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第019話 魔法薬無双 ~精霊さんを添えて~
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町に着いたタイミングが丁度、朝市から常設市への移行タイミングで片付けのため立ち入り禁止になっているので、魔法薬のお店に行こうという話になった。
テキパキと作業をしている朝市の名残を見物しながら、町の東部に足を踏み入れる。
幾つかの路地を抜け、裏道に近いちょっと薄暗い感じの先に、その店はあった。
「お婆ちゃん、いるー?」
リサさんの躊躇の無い突入の後を追い、恐々と店の中に入ると。
店一面が、棚で覆われてそこに小さな甕が並んでいた。
ちょっと化粧品屋さんっぽいなと思ったが、明らかに違うのは。
精霊さんが某クマのマスコットの蜂蜜壺のように並ぶ一つ一つの甕に抱き着いている光景だった。
「あいよ。珍しいね、お見限りか……ぃ?」
奥の扉を開けて出てきた老婆が顔を上げた瞬間、頬を引き攣らせる。
「あんた、とんでもないね。どんだけの魔力があるんだい……?」
私の方を見つめながら、ちょっと引き気味に問う老婆。
足元では精霊さん達が、エッヘンという感じでドヤ顔ムーヴしている。
「いやぁ……。全然魔法とかには疎くて……」
苦笑を浮かべながら頭を掻く私の言葉に胡乱な視線を投げかける老婆。
「まぁ、良いさね。で、お嬢ちゃん。今日のご用は?」
「あ、買い取りです」
そう告げて、移動の合間に作りためておいた甕をリサさんが机に置く。
リフトに釣り上げられたマグロのように付いていた精霊さん達も、改めてひしっとしがみ付く。
それを見た瞬間の老婆の見開いた目は、夢に出そうな迫力だった。
「こいつは……。いつものとは格が違うね……。そいつかい?」
老婆が曲がった指で私を指すのに、リサさんがこくりと頷く。
「薬師の先生に教わった通り、作ったんだけど……。どうかな?」
リサさんの言葉に、老婆が甕にかけられて布の紐を解き、解放した。
「こいつ……は」
覗き込んだまま絶句する老婆。
天使が結構な数、通過しても動きのない魔法薬のお店。
どうしようかなと思っていたら、徐に老婆が匙を取り出し、ずぼっと浸ける。
おぉぅ、澱みのないアグレッシブな手つきだと目を見張ると、老婆が匙を眇めた目で見つめ、はぁっと深い、深い溜息を吐く。
「真っ青なんて長く店をやっているけど、初めて見たよ。これが本物ってやつかい」
老婆がぼそぼそと呟くと、腰の辺りに手をやった。
何が始まるのかと思った瞬間、引き抜かれた刃が老婆の左手をズバッと裂く。
飛び散る鮮血に、私とリサさんは驚きとドン引き。
「ちと使うけど、お試しって事で勘弁しておくれよ。商品価値の確認ってやつさ」
そういう事は先に言って欲しいし、もうちょっと穏便に確認して欲しい。
ややグロな光景に自然と一歩引きながら眺めていると、匙をひっくり返しぬりぬり。
いやいや。
だくだく血が流れているのに薬を塗ってもと思った瞬間、ほのかに光った痕を布で拭うと、左手は元の綺麗な姿に。
あんぐりと口を開けたまま、手品染みた結果に言葉も出ない。
「やっぱ出来が違うね。ほら、こいつを見てごらん」
棚から大事そうに小さな甕を下ろして、見せてくれる。
中には、ちょっと青みがある灰色に近い液体が入っているのが分かった。
「これでも結構な品質なんだがね。全く違うだろ?」
老婆の言葉に引き込まれるように、うんうんと頷く私とリサさん。
「この品質になっちゃ、手に負えないね……。どうだい、ちぃっと預けてくれないかい?」
「それは、どういう事ですか?」
ちょっと老婆の言葉に不穏な色を感じたので、問うてみる。
「いやさね。これを買い取るなんて、店じゃ無理さ。町の領主の坊主とちぃと相談しようかなってね。勿論出所は隠すさね」
その言葉に、反応が出来ずに口を噤む。
何の力も無い状態で、権力に近づくのは危険だ。
ただ、村の事を思えば大きな対価が生まれるのなら今後手を出しやすくなる。
葛藤の中、リサさんが口を開いた。
「お婆ちゃん……信じて良いの?」
その言葉に、少し寂しそうな笑みを浮かべる老婆。
「良いさ。身命に賭けて誓うよ」
