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第二章/接触
[交流]第5話
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庭園でアキレアたちと別れたマコト、ユウヤ、ハルカはアレックスの案内で第三層の格納庫へと向かった。エレベーターや自動歩道を使いつつ到着した格納庫は、大方の整備が終わったのかマコトたちがシャトルから降りた時よりも人が少ない。マコトたちはリフトに乗り下部へと降りる。格納庫の一角に乗ってきた[JST]のシャトルが鎮座しており、その周囲に十数人の人が集まっていた。リフトから降りて、マコトたちがシャトルの方に向かうと、こちらに気づいた作業ジャケットを着た男が一人近づいてきた。男はシャトルから降りた時に見た、アキレアたちと一緒に居た少々頼りない男性。顔はそれなりに整っているがヨレヨレのシャツやジャケットでそこまで魅力的に感じない。背もマコトより頭ひとつ高いが、猫背でマコトよりほんの少し高いくらいになっている。胡散臭い印象にユウヤの眉間に皺が寄る。
「ア、アレックスさん。ご案内、有り難う御座います。私、技術部の主任を任されております、ミハイル・カークマンです。」
ミハイルはペコペコとお辞儀しながら自己紹介をした。
「皆さん、お待ちしておりました。立ち合いって言っても少し分解とか整備とか・・・そんな感じのを少し見て頂く程度なので、お時間がとらせません。」
「[JST]CAの桐城ハルカです。今回、私が代表として立ち会わせてもらいます、整備、宜しくお願い致します。」
穏やかな笑顔で自己紹介を返すハルカ。挨拶されミハイルは「え、あ・・・はい」とキョロキョロとハルカに視線を合わせずに目を泳がせ、挙動不審になった。
「と、とりあえずミス・ハルカ。こちらで整備する事に異論はありませんか?その・・・シャトルに見られてはいけない所とかあったり、触っては駄目だ所とかあったりとか・・・?」
視線は合っていないが何とか話を切り出すミハイル
「ユニバーサル規格だったはずなので、弊社独自の機能とかは御座いません。整備していただいても大丈夫です。」
「そ、そうですか・・・」と呟き、手に持っていたクリップファイルをハルカに恐る恐る差し出した。
「で、ではこちらの同意書にミス・ハルカの名前でサインを。サインしていただいたら整備を開始しますので。英文、日本語翻訳版と両方お願いします。」
「はい。」と、ハルカは返事をしてファイルを受け取りそれに目を通した後、スラスラと書類の下部の方に自分の名前を書いた。
「これで大丈夫ですか?」
ハルカは文章と名前がミハイルから読めるようファイルを返す。
「あ、大丈夫です、OKです。ありがとうございます。では、失礼して・・・」
ミハイルはファイルを大事そうに受け取ると、後ろに集まっている技術部員たちに向き直る。
『お待たせしました、皆さん。作業を開始してください。』
ミハイルの言葉を合図に、手を挙げたり等それぞれ返事をしながら技術部員たちは、道具を持ってシャトルの後ろや内部、エンジン部分など各々持ち場に移動し、作業を始めた。シャトルの周囲でカンカンコンコンと音が鳴る。マコトたちの目の前では、数人の技術部員が機械を使って外壁のボルトを外している。何故か彼らの足元には幅の広い鉄の器が置いてある。
「すみません、うるさくて。立ち合いはエンジン部分や起動系に異常の確認だけお願いします。それを確認したら戻ってもらっても大丈夫です。」
目の前の技術部員が外壁の一部を外すと、そこからエメラルド色の粘液が流れ出て、下の器の中に溜まっていった。
「あれは・・・?」
マコトが不思議そうな表情をして呟く。
「あ、NMジェルですね。」
聞こえていたのか、「いつ見ても気持ち悪いですね。」と付け加えてミハイルは笑いながら返した。「NMジェル」と、聴きなれない単語を聞いたマコトはさらに不思議そうな表情をする。
「ん?NMジェルをご存じない?そうですか、そうですか・・・」
咳払いをした後、ミハイルは口を開いた。
「NM・・・即ちナノマシンジェルです。衝撃を受けると溶液内の特殊な設定を行ったナノマシンが活性化し、受けた衝撃に合わせて溶液内の硬度を調整するというものです。技州国で数十年前に開発されたものですね。当時はそれなりに画期的な技術だっていわれていましたよ。」
