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第021話 上手に売れましたー

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 はい、本日も無事朝市戦争は終結しました。

 もうね、奥様方のバイタリティが凄い。

 地球の古来からも、甘味は貴重品だった訳で。

 日本だって、二次大戦が終わって砂糖が潤沢に入ってくるまでは高値の華です。

 そこに突如現れるクマー。

 違う、糖度の高い果実達。

 甘葛なんて目じゃないぜーって感じで瑞々しい新鮮な甘味。

 それは、正気を失うよねって。

 保存期間もそれなりにあるので、買い溜めが流行しているのかな。

 まぁ、奥様方の思惑はさておき。

 商店の見物は、収穫祭の買い出しも兼ねている。

 大規模になるかと思い、先に魔法薬のお店にてくてくする事にした。

 てくてく。

 かちゃんと扉を開けると、パタパタと小走りの音が聞こえる。

「おぅ、来たかい。忙しい時に顔を出して済まないねぇ」

 人好きのする笑みを浮かべた老婆が、カウンターの椅子にかけながら声をかけてくる。

「いえ。お手数をお掛け致しました。先日ぶりです」

 駆け寄っていくリサさんを横目にしながら、まずはお礼を述べる。

 と、騒がしくやっていると奥の扉から妙齢の女性がお盆を持って現れた。

 昨日は見なかったなと思っていると、カウンターに湯気の上がるカップを並べて一礼。

 そのまま奥に戻って行く。

「娘だよ。さぁさ、お上がりな」

 その言葉に甘え、冷えた体にカップを傾ける。

 ほぅっと吐き出す息にも香る、ハーブの妙技。

 爽やかさの中に甘さを感じる調合は、温もりの欲しいこの季節にぴったりだ。

 薬師というのは、こういう事まで手を出しているものなのだなと感心していると。

「気になってるだろうから。結論をいうよ?」

 老婆の言葉に、リサさんと二人、真剣な眼差しを向ける。

「出所に関しては手出し無用で話は付いたね。今回の買取分は、こいつさね」

 ごそごそとカウンター下に潜り込んだ老婆が手にした革袋をごちゃりっと置く。

 置いた瞬間、形を変える時に上がった音を鑑みるに、かなりの量の貨幣が入っているように思える。

 恐る恐る手を伸ばしたリサさんが袋の口を開けて中身を確認した瞬間。

 ひっと引き攣った悲鳴を上げたのが分かりやすい。

「これでも大分と買い叩かれたさ。まぁ初見というのもあるけどね」

 ずしりと重い革袋のどこが買い叩かれたのか聞いてみたいし、そもそも高額貨幣がこんなにあるのは見た事もない。

 まぁ、買い叩かれた事自体は問題ではない。

 出元の分からない薬なんて、効果があったって怖くて中々使えないだろう。

 老婆のネームバリューと目に見える形があったからこその賜物だ。

 これからも買い叩かれるなら他を当たれば良いだろうし、老婆もその辺りはうまくフォローしてくれると信頼している。

 総論として、老婆グッジョブというべきだろう。

「まぁね。あの坊だからね」

 老婆の話によると。

 この町の領主に関しては、国の命により辺境の最果てを守っている御仁だそうだ。

 王からの信頼も厚く、能力もあるし、合理性もある。

 過酷な地だからこそ、民の力が重要だと分かっている。

 なので、経済政策を押し進めながら町を拡大させているのだそうだ。

 そんな中、少しずつ領地を広げる事に成功しているのはしているのだが。

 魔物による被害が徐々に増えているのが最近の悩みだそうで。

 対策のため、豪族さんの係累と縁を結ぶ事にしたらしい。

 防衛力を取り込み、経済規模を拡大させるのが狙いだそうで。

 実際に、婚姻バブルみたいな形で町は活気付いている。

 でも、その余波がこちらに来ているのは頂けないなと、心の中で愚痴っておく。

「預かった薬なんだが、偉く気に入られてね」

 被害が深刻化している理由の一つに、魔物の規模が大きくなった事がある。

 山を荒らせば里に野生動物が降りてくるように。

 森を拓けば、魔物が現れるようになる。

 で、そんな中、軍を拡充しながら防衛を頑張っていたんだけど。

 無数に現れる魔物に対して、戦える兵の数は限られている訳で。

 欠員が増えれば増える程減った分が圧し掛かり、怪我を負ったり、死んでしまう頻度が高まる。

 悪循環だ。

 そこに颯爽と現れたのが、青汁。

 違う。

 私の作った魔法薬。

 あそこまでビビッドに効果を発揮する薬なんて余程高価な代物らしく。

 何よりも、怪我を負って動けなかった兵が回復したのが大きかった。

 継戦能力を押し上げる画期的なアイテムだと、大喜びだったそうだ。

「出元を確保しようという動きもあったんさね」

 そうなると、継続して確保したくなるのが人間という生き物である。

 殺してでも奪い取る……げふんげふん。

 出元を取り込んで生産させようという動きは、領主の部下の間であったそうなんだけど。

「流浪の薬師になってもらったから安心おし。ここにゃ、偶に卸しに来ると伝えてあるから、そこまで確保に力は入れんさね」

 辺境の素材を集める流浪の薬師というカバーストーリーが語られたため、部下さん達も渋々納得。

 あんまり追い詰めて供給が途切れる方が問題であるという領主の鶴の一声が後押しに。

 よって、今後も大手を振って売りに来れるみたいだ。

「お手数をおかけ致しました」

「いんや。こっちも良い商いが出来たさね」

 深くお礼を告げると、人を食った笑顔を見せる老婆。

 そっと腕を差し出し、拳を握る。

「今後ともよろしくお願いいたします。私の名前はミシマです」

 一瞬目を丸くした老婆がぽっと口を小さく驚いたように開き、再びにやりと微笑む。

「こちらこそだね。あたしゃダリーヌ。よろしくね」

 こつんと合わさった拳が鳴った。
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