18 / 106
第018話 これって錬金術とかじゃないんですか?
しおりを挟む
旅の疲れをゆったりと癒した早朝。
優しめのノックの音と共に現れたリサさんから収穫祭についての報告を受ける。
開催に関しては、農地の下準備を終えて野菜にシフト出来るようになってから。
作業内容としては、耕して、根っこを回収して、焼いて灰にしたものを撒いて、深耕したら出来上がり。
そこからは馴染ませるまで少し時間がかかるので、その間は忙しい秋のオフになるのだ。
タイミングとしてはもう一回採取をして町に行って帰ってくらいが丁度良いという話なので、朝食を終えたら早速森に向かう。
とぼとぼと森に向かう小道を歩んでいる時に、結構忙しく働いているがブラックな感じがしないなと考える。
やはり目的に沿って働いて実績が生まれるのを目の当たりにしていると、辛さは感じないのだなと。
先も見えない、やり甲斐もない、かといってそれを忘れさせる程の対価もない。
あぁ、ブラックの定義ってこれかと健全な脳みそに戻った事によって客観的に考えられるようになった。
そんな事はさておき。
本日も精霊さん達は元気です。
散歩に来た若い犬のようにはふはふと興奮しながら、スタートを心待ちにしています。
「鳥あたりを狙うから、少し時間がかかると思う。あまり遠くには行かない事」
そう言い残して森に分け入っていくリサさんを並んだ精霊さん達と一緒に見送った後は。
「じゃあ、採取開始です!!」
『さんさく』
『ゆうがなひととき』
『ひろいぐい』
『あんたもわるねぇ』
口々に何かを呟きながら、波濤の勢いで精霊さん達が散っていく。
リサさんの方にも向かった姿を見かけたので、きっと見守ってくれるのだろう。
と、本日も散策と採取に勤しむ。
秋の森は日々その表情を変えているのだろう。
前回と少し離れた地点ではあるが、紅葉する木々が増え、青かった実が熟してたりと移ろう変化を見つけるのが楽しい。
ちょっと高い場所の実は精霊さんを抱っこして採ってもらったり。
『あぶなめ?』
判別しきれないキノコなどはチェックしてもらったり。
『あまいのよ?』
完熟品を教えてもらったり。
楽しいひと時を送る。
と、精霊さん達の視線が一点に集中する。
あれっと思った時に走る、一瞬の緊張感。
『すとらいく』
『おみごと』
『いっぱつひっちゅう』
口々に語る言葉に、リサさんの戦果を確信した。
頃合いかと待ち合わせに指定された場所に戻ると、大きな肉の塊をぶら下げたリサさんが満面の笑みを浮かべて立っていた。
「見て、大物!!」
じゃんっと差し出したのはキジに似たサイズの鳥だった。
似たというのは、血抜きのためか頭は落とされて壺抜きされており、大きな羽も毟られて鳥肌を晒していたからだ。
「細かい処理は戻ってからだけど……。今回も凄いね」
リサさんが見上げる先には、前回に勝るとも劣らない小山。
これでも森全体で考えれば、一パーセントにも満たないと聞くので、自然の恩恵は半端ないなとちょっと呆れてしまう。
結局、近日開催予定の収穫祭に浮ついている男性陣の力を借りて、採取品達を運び込むのだった。
散策の疲れを眠りで癒した次の日からはまた行商への道。
今回こそは恋バナの一つでもという話ではあるが、答えは否である。
前回の売買の最中に手に入れた、魔石なるアイテム。
噂によると、魔物と呼ばれる存在の体内にある結石らしいのだけど。
こいつに色々と使い道があるそうで。
二日もあるのでレクチャーしてもらおうかと。
「私も詳しい事は分からないけど。昔、薬師の人に教わったの」
猟師は村の警護でも主力を担ったりと、防衛や外交の部分でも矢面に立ちやすいそうで。
採取の旅で訪れる薬師の人に色々と話を聞く機会は多いそうだ。
「一般的な魔法の傷薬。ベンガロト草が主体になるの。あ、これ。塗り薬だから新鮮な瑞々しいものの方が作りやすいんだって」
荷物の中から取り出した使い込まれて黒光りしている薬研でごりごり。
「魔石は一回でこのくらいの欠片で十分なんだって。あんまり多くても意味が無いし、高くなるんだって」
がつんと馬車の荷台の上で、トンカチアタックで砕いた魔石を混ぜてごりごり。
「これだけでも効果は上がるそうだけど、魔法を使える人が力を籠めると凄く上がるんだって」
レクチャーの筈なのに、期待を込めた眼差しにちょっと苦笑を返しつつ、精霊さんに心の中でお願いしてみる。
