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第4章:三月のディスコード(17)
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※ ※ ※
僕が再び部活を休み始めてから三日目。
テストが終わってから約三週間練習に行き続けていたことで僕を信用したのか、父さんは片桐先生と連絡を取っていないようだった。
その日も、河川敷に到着しても遥奏の姿は見当たらなかった。
体が冷えるのも構わず、僕は遥奏を待ち続けた。
三十分ほど経った頃、僕は思い立ってスクールバッグの中からスケッチブックを取り出した。
遥奏が僕よりあとに到着するときは、大抵後ろからスケッチブックを覗いてくる。
遥奏が来るためには、僕が絵を描くことが必要なんだ。
そう考えて、画用紙に風景画を描き始めた。
宝くじのスクラッチを削るように、鉛筆をカリカリと動かす。
三月半ばだというのに今日はすごく寒くて、そのうち指先が言うことを聞かなくなってきた。
十二月も一月も二月も、僕はこの河川敷に来ては絵を描いていた。
どんなに凍えても、鉛筆を動かすのが辛いと感じたことはなかった。
遥奏が、スケッチブックを覗きにくるから。
……そうだ。
僕は、遥奏に絵を見てもらえるのがうれしかったんだ。
遥奏と過ごした日々を思い出す。
初めてスケッチブックを奪い取ってきた時の、興味津々な顔。
冷え切った河川敷に響き渡る、温かな歌声。
両手をグーにして拍手する時の、高揚した表情。
そして、
『きれい!!』
『私はすっごく好きだよ! この絵!』
遥奏は常に、全力で僕の絵を褒めてくれた。
それなのに僕は、いつもその気持ちを素直に受け止められなくて。
遥奏の歌を目一杯褒めることも、できなくて。
伝えられなかった想いは、あまりにも多い。
やがて、誰もスケッチブックを覗いてこないまま、夕日が沈み始めた。
あの太陽が繰り返し反対側の空から昇り続けるように、遥奏もずっとここに来るのだと思っていた。
けれども、それは僕の思い違いだった。
夕日が、ついに水平線の向こう側に落ちる。
どんなに手を伸ばしても、光は僕のもとに止まってくれなかった。
僕が再び部活を休み始めてから三日目。
テストが終わってから約三週間練習に行き続けていたことで僕を信用したのか、父さんは片桐先生と連絡を取っていないようだった。
その日も、河川敷に到着しても遥奏の姿は見当たらなかった。
体が冷えるのも構わず、僕は遥奏を待ち続けた。
三十分ほど経った頃、僕は思い立ってスクールバッグの中からスケッチブックを取り出した。
遥奏が僕よりあとに到着するときは、大抵後ろからスケッチブックを覗いてくる。
遥奏が来るためには、僕が絵を描くことが必要なんだ。
そう考えて、画用紙に風景画を描き始めた。
宝くじのスクラッチを削るように、鉛筆をカリカリと動かす。
三月半ばだというのに今日はすごく寒くて、そのうち指先が言うことを聞かなくなってきた。
十二月も一月も二月も、僕はこの河川敷に来ては絵を描いていた。
どんなに凍えても、鉛筆を動かすのが辛いと感じたことはなかった。
遥奏が、スケッチブックを覗きにくるから。
……そうだ。
僕は、遥奏に絵を見てもらえるのがうれしかったんだ。
遥奏と過ごした日々を思い出す。
初めてスケッチブックを奪い取ってきた時の、興味津々な顔。
冷え切った河川敷に響き渡る、温かな歌声。
両手をグーにして拍手する時の、高揚した表情。
そして、
『きれい!!』
『私はすっごく好きだよ! この絵!』
遥奏は常に、全力で僕の絵を褒めてくれた。
それなのに僕は、いつもその気持ちを素直に受け止められなくて。
遥奏の歌を目一杯褒めることも、できなくて。
伝えられなかった想いは、あまりにも多い。
やがて、誰もスケッチブックを覗いてこないまま、夕日が沈み始めた。
あの太陽が繰り返し反対側の空から昇り続けるように、遥奏もずっとここに来るのだと思っていた。
けれども、それは僕の思い違いだった。
夕日が、ついに水平線の向こう側に落ちる。
どんなに手を伸ばしても、光は僕のもとに止まってくれなかった。
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