上 下
23 / 92

第2章:胸の奥からクレッシェンド(11)

しおりを挟む
 ※ ※ ※

 年が明けた。
 初めて遥奏にスケッチを邪魔された日から、一ヶ月半ほどが経つ。
 僕は相変わらず、毎日部活をサボり続けていた。
 言い訳が尽きたのと、そろそろ片桐先生も諦めてくれないだろうかと期待したのとで、僕は冬休み前から無断で部活を休むようになった。
 期待通り先生は何も言ってこなくなったから、僕は正式に幽霊部員デビューだ。
 もちろん、家では、休まず練習に参加している設定のまま。

 そうして僕は平日、雨が降らない限りはいつも、学校が終わってから河川敷に向かった。
 十八時頃までそこで絵を描いて時間を潰す僕と、その斜め前で歌う遥奏。
 最近の遥奏は、マイブームなのか二曲ほどの同じ歌を繰り返し歌っているようだ。一曲は、歌詞のない、「あー」だけで音程を変えて歌う曲。それから、合唱コンクールで使われてそうな、優しい雰囲気の日本語詞の曲。
 僕は歌声を聞き流しながら(ときに聴き入りながら)、ひたすら鉛筆をスケッチブックの上で走らせる。
 そんな、不思議な日々が続いた。
しおりを挟む

処理中です...