最近知ったのだが、精霊さん、別に声を発しなくてもコミュニケーション出来るようなのだ。
でも、きちんとお礼は述べたい。
『むむむ』
『ねるねるねる』
『にゅーこん!!』
精霊さん達が薬研の周りをくるくる回り始めると、液体がほわっと微かに輝き始める。
「え、これって!?」
リサさんの驚きに合わせるかのように、光は増していき……。
辺りを白く染めるような発光現象が起きた後に、唐突な平穏が戻ってくる。
「えーっと……」
絶句したリサさんを前に、ぽりぽりと頬を掻いてみる。
「これで良いですか?」
問うてみると、ぎぎぎっと油の切れたロボットみたいな動きを見せた後、こくりと頷き、何故かそのままくてんと横に倒す。
「確かに光ってたけど、そこまで凄くなかった……。大丈夫……かなぁ?」
取りあえず、反応らしきものはあったという事で。
成功と看做して、次々と仕上げていく。
ベンガロト草の緑の汁が魔石と混じって灰褐色に染まっていたのだが、それが澄んだ青色になった汁が小さな甕一杯に溜まる頃には町に到着したのだった。
甕に抱き着いている精霊さんがニコニコしている件についてはちょっと問いたいけどね。
優しめのノックの音と共に現れたリサさんから収穫祭についての報告を受ける。
開催に関しては、農地の下準備を終えて野菜にシフト出来るようになってから。
作業内容としては、耕して、根っこを回収して、焼いて灰にしたものを撒いて、深耕したら出来上がり。
そこからは馴染ませるまで少し時間がかかるので、その間は忙しい秋のオフになるのだ。
タイミングとしてはもう一回採取をして町に行って帰ってくらいが丁度良いという話なので、朝食を終えたら早速森に向かう。
とぼとぼと森に向かう小道を歩んでいる時に、結構忙しく働いているがブラックな感じがしないなと考える。
やはり目的に沿って働いて実績が生まれるのを目の当たりにしていると、辛さは感じないのだなと。
先も見えない、やり甲斐もない、かといってそれを忘れさせる程の対価もない。
あぁ、ブラックの定義ってこれかと健全な脳みそに戻った事によって客観的に考えられるようになった。
そんな事はさておき。
本日も精霊さん達は元気です。
散歩に来た若い犬のようにはふはふと興奮しながら、スタートを心待ちにしています。
「鳥あたりを狙うから、少し時間がかかると思う。あまり遠くには行かない事」
そう言い残して森に分け入っていくリサさんを並んだ精霊さん達と一緒に見送った後は。
「じゃあ、採取開始です!!」
『さんさく』
『ゆうがなひととき』
『ひろいぐい』
『あんたもわるねぇ』
口々に何かを呟きながら、波濤の勢いで精霊さん達が散っていく。
リサさんの方にも向かった姿を見かけたので、きっと見守ってくれるのだろう。
と、本日も散策と採取に勤しむ。
秋の森は日々その表情を変えているのだろう。
前回と少し離れた地点ではあるが、紅葉する木々が増え、青かった実が熟してたりと移ろう変化を見つけるのが楽しい。
ちょっと高い場所の実は精霊さんを抱っこして採ってもらったり。
『あぶなめ?』
判別しきれないキノコなどはチェックしてもらったり。
『あまいのよ?』
完熟品を教えてもらったり。
楽しいひと時を送る。
と、精霊さん達の視線が一点に集中する。
あれっと思った時に走る、一瞬の緊張感。
『すとらいく』
『おみごと』
『いっぱつひっちゅう』
口々に語る言葉に、リサさんの戦果を確信した。
頃合いかと待ち合わせに指定された場所に戻ると、大きな肉の塊をぶら下げたリサさんが満面の笑みを浮かべて立っていた。
「見て、大物!!」
じゃんっと差し出したのはキジに似たサイズの鳥だった。
似たというのは、血抜きのためか頭は落とされて壺抜きされており、大きな羽も毟られて鳥肌を晒していたからだ。
「細かい処理は戻ってからだけど……。今回も凄いね」
リサさんが見上げる先には、前回に勝るとも劣らない小山。
これでも森全体で考えれば、一パーセントにも満たないと聞くので、自然の恩恵は半端ないなとちょっと呆れてしまう。
結局、近日開催予定の収穫祭に浮ついている男性陣の力を借りて、採取品達を運び込むのだった。
散策の疲れを眠りで癒した次の日からはまた行商への道。
今回こそは恋バナの一つでもという話ではあるが、答えは否である。
