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第3章:重ね塗りのシンフォニー(14)

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 ※ ※ ※

「うわー! 全部面白そう! ねえねえ、秀翔はどれやりたい?」

 二月の第三月曜日、僕は、いつぶりになるかわからないゲームセンターなる場所にいた。

 あちこちからひっきりなしに鳴るテンポの速い音楽。数秒置きに四方八方から耳に飛び込んでくる、無駄に明るいファンファーレ。苛立ってるのかヒートアップしてるのか、だだだだだっとボタンを強く連打する音。
 ガヤガヤしたゲームセンターの雰囲気は、少し苦手だ。

「あ、これやろっ! これ!」
 遥奏が指差した先を見ると、カラフルな機械が、これまたカラフルな光を放っていた。

 ——なぜ僕がこの騒がしい場所にいるのかというと、原因は例によって遥奏にある。
 
 ※ ※ ※

 三十分前、いつもの河川敷にて。

「秀翔、今日はどこいく?」
 僕より少しあとに河川敷に着いた遥奏が、文脈のわからない質問を投げかけてきた。
「行かない」
「行くか行かないかじゃなくて、どこに行くか聞いてるんだよ!」
「まず質問がおかしいんだって」
 まあ、この流れになった時点で、今日は河川敷を離れる日なのだと僕は感づいていたけど。

「あ、そうだ! 思い出した!」
 遥奏が手を打って言う。
「今日オープンしたドーナツ屋さんがあってさ、そこ行こ!」
「どの辺?」
「駅のとこだからそんなに遠くないよ! 私、オープン当日のドーナツ屋さんに行くの、夢だったんだよね!」

 そうして十分ほど歩き、僕らは駅前のショッピングモールに着いた。
 オープンしたドーナツショップは僕らが入ってきたのと反対側の入り口ということで、僕らはクリーム色の通路をひたすら歩いた。
 ところが、遥奏はエスカレーターの前で急に足を止めると、こう言った。

「あ! ねえねえ、ゲームセンター行こ!」
「ドーナツの話はどこ行ったのさ?」
「ゲームでお腹すかせてからの方がおいしいよ、きっと!」
 遥奏はそう言うなり僕の袖を引っ張って、エスカレーターへ飛び乗った。
 僕は、だんだん遠くなる一階の床を眺めながら、はたしてゲームでお腹が空くのかどうかを考えていた。
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