76 / 92
第5章:僕が見つけたフォルテ(4)
しおりを挟む
「小さい頃から歌うことが好きで、将来は音楽の道に進みたいとずっと思っていました。中学一年生の秋頃に本格的に進路を考え始め、この慶雲高校を第一志望校に定めました」
「ところがその約一年後、ある出来事をきっかけに、私は夢を諦めかけることになります」
「二年生の時、合唱コンクールに向けた練習中のことです。クラスの空気が乱れてまともに練習にならず、学級委員長の子がとても困っていました。なんとかその子の力になりたいと考えた私は、あるときクラスのみんなを思いっきり叱りつけてしまいました。それ自体は間違ったことではなかったと、今でも思います」
「ただそのとき、つい言い方が強くなりすぎて、特にふざけていたメンバーのひとりの女の子が泣き出してしまいました」
「すると、その子の親友が私を睨みつけて言ったのです。『何出しゃばってる・・・・・・・の?』って」
『私、また出しゃばったのかな』
水族館で固まっていた遥奏の顔が、すぐそばにいるかのように思い出された。
「その日から少しずつ、クラスに味方がいなくなっていきました」
遥奏の声が、わずかに震えている。
「日に日に、級友が私と目を合わせなくなりました。先生がいない間の合唱の練習中は特に、耐え難い時間でした。私が歌い出すと、くすくすという嗤い声や、私の歌い方を真似する声で教室が満たされました。そのうち、持ち物を隠されたり、わざと聞こえるように陰口を言われることも増えました。直接嫌がらせをしてこない子にも話しづらくなって、同級生にすら敬語で話す日々が続きました」
「歌えば嫌がらせをされる。そう思うと、歌が大好きだという気持ちを思い出すことができなくなりました。楽しみにしていた合唱コンクールも、結局欠席してしまいました」
深い絶望が、僕を襲う。
出会った瞬間から元気いっぱいで、破天荒で、エネルギッシュだった遥奏。
僕に見えていた遥奏の姿は、それだけ。
あんなに顔を合わせていたのに、僕は全く遥奏の力になれなかった。
「三年生になっても状況は変わりませんでした。授業中も休み時間もいつもひとりで過ごし、音楽の時間は、クラスの人の前で歌うのが怖くて、保健室で休んでいました。歌の練習を頑張って慶雲高校を目指そうという気力は、完全に消えてしまっていました。卒業して学校から抜け出せる日をひたすら待つだけの日々でした」
そこまで言った後、遥奏は顔を上げた。
「そんな私の生活が、変わりました。きっかけは、ある人との出会いでした」
画面越しに、目が合った気がした。
「ところがその約一年後、ある出来事をきっかけに、私は夢を諦めかけることになります」
「二年生の時、合唱コンクールに向けた練習中のことです。クラスの空気が乱れてまともに練習にならず、学級委員長の子がとても困っていました。なんとかその子の力になりたいと考えた私は、あるときクラスのみんなを思いっきり叱りつけてしまいました。それ自体は間違ったことではなかったと、今でも思います」
「ただそのとき、つい言い方が強くなりすぎて、特にふざけていたメンバーのひとりの女の子が泣き出してしまいました」
「すると、その子の親友が私を睨みつけて言ったのです。『何出しゃばってる・・・・・・・の?』って」
『私、また出しゃばったのかな』
水族館で固まっていた遥奏の顔が、すぐそばにいるかのように思い出された。
「その日から少しずつ、クラスに味方がいなくなっていきました」
遥奏の声が、わずかに震えている。
「日に日に、級友が私と目を合わせなくなりました。先生がいない間の合唱の練習中は特に、耐え難い時間でした。私が歌い出すと、くすくすという嗤い声や、私の歌い方を真似する声で教室が満たされました。そのうち、持ち物を隠されたり、わざと聞こえるように陰口を言われることも増えました。直接嫌がらせをしてこない子にも話しづらくなって、同級生にすら敬語で話す日々が続きました」
「歌えば嫌がらせをされる。そう思うと、歌が大好きだという気持ちを思い出すことができなくなりました。楽しみにしていた合唱コンクールも、結局欠席してしまいました」
深い絶望が、僕を襲う。
出会った瞬間から元気いっぱいで、破天荒で、エネルギッシュだった遥奏。
僕に見えていた遥奏の姿は、それだけ。
あんなに顔を合わせていたのに、僕は全く遥奏の力になれなかった。
「三年生になっても状況は変わりませんでした。授業中も休み時間もいつもひとりで過ごし、音楽の時間は、クラスの人の前で歌うのが怖くて、保健室で休んでいました。歌の練習を頑張って慶雲高校を目指そうという気力は、完全に消えてしまっていました。卒業して学校から抜け出せる日をひたすら待つだけの日々でした」
そこまで言った後、遥奏は顔を上げた。
「そんな私の生活が、変わりました。きっかけは、ある人との出会いでした」
画面越しに、目が合った気がした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる