夜空に星が流れるとき

浅黄幻影

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バルバラが来た日のこと

バルバラが来た日のこと(2)

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 翌朝、ぼくは朝早くにバルバラにたたき起こされた。
「はいはい! マリウスさん、起きてください!」
 それは一回だけ「おはようございます」とやさしく言った後だった。起きようとしないぼくをバルバラはベッドからひっくり返す勢いで布団から引き剥がした。いつもより一時間も早い早朝で、ぼくは眠気眼で「ええー……」と情けない声を出した。
「マリウスさん、これからはもう遅刻はさせませんからね!」
 そう宣言して、それから毎日朝早くに起こされることになった。
 バルバラをか弱いメイドだと思い込んでいたぼくは、なんだか騙された気になった。バルバラはとても元気で、力強く、頭も切れる。料理も上手だし、針仕事も得意。うちにはいないけれど、もしかしたら馬の世話だってできるかもしれない。
 父も母もバルバラを重宝していて、すぐに頼りにするようになった。
 ぼくもバルバラのことは気に入っている。一緒にいて楽しい。ただ、ちょっとだけ口うるさいとは思う。特にこの早起きの習慣づけだけは身につかないし、きっと身につかないだろうと思う。
 ところで、ぼくが早起きできない理由は毎晩、カーテンをそっと少しだけ開いて星の瞬きを見ているせいだ。
 今もぼくは空を眺めながら、何度も聞いた星の物語を思い出す。
 ――ひとりの人が生まれたとき、どこかに新しい星ができて、死ぬときにはその星が消えてなくなる。
 自分の星がどれだろうかと考えるのは怖かったけれど、つい見つめてしまう。そして消えてしまう星はないだろうかと、心配になってあちこちに目をやる。
 それから夜空に浮かぶ星座を指で辿ったり、昨日と違う形の月を見ていると、やがて本当にまぶたが重くなって、くらっとする。それでぼくは本当に寝る気になってベッドの中に入っていく。

「マリウスさん、そろそろ寝る時間ですよ」
 バルバラが部屋に入ってきて、机の上のランプを手にした。ぼくは星を見るつもりでいるので、部屋は暗い方がおあつらえ向きだ。抗わずにバルバラの言葉にいつも従う。
「明日も元気に遊ぶためには、しっかり寝ないといけませんよ。では、おやすみなさい」
 真っ暗になった部屋のなかでぼくはじっとしていた。やがてバルバラの足音が聞こえなくなると、カーテンをゆっくりと開けて空を見た。星は今夜もきれいで、吸い込まれるような黒く青い夜空のなかで輝いていた。
「バルバラの星もあの中にあるんだろうな」
 ぼくはバルバラの星を探してみようとした。
 ――どんな大きさ、どんな色、どんな輝きだろう?
 バルバラの顔を思い浮かべながら夜遅くまで起きていたけれど、いつの間にか自分でも知らないうちにベッドの中で眠っていた。
 そして夜更かしのせいで、朝にはまたバルバラに怒られたのだ。
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