得意げに説明するミハイルに、マコトとハルカ、そして眉間に皺を寄せていたユウヤまで感心の声を上げた。それを聞いたミハイルは今度恥ずかしそうにモジモジし始めた。
『主任、エンジンの点検終わりました。E動力と液体燃料動力の両方共、問題なしです。装置で解析したから大丈夫だとは思いますが、分解の方はどうしますか。』
エンジン部分の解析を終えた技術部員が、ミハイルの傍まで小走りで走ってきた。
『そうですか、ありがとうございます。シャトルの安全の為にやっておきたいところですが、流石に時間が掛かりますからね。立会人も部屋に戻る以上、今分解する訳にはいかないでしょう。立会人には私が説明しておきますので、後で時間を見てやりましょう。』
儀重津部員と話をした後、ミハイルはハルカに向き直る。
「ミ、ミス・ハルカ。専用の装置でエンジンを解析した結果、問題ありませんでしたが、更なる安全性の為、後日エンジンを分解したいのですが宜しいでしょうか?あの〝槍〟が刺さりましたからね・・・」
「元の状態に戻せるのであれば構いませんが・・・大丈夫ですか?」
「問題ございません!」とミハイルは誇らしげに返事をした。
「ここに居るのはアキレア様が選んだ、技州国軍技術者の中でも随一の腕前を誇っている人ばかりです。エンジンの分解修復なぞ、造作もございません。」
自信満々に言ったミハイルだったが、直ぐに困ったような表情をしながら頭を掻いた。
「実はどちらか一方だけであればあなた方が居る間に分解できるのですが・・・二つとなるとやはり時間はかかってしまいますね。技州国が開発したE動力の他に今まで使っていた別な動力。これも技州国への不信感への表れ、ですかね・・・。」
ミハイルはそういった後、寂しそうに息を吐いた。
「おっと、すみません。感傷に浸ってしまっていて・・・そういうことで、分解の件についてはご了承いただけますか?」
「ええ、大丈夫です。ですが・・・」
ハルカが少し申し訳なさそうにすると、ミハイルは慌てて首と手をブンブン振った。
「き、気にしないでください。E系統の技術なんて、私も含めて今の技州国中の技術者でも完全に理解している人なんていないんですから。まぁ、私はどちらかというとハードよりソフトの方が得意なんですけどね。」
ミハイルの言葉を聞いて、「おいおい。」と呆れた表情をする。
「誰も解っていないなんて・・・んな危ない物よく使えるな。」
「そ、そこは何回も検証を重ねているので、何とか最低限の使い方と信頼性は得られています・・・」
ユウヤのツッコミに頼りない返答で答えるミハイルに「何とかって・・・」と再びユウヤは呆れる様に肩を落とす。
「あの・・・さっき言っていたシャトルに突き刺したという槍も解らない感じですか?」
ミハイルの言葉からシャトルに異常が発生した原因はシャトルに刺さった〝槍〟だろう。マコトはそう推測し、手を挙げてミハイルに質問をした。
「ええ、そうですね。あの〝槍〟はパペットシリーズの設計図と[No.1]と同じく前国家元首の遺作で、電子機器への異常と、使用する時に膨大な電力を使うので専用の充電ユニットが必要と言うこと以外、ほぼ何も解明できていない状態なんです。」
ミハイルは笑いながら肩を竦めた。
「技州国の技術を本当に理解しているのは提唱者であるアイク前国家元首だけです。彼のお陰で、ワープドライヴも含めてSF小説じみたことが出来るようになり、世界の技術・科学水準が飛躍的に上がりました。ホント・・・あの天才を超える人なんて、この後誕生するのでしょうか・・・。」
しみじみと語った後、ハッと気づく様にミハイルはハルカに向かって頭を下げた。
「そ、そんなことより、ご了承の件についてありがとうございます。」
「いえいえ。説明していただきありがとうございます。初めて知ったことばかりで、色々勉強になりました。」
手を振りながら、ハルカは礼を言う。
「ん?[JST]の社員だからある程度は知ってたんじゃないの?」
ユウヤは頭の後ろに手を回してハルカを見た。
「一介のCAにそんな知識はないよ。それにお姉さん、こういう難しい話あんま分からないし。機内での説明も大体は台本丸暗記だったり、さっきのシャトルの規格も上司にこう答えなさいって言われていたの。」