前回の売買の最中に手に入れた、魔石なるアイテム。
噂によると、魔物と呼ばれる存在の体内にある結石らしいのだけど。
こいつに色々と使い道があるそうで。
二日もあるのでレクチャーしてもらおうかと。
「私も詳しい事は分からないけど。昔、薬師の人に教わったの」
猟師は村の警護でも主力を担ったりと、防衛や外交の部分でも矢面に立ちやすいそうで。
採取の旅で訪れる薬師の人に色々と話を聞く機会は多いそうだ。
「一般的な魔法の傷薬。ベンガロト草が主体になるの。あ、これ。塗り薬だから新鮮な瑞々しいものの方が作りやすいんだって」
荷物の中から取り出した使い込まれて黒光りしている薬研でごりごり。
「魔石は一回でこのくらいの欠片で十分なんだって。あんまり多くても意味が無いし、高くなるんだって」
がつんと馬車の荷台の上で、トンカチアタックで砕いた魔石を混ぜてごりごり。
「これだけでも効果は上がるそうだけど、魔法を使える人が力を籠めると凄く上がるんだって」
レクチャーの筈なのに、期待を込めた眼差しにちょっと苦笑を返しつつ、精霊さんに心の中でお願いしてみる。
最近知ったのだが、精霊さん、別に声を発しなくてもコミュニケーション出来るようなのだ。
でも、きちんとお礼は述べたい。
『むむむ』
『ねるねるねる』
『にゅーこん!!』
精霊さん達が薬研の周りをくるくる回り始めると、液体がほわっと微かに輝き始める。
「え、これって!?」
リサさんの驚きに合わせるかのように、光は増していき……。
辺りを白く染めるような発光現象が起きた後に、唐突な平穏が戻ってくる。
「えーっと……」
絶句したリサさんを前に、ぽりぽりと頬を掻いてみる。
「これで良いですか?」
問うてみると、ぎぎぎっと油の切れたロボットみたいな動きを見せた後、こくりと頷き、何故かそのままくてんと横に倒す。
「確かに光ってたけど、そこまで凄くなかった……。大丈夫……かなぁ?」
取りあえず、反応らしきものはあったという事で。
成功と看做して、次々と仕上げていく。
ベンガロト草の緑の汁が魔石と混じって灰褐色に染まっていたのだが、それが澄んだ青色になった汁が小さな甕一杯に溜まる頃には町に到着したのだった。
甕に抱き着いている精霊さんがニコニコしている件についてはちょっと問いたいけどね。
14
お気に入りに追加
4,561
あなたにおすすめの小説
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
宝くじ当選を願って氏神様にお百度参りしていたら、異世界に行き来できるようになったので、交易してみた。
克全
ファンタジー
「アルファポリス」と「カクヨム」にも投稿しています。
2020年11月15日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング91位
2020年11月20日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング84位
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます
染井トリノ
ファンタジー
書籍化に伴い改題いたしました。
といっても、ほとんど前と一緒ですが。
変わり者で、落ちこぼれ。
名門貴族グレーテル家の三男として生まれたウィルは、貴族でありながら魔法の才能がなかった。
それによって幼い頃に見限られ、本宅から離れた別荘で暮らしていた。
ウィルは世間では嫌われている亜人種に興味を持ち、奴隷となっていた亜人種の少女たちを屋敷のメイドとして雇っていた。
そのこともあまり快く思われておらず、周囲からは変わり者と呼ばれている。
そんなウィルも十八になり、貴族の慣わしで自分の領地をもらうことになったのだが……。
父親から送られた領地は、領民ゼロ、土地は枯れはて資源もなく、屋敷もボロボロという最悪の状況だった。
これはウィルが、荒れた領地で生きていく物語。
隠してきた力もフルに使って、エルフや獣人といった様々な種族と交流しながらのんびり過ごす。
8/26HOTラインキング1位達成!
同日ファンタジー&総合ランキング1位達成!
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる