三二・七六八の響き

浅黄幻影

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手料理

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 高校三年のとき、ぼくは美衣子に会いにいかなかった。必ず東京に出て来られるようにしっかり勉強をする、と約束をしたからだった。それで、学校ではもちろん、塾に通い、夜中の二時まで起きて机にかじりついて勉強した。ゲームをして二時まで起きているのはなんてことはないけれど、勉強となるとそうはいかない。肩の凝りも半端なものではなかった。しかし自分の努力である程度何とかできる問題なら責任は自分にある。がんばるしかなかった。そして最終的に努力は報われ、晴れて東京へのひとり暮らしの切符を手に入れた。
 ただ、彼女の近くに住むことは残念ながら叶わなかった。

 それからの日々、ぼくは世間からしたら暇な大学生で、都合がつけば毎晩、美衣子のところにいくこともできた。しかしそういうわけにもいかない。彼女の都合があることだって理解していた。それに、会うたびに身体を求めるぼくを相手にはしていられない。男女の仲が身体だけじゃないことはぼくにもわかっていた。
 わかってはいたけれど、若くて危なげな性はなだめきれたものではなく、いつだって胸は高まり、緊張していた。
 セックスは何度もしたし、いろいろなこともしたけれど、それは彼女の許可がなければ絶対、行われなかった。その点で言えば、ぼくは十分に躾けられていたとも言えるかもしれない。
 一方でセックスが約束されたときもあった。彼女がカレーを作ってくれる日だった。前もって美衣子が伝えてくれたときにはぼくは興奮して彼女のところへ向かったものだった。
 美衣子のカレーの味は忘れないし、カレー臭いキスだって忘れられない。カレーの味に思い出す、まだまだ少年だった胸の高まりを忘れはしない。
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