ユウヤの問いにハルカは笑いながら答え、ふと思い浮かんだ疑問をマコトとユウヤにぶつけてみた。
「それよりも、こういうロボットっぽいの・・・というか技術話って男の子は結構興味あるんじゃない?」
「いや、全く。」
ユウヤは首を横に振る。そっけないユウヤに苦笑いを浮かべつつマコトも、
「僕もそこまでは。一応、〝くじら〟の事で知識としてならある程度があるくらいで。」
技術話に興味がない男子の回答。ハルカは「そっか」と少し残念そうにしながらも、何かを懐かしむ様に穏やかな笑みを浮かべた。
「ア、アレックスさん。ご案内、有り難う御座います。私、技術部の主任を任されております、ミハイル・カークマンです。」
ミハイルはペコペコとお辞儀しながら自己紹介をした。
「皆さん、お待ちしておりました。立ち合いって言っても少し分解とか整備とか・・・そんな感じのを少し見て頂く程度なので、お時間がとらせません。」
「[JST]CAの桐城ハルカです。今回、私が代表として立ち会わせてもらいます、整備、宜しくお願い致します。」
穏やかな笑顔で自己紹介を返すハルカ。挨拶されミハイルは「え、あ・・・はい」とキョロキョロとハルカに視線を合わせずに目を泳がせ、挙動不審になった。
「と、とりあえずミス・ハルカ。こちらで整備する事に異論はありませんか?その・・・シャトルに見られてはいけない所とかあったり、触っては駄目だ所とかあったりとか・・・?」
視線は合っていないが何とか話を切り出すミハイル
「ユニバーサル規格だったはずなので、弊社独自の機能とかは御座いません。整備していただいても大丈夫です。」
「そ、そうですか・・・」と呟き、手に持っていたクリップファイルをハルカに恐る恐る差し出した。
「で、ではこちらの同意書にミス・ハルカの名前でサインを。サインしていただいたら整備を開始しますので。英文、日本語翻訳版と両方お願いします。」
「はい。」と、ハルカは返事をしてファイルを受け取りそれに目を通した後、スラスラと書類の下部の方に自分の名前を書いた。
「これで大丈夫ですか?」
ハルカは文章と名前がミハイルから読めるようファイルを返す。
「あ、大丈夫です、OKです。ありがとうございます。では、失礼して・・・」
ミハイルはファイルを大事そうに受け取ると、後ろに集まっている技術部員たちに向き直る。
『お待たせしました、皆さん。作業を開始してください。』
ミハイルの言葉を合図に、手を挙げたり等それぞれ返事をしながら技術部員たちは、道具を持ってシャトルの後ろや内部、エンジン部分など各々持ち場に移動し、作業を始めた。シャトルの周囲でカンカンコンコンと音が鳴る。マコトたちの目の前では、数人の技術部員が機械を使って外壁のボルトを外している。何故か彼らの足元には幅の広い鉄の器が置いてある。
「すみません、うるさくて。立ち合いはエンジン部分や起動系に異常の確認だけお願いします。それを確認したら戻ってもらっても大丈夫です。」
目の前の技術部員が外壁の一部を外すと、そこからエメラルド色の粘液が流れ出て、下の器の中に溜まっていった。
「あれは・・・?」
マコトが不思議そうな表情をして呟く。
「あ、NMジェルですね。」
聞こえていたのか、「いつ見ても気持ち悪いですね。」と付け加えてミハイルは笑いながら返した。「NMジェル」と、聴きなれない単語を聞いたマコトはさらに不思議そうな表情をする。
「ん?NMジェルをご存じない?そうですか、そうですか・・・」
咳払いをした後、ミハイルは口を開いた。
「NM・・・即ちナノマシンジェルです。衝撃を受けると溶液内の特殊な設定を行ったナノマシンが活性化し、受けた衝撃に合わせて溶液内の硬度を調整するというものです。技州国で数十年前に開発されたものですね。当時はそれなりに画期的な技術だっていわれていましたよ。」
得意げに説明するミハイルに、マコトとハルカ、そして眉間に皺を寄せていたユウヤまで感心の声を上げた。それを聞いたミハイルは今度恥ずかしそうにモジモジし始めた。
『主任、エンジンの点検終わりました。E動力と液体燃料動力の両方共、問題なしです。装置で解析したから大丈夫だとは思いますが、分解の方はどうしますか。』
エンジン部分の解析を終えた技術部員が、ミハイルの傍まで小走りで走ってきた。
