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第3章:重ね塗りのシンフォニー(11)

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「今日の総合の時間は、進路について考えます」
 総合的な学習の時間、という、僕ら生徒からすればよくわからない名前のついた教科。
 
 前の席から回ってきた紙を見て、僕はため息をついた。
 ザラザラしたA4サイズの再生紙の上部に、丸ゴシック体の見出し。
『進路について考えよう!』

 進路について。
 「好きなこと」や「宝物」などと並んで、僕が苦手なお題のひとつ。

 休み時間や給食の時間、何人かのクラスメートが将来の夢を口にしているのがときどき耳に入る。

 いつも友達に勉強を教えているあの子は、学校の先生になりたいという。
 学年中から「おしゃれ」と評判なあの子は、ファッションデザイナーを目指しているという。
 地域の硬式野球クラブでピッチャーをしているあの子は、プロ野球の道に進みたいという。

 僕の中には、あの子たちのような光るものはない。
 光るものを持たない崖の下の人間に、将来の希望を語る資格はない。
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