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第2章:胸の奥からクレッシェンド(1)
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翌日、クラスに転校生がやってきた。
十一月末という時期に転校してくるのは珍しいなと思いつつ、ホームルームで新しいクラスメートの自己紹介を聞く。
「はじめまして。水島安弘と言います」
中一にしては背が高く、すらりとした体型。ウェリトン型の黒縁メガネがよく似合っている。すごく「優等生」って感じだ。
「寅島中学校から転校してきました。よろしくお願いします」
「寅島中学校」という固有名詞が、黄色くハイライトされて僕の耳に届く。
河川敷で僕のスケッチブックをぶんどったあの子と同じ学校だ。
「早く慣れて、みなさんとたくさんの思い出を作れればと思います。このクラスでは残り四ヶ月足らずのお付き合いとなりますが、よろしくお願いします!」
緊張の「き」の字も見せない堂々とした話し方は、転校生のあいさつというより、生徒会長のスピーチみたいだった。
拍手に包まれながら深々と頭を下げる水島くん。お辞儀の姿勢も完璧だ。
「席は、窓際から二列目のあそこで」
先生の指示で、水島くんの席は僕の右隣になった。
小学校の教室に貼られていた「よいしせい」ポスターのイラストみたいに、ピシッと背筋を伸ばして座る水島くん。
「それでは、今日の連絡事項です」
いつも通り、朝のホームルームが進んでいく。
僕は机の下でこっそり、薄い教科書を開いた。
今日は音楽の小テストがある。昨日の晩勉強しようと思ってたところ、「リクエスト」に時間を使ってしまったので、対策はこれから。
隙間時間を上手く使えば、六時間目までには覚えられるはず。
テスト範囲は音楽記号。
曲線や直線、点の入り混じった記号の名前と意味を覚える。
「強弱記号」という項目に四つの記号が書いてあった。
四つともアルファベットだ。覚えやすくて助かる。
「ピアノ——弱く」、「メッゾピアノ——やや弱く」、「メッゾフォルテ——やや強く」。
それから、「フォルテ——強く」。
おしゃれなフォントの「f」を目にして、最近知り合った隣の中学校の女の子のことを思い出した。
『私ここで歌うから、聴いててね!』
『うれしい!!』
『きれい!!』
あの子の喋り方は、音楽記号をつけるとしたら全部フォルテだろうな。
そのくせ、歌うときは強弱を自由自在に操るんだ。
「こんにちは。名前を聞いてもいいかな?」
ホームルームが終わり、教材の準備をしている僕に、隣の水島くんが話しかけてきた。
「あ、はい、篠崎秀翔と言います」
初対面の人に急に話しかけられると、つい敬語になってしまう。
「よろしく、篠崎くん。まあそんなに硬くならずに。気楽にいこうじゃないか。クラスメートなんだし」
転校生というのはもっとおどおどしているものだと思っていたのに、むしろ僕の方がリードされてしまった。
「水島くんは、寅中から来たんだね。引っ越しとか?」
「そうそう。ちょっと父の都合でね」
父、と話す水島くんの声は、年齢の割にすごく大人びていた。
寅中、ということは、遥奏のことを知っているのかな。
少し気になったけど、変に怪しまれても面倒なので、黙っておくことにした。
だいたい、僕が遥奏の情報を仕入れたって、特に何の意味もないし。
十一月末という時期に転校してくるのは珍しいなと思いつつ、ホームルームで新しいクラスメートの自己紹介を聞く。
「はじめまして。水島安弘と言います」
中一にしては背が高く、すらりとした体型。ウェリトン型の黒縁メガネがよく似合っている。すごく「優等生」って感じだ。
「寅島中学校から転校してきました。よろしくお願いします」
「寅島中学校」という固有名詞が、黄色くハイライトされて僕の耳に届く。
河川敷で僕のスケッチブックをぶんどったあの子と同じ学校だ。
「早く慣れて、みなさんとたくさんの思い出を作れればと思います。このクラスでは残り四ヶ月足らずのお付き合いとなりますが、よろしくお願いします!」
緊張の「き」の字も見せない堂々とした話し方は、転校生のあいさつというより、生徒会長のスピーチみたいだった。
拍手に包まれながら深々と頭を下げる水島くん。お辞儀の姿勢も完璧だ。
「席は、窓際から二列目のあそこで」
先生の指示で、水島くんの席は僕の右隣になった。
小学校の教室に貼られていた「よいしせい」ポスターのイラストみたいに、ピシッと背筋を伸ばして座る水島くん。
「それでは、今日の連絡事項です」
いつも通り、朝のホームルームが進んでいく。
僕は机の下でこっそり、薄い教科書を開いた。
今日は音楽の小テストがある。昨日の晩勉強しようと思ってたところ、「リクエスト」に時間を使ってしまったので、対策はこれから。
隙間時間を上手く使えば、六時間目までには覚えられるはず。
テスト範囲は音楽記号。
曲線や直線、点の入り混じった記号の名前と意味を覚える。
「強弱記号」という項目に四つの記号が書いてあった。
四つともアルファベットだ。覚えやすくて助かる。
「ピアノ——弱く」、「メッゾピアノ——やや弱く」、「メッゾフォルテ——やや強く」。
それから、「フォルテ——強く」。
おしゃれなフォントの「f」を目にして、最近知り合った隣の中学校の女の子のことを思い出した。
『私ここで歌うから、聴いててね!』
『うれしい!!』
『きれい!!』
あの子の喋り方は、音楽記号をつけるとしたら全部フォルテだろうな。
そのくせ、歌うときは強弱を自由自在に操るんだ。
「こんにちは。名前を聞いてもいいかな?」
ホームルームが終わり、教材の準備をしている僕に、隣の水島くんが話しかけてきた。
「あ、はい、篠崎秀翔と言います」
初対面の人に急に話しかけられると、つい敬語になってしまう。
「よろしく、篠崎くん。まあそんなに硬くならずに。気楽にいこうじゃないか。クラスメートなんだし」
転校生というのはもっとおどおどしているものだと思っていたのに、むしろ僕の方がリードされてしまった。
「水島くんは、寅中から来たんだね。引っ越しとか?」
「そうそう。ちょっと父の都合でね」
父、と話す水島くんの声は、年齢の割にすごく大人びていた。
寅中、ということは、遥奏のことを知っているのかな。
少し気になったけど、変に怪しまれても面倒なので、黙っておくことにした。
だいたい、僕が遥奏の情報を仕入れたって、特に何の意味もないし。
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