『そうですか、ありがとうございます。シャトルの安全の為にやっておきたいところですが、流石に時間が掛かりますからね。立会人も部屋に戻る以上、今分解する訳にはいかないでしょう。立会人には私が説明しておきますので、後で時間を見てやりましょう。』
儀重津部員と話をした後、ミハイルはハルカに向き直る。
「ミ、ミス・ハルカ。専用の装置でエンジンを解析した結果、問題ありませんでしたが、更なる安全性の為、後日エンジンを分解したいのですが宜しいでしょうか?あの〝槍〟が刺さりましたからね・・・」
「元の状態に戻せるのであれば構いませんが・・・大丈夫ですか?」
「問題ございません!」とミハイルは誇らしげに返事をした。
「ここに居るのはアキレア様が選んだ、技州国軍技術者の中でも随一の腕前を誇っている人ばかりです。エンジンの分解修復なぞ、造作もございません。」
自信満々に言ったミハイルだったが、直ぐに困ったような表情をしながら頭を掻いた。
「実はどちらか一方だけであればあなた方が居る間に分解できるのですが・・・二つとなるとやはり時間はかかってしまいますね。技州国が開発したE動力の他に今まで使っていた別な動力。これも技州国への不信感への表れ、ですかね・・・。」
ミハイルはそういった後、寂しそうに息を吐いた。
「おっと、すみません。感傷に浸ってしまっていて・・・そういうことで、分解の件についてはご了承いただけますか?」
「ええ、大丈夫です。ですが・・・」
ハルカが少し申し訳なさそうにすると、ミハイルは慌てて首と手をブンブン振った。
「き、気にしないでください。E系統の技術なんて、私も含めて今の技州国中の技術者でも完全に理解している人なんていないんですから。まぁ、私はどちらかというとハードよりソフトの方が得意なんですけどね。」
ミハイルの言葉を聞いて、「おいおい。」と呆れた表情をする。
「誰も解っていないなんて・・・んな危ない物よく使えるな。」
「そ、そこは何回も検証を重ねているので、何とか最低限の使い方と信頼性は得られています・・・」
ユウヤのツッコミに頼りない返答で答えるミハイルに「何とかって・・・」と再びユウヤは呆れる様に肩を落とす。
「あの・・・さっき言っていたシャトルに突き刺したという槍も解らない感じですか?」
ミハイルの言葉からシャトルに異常が発生した原因はシャトルに刺さった〝槍〟だろう。マコトはそう推測し、手を挙げてミハイルに質問をした。
「ええ、そうですね。あの〝槍〟はパペットシリーズの設計図と[No.1]と同じく前国家元首の遺作で、電子機器への異常と、使用する時に膨大な電力を使うので専用の充電ユニットが必要と言うこと以外、ほぼ何も解明できていない状態なんです。」
ミハイルは笑いながら肩を竦めた。
「技州国の技術を本当に理解しているのは提唱者であるアイク前国家元首だけです。彼のお陰で、ワープドライヴも含めてSF小説じみたことが出来るようになり、世界の技術・科学水準が飛躍的に上がりました。ホント・・・あの天才を超える人なんて、この後誕生するのでしょうか・・・。」
しみじみと語った後、ハッと気づく様にミハイルはハルカに向かって頭を下げた。
「そ、そんなことより、ご了承の件についてありがとうございます。」
「いえいえ。説明していただきありがとうございます。初めて知ったことばかりで、色々勉強になりました。」
手を振りながら、ハルカは礼を言う。
「ん?[JST]の社員だからある程度は知ってたんじゃないの?」
ユウヤは頭の後ろに手を回してハルカを見た。
「一介のCAにそんな知識はないよ。それにお姉さん、こういう難しい話あんま分からないし。機内での説明も大体は台本丸暗記だったり、さっきのシャトルの規格も上司にこう答えなさいって言われていたの。」
ユウヤの問いにハルカは笑いながら答え、ふと思い浮かんだ疑問をマコトとユウヤにぶつけてみた。
「それよりも、こういうロボットっぽいの・・・というか技術話って男の子は結構興味あるんじゃない?」
「いや、全く。」
ユウヤは首を横に振る。そっけないユウヤに苦笑いを浮かべつつマコトも、
「僕もそこまでは。一応、〝くじら〟の事で知識としてならある程度があるくらいで。」
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