大きくゆっくりとした頷きに、リサさんが振り返り、こくんと一つ頭を振る。
「大丈夫だって」
その言葉に、私はこの老婆を信じようと決めた。
テキパキと作業をしている朝市の名残を見物しながら、町の東部に足を踏み入れる。
幾つかの路地を抜け、裏道に近いちょっと薄暗い感じの先に、その店はあった。
「お婆ちゃん、いるー?」
リサさんの躊躇の無い突入の後を追い、恐々と店の中に入ると。
店一面が、棚で覆われてそこに小さな甕が並んでいた。
ちょっと化粧品屋さんっぽいなと思ったが、明らかに違うのは。
精霊さんが某クマのマスコットの蜂蜜壺のように並ぶ一つ一つの甕に抱き着いている光景だった。
「あいよ。珍しいね、お見限りか……ぃ?」
奥の扉を開けて出てきた老婆が顔を上げた瞬間、頬を引き攣らせる。
「あんた、とんでもないね。どんだけの魔力があるんだい……?」
私の方を見つめながら、ちょっと引き気味に問う老婆。
足元では精霊さん達が、エッヘンという感じでドヤ顔ムーヴしている。
「いやぁ……。全然魔法とかには疎くて……」
苦笑を浮かべながら頭を掻く私の言葉に胡乱な視線を投げかける老婆。
「まぁ、良いさね。で、お嬢ちゃん。今日のご用は?」
「あ、買い取りです」
そう告げて、移動の合間に作りためておいた甕をリサさんが机に置く。
リフトに釣り上げられたマグロのように付いていた精霊さん達も、改めてひしっとしがみ付く。
それを見た瞬間の老婆の見開いた目は、夢に出そうな迫力だった。
「こいつは……。いつものとは格が違うね……。そいつかい?」
老婆が曲がった指で私を指すのに、リサさんがこくりと頷く。
「薬師の先生に教わった通り、作ったんだけど……。どうかな?」
リサさんの言葉に、老婆が甕にかけられて布の紐を解き、解放した。
「こいつ……は」
覗き込んだまま絶句する老婆。
天使が結構な数、通過しても動きのない魔法薬のお店。
どうしようかなと思っていたら、徐に老婆が匙を取り出し、ずぼっと浸ける。
おぉぅ、澱みのないアグレッシブな手つきだと目を見張ると、老婆が匙を眇めた目で見つめ、はぁっと深い、深い溜息を吐く。
「真っ青なんて長く店をやっているけど、初めて見たよ。これが本物ってやつかい」
老婆がぼそぼそと呟くと、腰の辺りに手をやった。
何が始まるのかと思った瞬間、引き抜かれた刃が老婆の左手をズバッと裂く。
飛び散る鮮血に、私とリサさんは驚きとドン引き。
「ちと使うけど、お試しって事で勘弁しておくれよ。商品価値の確認ってやつさ」
そういう事は先に言って欲しいし、もうちょっと穏便に確認して欲しい。
ややグロな光景に自然と一歩引きながら眺めていると、匙をひっくり返しぬりぬり。
いやいや。
だくだく血が流れているのに薬を塗ってもと思った瞬間、ほのかに光った痕を布で拭うと、左手は元の綺麗な姿に。
あんぐりと口を開けたまま、手品染みた結果に言葉も出ない。
「やっぱ出来が違うね。ほら、こいつを見てごらん」
棚から大事そうに小さな甕を下ろして、見せてくれる。
中には、ちょっと青みがある灰色に近い液体が入っているのが分かった。
「これでも結構な品質なんだがね。全く違うだろ?」
老婆の言葉に引き込まれるように、うんうんと頷く私とリサさん。
「この品質になっちゃ、手に負えないね……。どうだい、ちぃっと預けてくれないかい?」
「それは、どういう事ですか?」
ちょっと老婆の言葉に不穏な色を感じたので、問うてみる。
「いやさね。これを買い取るなんて、店じゃ無理さ。町の領主の坊主とちぃと相談しようかなってね。勿論出所は隠すさね」
その言葉に、反応が出来ずに口を噤む。
何の力も無い状態で、権力に近づくのは危険だ。
ただ、村の事を思えば大きな対価が生まれるのなら今後手を出しやすくなる。
葛藤の中、リサさんが口を開いた。
「お婆ちゃん……信じて良いの?」
その言葉に、少し寂しそうな笑みを浮かべる老婆。
「良いさ。身命に賭けて誓うよ」
大きくゆっくりとした頷きに、リサさんが振り返り、こくんと一つ頭を振る。
「大丈夫だって」
その言葉に、私はこの老婆を信じようと決めた。
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