに残ってトールと一緒に時間を稼ぐわ」

 その言葉を聞き俺はひとつ試したいことを思い出した。それに、こんな絶望的な状況に女の子を巻き込めるわけがないではないか。

「いや、ユナはテューのところへ戻ってくれ」

「でも――」

「大丈夫。試したい魔法があるんだ。それとユナには伝言を頼みたい」

「伝言?」

 おそらくテュー走っているであろう情報だ。だがもしかしたら何かの役にたつかもしれない。

「あぁ。あいつには一秒でも早く打開策を見つけてもらわなくちゃ困るからな」

 俺はそう言ってユナへと微笑んだ。




 ■■■




 先ほどよりも大きな爆音が部屋の奥から聞こえてくる。おそらくグランドガントレスのHPが一定数減ったことによって攻撃パターンが変わったんだろう。さすがはトールだ。ジャイアントメタルアントを倒しただけはある。あいつが指揮を取っていなければ今頃あのグループは全滅していたかもしれない。だがそんなトールでも限界はある。僕が早く打開策を見つけないといくらトールでも耐え切れる保証はない。
 僕は必死に過去に戦った球体の魔物をどのように倒したのかを思い出していた。あれは確か僕がまだ敵国へスパイとして潜伏していた頃のことだ。その使命上強くならなければならなかった僕はよくダンジョンへ潜り魔物をかっていた。そんな時遭遇したのが人ほどの大きさがある球体の魔物だった。重量は重いはずなのにそうは思えないほど身軽に地面や壁へとぶつかりバウンドするその魔物は、そこから反発力を得て徐々に加速しながら俺に向かって体当たりをしてきた。そのスピードは目で追えるものでは無く、感覚で位置をとらえる必要があった。しかもその体はバウンドする性質とは裏腹にとても頑丈で、適当な場所に攻撃を与えたとしても大したダメージには繋がらなかった。そうだ、僕はあの時敵の攻撃してくる方向からそいつの感覚器官の位置を割り出しそこに向かって剣を突きつけたんだ。
 そこまで思い出した時、トールへ現状を伝えに行ったユナが伝言を託され戻ってきた。

「テュー聞いて! トールからの情報よ」

 どうやらあいつの体は見た目頑丈で県の攻撃など通っていないように見えるが、いくつか柔らかい部分がありそこにならば大きなダメージを入れられるようだ。トールが探し当てた箇所は大きく二つ。指の先、そしてもう一つは――

「目よ! 瞼を閉じていた時、そこに攻撃を当てようとしたらそれまで気にもしなかった攻撃を避ける仕草を見せたらしいの」

「オーケー」

 それを聞いて確信した。そして見つけた。やつを叩き斬る秘策。

「それは良かったわ。もう一つトールからの伝言よ」

 なんだろう。ニヤリと笑うユナを見て、俺はトールがまだ何か有力な情報を得たのかと感心しながら次の言葉に集中した。

「どうせもう閃いてるだろうから言うけど、打開策を思いつくのが遅過ぎるんだよ。もっと早く閃けよこのポンコツの参謀さん。お前のせいで俺のHPはもー0だわ……らしいわ」

 あいつ言ってくれるねぇ。大体HP0になったら死んじゃうだろ。ステータス知らない騎士見たいなこと言ってるんじゃないよ。
 でもまぁ、あの低ステータスであそこまで戦えるトールは本当にすごいと思う。

「今の言葉は期待と敬意を示す愛の言葉として受け取っておくよ」

「ふふ。そうしてちょうだい。早くトールの事助けてあげてね」

「任せろ!」

 俺はみんなへと新たな指示を出し始めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ユニークスキル【課金】で自由に生きる!!

穂高稲穂
ファンタジー
 27歳の夏、狐野春人は心臓発作を起こして急死した。  転生した俺は狐の半獣人だった。  異世界だ。  人並みにそういう知識があったから、新たな人生に心が踊る。  突如発現するチートスキル課金。  地球では激務の会社で使い潰されたが、チートスキル課金を駆使してこの人生では自由に生きる!

処理中です...