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第2章:胸の奥からクレッシェンド(6)

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 ※ ※ ※

 そのあと、遥奏と僕は木々やススキに隠れながら川岸を歩いて、卓球部から十分離れたところに移動してから、河川敷を出た。
 そして遥奏に連れられるままに歩くと、僕は駅に到着していた。
 遥奏がどこに行くつもりかわからないけど、今更拒否する気も起きなかった。

 並んで歩いてみると、遥奏の背丈は僕よりほんの少し高いくらい。今まで遥奏と会っている間僕はほぼずっと座っていたから、身長差はよくわかっていなかった。
 保健体育の授業かなんかで、女子のほうが成長が早いと聞いた気がする。これから僕の成長期が本格的に進んでいけば、遥奏よりも背が高くなるのだろうか。

 電車の中で、僕は遥奏に事情を説明した。
「わかるわかる! サボりたくなる時もあるよね!」
「遥奏も部活とかサボったことあるの?」
「いや、私はないけど!」
 ないのかよ!
 脳内で突っ込みながらも、否定したりせずに軽く流してくれたのはありがたいと感じた。

「でもさ——」
 急に、遥奏が顔を近づけてきた。ドキリとして、思わず半歩下がる。
「サボるのはまあたしかに良いことじゃないけど、そのおかげで秀翔と私はこうして出会えたわけだし、結果オーライじゃない?」
『ご乗車、ありがとうございました……』
 ナイスタイミングのアナウンス。
「あ、降りるのここだよね」
 僕は会話を強制終了して、遥奏と一緒に電車を降りた。

 ※ ※ ※

「えーっと、こっちだ!」
 やや大きめの駅の中、『東口』という標識が示す矢印にしたがって迷いなく歩く遥奏。
 やがて自動改札機にたどり着くと、遥奏は自然な動作でカードをタッチし、改札の外に出た。
 僕も遥奏の後に続いて、パスケースを改札機の画面に当てる。
 すると、
 ピピーッ!
 耳障りな甲高い音がしたと思うと、僕の腰のあたりで扉が閉まった。
 カードをタッチした画面に、赤い文字で『残高不足』。

「もう、ちゃんとチャージしといてよ!」
 遥奏が改札の向こう側でいたずらっぽく笑っている。
 いや、電車乗ると思ってなかったし!
 ちょっと待ってて、と遥奏に声をかけ、改札から右手にある『のりこし精算機』と書かれた黄色と白の機械に向かった。
 そんなに頻繁に電車に乗る用事もないし、最低限でいいかな。
 そう考えて、千円札一枚だけを機械に入れる。
 処理が終わるのを待って、戻ってきたカードをパスケースにしまった。
 人混みをかいくぐって改札を出る。

 遥奏のもとへ向かおうとして、足が止まった。
「……いいじゃんネーチャン、ちょっとくらいさ」
 見知らぬ少年が、遥奏の左手首を掴んでいる。
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