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第3章:重ね塗りのシンフォニー(8)

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 そのあと、夕食と洗い物を済ませて部屋に戻った僕は、スクールバッグのファスナーを開いて、遥奏に渡された緑色のクリアファイルを取り出した。
 今は急ぎの提出物もないし、今日でできそうなら終わらせちゃおう。

 クリアファイルの中から、去年のチラシを取り出して見てみた。
 一番上に、左詰で白抜きの大きな文字。
『男子バスケ部』
 無意識にイメージしていたものと違った文字列を目にして、得体の知れない不快感が胸のあたりに生まれた。
 受け取った時ちゃんと見てなかったけど、女子じゃなくて男子バスケ部なのか。
 「仲良し」ってだけ聞いて、勝手に女子だと思ってた。
 まあ、遥奏なら「仲良し」の男友達がいても不思議ではない……けど。
 もしかすると、「仲良し」というぼんやりとした表現の中に、何か重要な情報が隠されているのかもしれない。

 嫌になるほど鮮明な情景が、頭の中に素早く描かれた。
 光沢のあるバスパンを履いた背の高い男子生徒が、遥奏からチラシを受け取って顔を輝かせる。
 両手をグーにして、その顔を見上げる遥奏。

 心なしか、呼吸が乱れてきた。
 僕、もしかして都合よく利用されてるのかも。

 根拠のない妄想を膨らませた自分自身に腹が立って、頭の中の画用紙を小さく折りたたんだ。
 事情がなんであれ、遥奏は僕の力を必要としているんだ。
 余計なことは考えず、期待に応えられるように頑張ろう。

 あらためて、去年のチラシを観察する。
 レイアウトは横長。左上に大きく部活名。その横に、バスケットボールのイラストが描いてある。
 真ん中に、黒い枠で囲われた部活の詳細説明。余白にダイヤや星が散りばめられている。
 きれいに整えられていて、悪くはないデザインだ。
 でも、あと一歩インパクトのあるチラシに仕上げる余地もあると感じた。
 もっと、新入生の目に止まるようにするには。
 僕は、手元のスマートフォンでバスケットボール選手の画像を検索し、手頃な素材を見つけて拡大した。
 ダンクシュートを決める男子選手の構図をとらえ、鉛筆で輪郭を描く。

 力強い跳躍を表現しながら、僕はこの前の体育のバスケで自分が何回ボールに触れたかを数えていた。
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