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第3章:重ね塗りのシンフォニー(18)

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 ※ ※ ※

 ショッピングモールを出た僕らは、いつもの川岸の階段に座って紙袋を開けた。
 夜の河川敷は日中よりも人通りが少なくて、波の音がはっきり聞こえる。

 僕が買ってきた四つのドーナツのうち、遥奏はチョコファッションとストロベリーファッションを選んだ。
 十一月にドーナツショップに行った時も、チョコファッションを食べていた気がする。これからも、遥奏にドーナツを買う時はオールドファッション系を選んでおけば間違いないだろう。

「めっちゃ寒い!」
 右隣に座る遥奏が、ペーパーナプキンを掴む両手を震わせながら言った。
「わかる。僕らなんでこんなとこいるんだろ」
「秀翔が来たいって言ったんでしょ!」
「たまには僕からも提案しようと思ってさ」
「ふーん、秀翔もやっと素直になってきたね!」
 遥奏が見下すような目で僕を見てきたけど、口元に散らばったドーナツのかけらが、威厳を台無しにしていた。

「あー、もうなくなっちゃう!」
 遥奏が、一口サイズになったストロベリーファッションを見つめながら口を尖らせた。
「今度はお店の中で食べたいな! また罰ゲームよろしくね!」
「何言ってるの? 今日僕が負けたのは、たまたま遥奏のほうが多くゲームを選んだからだよ」
「負け惜しみ!」
 
 やがて、遥奏も僕もドーナツを食べ終えた。ペーパーナプキンを紙袋に入れ、風で飛ばないように僕のスクールバッグにしまう。

 ドーナツを二つ食べ終えると思ったよりお腹いっぱいになって、ぼんやりとしてきた。

 波打ち際で生まれては消えていく、白い泡。
 右隣からかすかに聞こえる、遥奏の息遣い。

 時計で表せない単位の中に、僕らはいた。
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