静寂

夢見る旋律

　音楽隊の一人の少女は自由な旋律を求めていた。
　少女の求める「自由」には二つの意味があった。一つには音楽を演奏する自由であり、もう一つは音楽そのものが自由であることだった。彼の国では、音楽を演奏することさえ制限されていたし、規律に反した音楽もすべて禁止されていた。当然ながら少女はその両方に不満だった。
　街外れの建物の壁に並ばされて、一日中、敵対する国境の向こうに届くように音を響かせたり、広場やホールで演奏しながら行進練習をさせられるのにもうんざりしていた。
　――こんな国がなくなったとしたら、誰があんな行進や演舞を望むだろう。
　少女は漠然とはしながらも反体制的な考えを持っていた。（彼女は集団行動を競技として演じる人がいることなど、想像もできなかった）。もちろん、頭のなかに介入されることはなかった。
　何度となく思い切り、集団を飛び出して屋上に駆け上り、自分の頭のなかに鳴る音楽を奏でたくなった。それは自由な心を響かせることのできる少女のただ一つの行動だったかもしれない。けれどそんなことはできなかった。加えてそんな発想も行動も、誰にも相談はできなかった。
　周りは皆、同志であって、間違ってもそんなことを言ってはいけない人たちであり、どんなに親しい間柄でも、決して話してはいけなかった。
　もしそんなことをすれば、厳しい矯正指導が行われることになっただろう。もしくは楽器は取り上げられ二度と手にすることはなくなり、終日を労働で過ごす製糸工場や北の果ての農場で一生を過ごすことになったかもしれない。