34 / 92
第3章:重ね塗りのシンフォニー(3)
しおりを挟む
遥奏に連れていかれた先は、四駅先の水族館だった。
「待ってごめん、僕、今日お金持ってないかも」
入り口付近で自分の所持金事情を思い出した僕は、遥奏にそう告げた。
「大丈夫! 私出すからさ、付き合ってよ!」
人からお金を借りるのは気が引けたけど、強引に引っ張られたようなもんだし、ま、いっか。
そうして僕らは受付を済ませ、館内を回り始めた。
薄暗く照らされた、幻想的な内装。
水槽の中で、色とりどりの海洋生物が各々のペースで泳いでいた。
「見て、かわいい!」
小さな子供みたいにガラスに顔を近づけて、魚の動きを目で追う遥奏。
魚それ自体に強く興味を惹かれなかった僕は、遥奏から一歩引いて、館内の様子を見回していた。
視界の端に、男の子が映った。
紺と白のストライプの長袖Tシャツに、ベージュの長ズボン。マジックテープで止めるタイプのスポーツシューズ。
背丈からして、四歳か五歳くらい。
近くに同伴者の姿はなく、あたりをキョロキョロと不安げに見渡していた。
見るからに、迷子だった。
「ねえ、秀翔! 見て見て!」
遥奏が水槽を見ながら僕の名前を呼ぶけど、それどころではない。
どうしよう。やっぱ、声かけたほうがいいよな。
でも、なんて声かければいいんだろう。
「秀翔ってば!」
呼びかけに応じない僕を不審に思ったか、遥奏がこちらを見た。そして、僕の目線の先を追う。
次の瞬間、遥奏は男の子に駆け寄っていた。
タンタンタン、とスニーカーが床の上を跳ねて小気味好い音を立てる。
さすが遥奏。
遥奏はこういう人だ。
「こうしよう」と思ったことを、すぐに行動に移せる人。
僕みたいに、ためらったりしない。
「どうしたの? お家の人は?」
男の子と目線を合わせて、明るく声をかける遥奏。
僕も、行っても特に役に立てることはないと思いつつ、一応男の子と遥奏の方に向かう。
「お名前なんていうの?」
お気に入りの魚を見た直後のハイテンションのまま、男の子に問いかける遥奏。
勢いに気圧されたのか、男の子は遥奏を見て押し黙っている。
「お家の人とどこではぐれちゃったか覚えてる?」
思ったことをすぐ口にできるところ。
それは間違いなく、遥奏の強みだ。
「お姉ちゃんに任せて! 黙ってちゃわかんないよ! 一緒にお家の人探そ!」
だけど、それが、裏目に出ることもある。
「うわあああああああん」
男の子が泣き出した。
遥奏には、決して威圧する意図はなかったと思う。
けど、矢継ぎ早に質問された男の子は、びっくりしちゃったんだろう。
遥奏なら「ごめんごめん、落ち着いて」なんて言ってすぐに立て直せるはずだ。
そう思っていた。
ところが、僕が二人の前にたどり着くと、
「遥奏?」
そこには、石化したように固まっている遥奏がいた。
「待ってごめん、僕、今日お金持ってないかも」
入り口付近で自分の所持金事情を思い出した僕は、遥奏にそう告げた。
「大丈夫! 私出すからさ、付き合ってよ!」
人からお金を借りるのは気が引けたけど、強引に引っ張られたようなもんだし、ま、いっか。
そうして僕らは受付を済ませ、館内を回り始めた。
薄暗く照らされた、幻想的な内装。
水槽の中で、色とりどりの海洋生物が各々のペースで泳いでいた。
「見て、かわいい!」
小さな子供みたいにガラスに顔を近づけて、魚の動きを目で追う遥奏。
魚それ自体に強く興味を惹かれなかった僕は、遥奏から一歩引いて、館内の様子を見回していた。
視界の端に、男の子が映った。
紺と白のストライプの長袖Tシャツに、ベージュの長ズボン。マジックテープで止めるタイプのスポーツシューズ。
背丈からして、四歳か五歳くらい。
近くに同伴者の姿はなく、あたりをキョロキョロと不安げに見渡していた。
見るからに、迷子だった。
「ねえ、秀翔! 見て見て!」
遥奏が水槽を見ながら僕の名前を呼ぶけど、それどころではない。
どうしよう。やっぱ、声かけたほうがいいよな。
でも、なんて声かければいいんだろう。
「秀翔ってば!」
呼びかけに応じない僕を不審に思ったか、遥奏がこちらを見た。そして、僕の目線の先を追う。
次の瞬間、遥奏は男の子に駆け寄っていた。
タンタンタン、とスニーカーが床の上を跳ねて小気味好い音を立てる。
さすが遥奏。
遥奏はこういう人だ。
「こうしよう」と思ったことを、すぐに行動に移せる人。
僕みたいに、ためらったりしない。
「どうしたの? お家の人は?」
男の子と目線を合わせて、明るく声をかける遥奏。
僕も、行っても特に役に立てることはないと思いつつ、一応男の子と遥奏の方に向かう。
「お名前なんていうの?」
お気に入りの魚を見た直後のハイテンションのまま、男の子に問いかける遥奏。
勢いに気圧されたのか、男の子は遥奏を見て押し黙っている。
「お家の人とどこではぐれちゃったか覚えてる?」
思ったことをすぐ口にできるところ。
それは間違いなく、遥奏の強みだ。
「お姉ちゃんに任せて! 黙ってちゃわかんないよ! 一緒にお家の人探そ!」
だけど、それが、裏目に出ることもある。
「うわあああああああん」
男の子が泣き出した。
遥奏には、決して威圧する意図はなかったと思う。
けど、矢継ぎ早に質問された男の子は、びっくりしちゃったんだろう。
遥奏なら「ごめんごめん、落ち着いて」なんて言ってすぐに立て直せるはずだ。
そう思っていた。
ところが、僕が二人の前にたどり着くと、
「遥奏?」
そこには、石化したように固まっている遥奏がいた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる