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第一幕/出立
[日常]第2話
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「あ、ごめん一ノ瀬君!!」
五・六時限目、HRが終わり、放課後。マコトとユウヤは下校の準備を整え、いざ帰ろうとした時にハツラツとしたが二人を呼び止めた。声の主は、クラス委員長の若宮スズネ。スズネの手には自身の視界を遮るほどの大量のプリント。さらに彼女の机には同じ様にプリントが大量に積まれている。
「今日中に先生に提出しなきゃいけないプリントがあって。やっぱ一人じゃ難しいから、帰り際に悪いんだけどすこーしだけ、お手伝いしていただけないでしょうか?」
「この量・・・またお前他のクラスの分も引き受けたのか。」
スズネは悪戯っぽく舌をだす。ユウヤは溜め息を吐きつつ、スズネが持っているプリントの半分を受け取った。プリントの山から艶やかなショートヘア―とくっきりと整った目と鼻が顔を出す。「僕も手伝うよ」とマコトがスズネの机の上にある大量のプリントを両手いっぱいに持った。
「マコト、あまり無理をするんじゃないぞ・・・で、どこに持っていけばいいんだ?」
「職員室の小牧先生のところ。いや~助かったわ。ありがと!」
「オーケー、職員室の小牧の所な。しかし・・・他のクラスのまでとは。無理し過ぎにも程がある。」
「一ノ瀬君も、普段から他のクラスの分までやっているくせに」
スズネは頬を膨らませながら積み重なったプリントの上から覗かせる目で不機嫌そうにユウヤを睨みつけた。「自分が出来る分をやっているだけなんだが・・・」と、呟きながらユウヤが肩を竦めた瞬間、スズネの机の方から誰かが転び、何かにぶつかった様な衝撃音が聞こえた。二人は音がした方向を見ると、マコトが尻もちをついており、床には大量のプリントが散らばっていた。ユウヤはすぐに生徒が帰った後の机にプリントを置き、隣の机にでも打ったのか、頭をさすっているマコトの所まで行き手を伸ばした。
「無理するなって言ったのに・・・。大丈夫か?マコト?」
「大丈夫?天野君?」
マコトはユウヤの手を取りながら申し訳なさそうに、
「意外に重くて・・・ごめん。迷惑かけちゃって。あー・・・プリントが・・・今すぐ拾うよ。」
一度手に取ったユウヤの手を放して、マコトは直ぐに床に散らばったプリントを拾い始めた。スズネも近くの机にプリントを置き、マコトが広げたプリントを拾うのを手伝い始める。
「?一ノ瀬君どうしたの?」
スズネは、手を差し伸べた状態で静止しているユウヤに声をかけた。その表情はよく見えなかったものも、信じ難いものを見て、少し苛ついている様に見えた。ユウヤはハッとし、「いや、何でもない」といつもの‐少し気だるそうな、だが他人を惹きつける‐表情に変化し、すぐマコトが広げたプリントを一緒に拾い始めた。
「これ、この前の進路調査の・・・」
ふと、マコトは自分が拾ったプリントに目を通した。
「そう、この前の進路調査票。他の人のなんだから、あまりじろじろ見ないでよ・・・で、二人は書いたよね?」
「俺はまだ・・・これって期限過ぎていたりする・・・?」
ユウヤは少々焦った様子でスズネを横目に見た。
「期限過ぎたからこうやって集めて小牧先生の所に持っていくんでしょ。」
ユウヤは天を仰ぎながら、マコトは俯きながら溜め息を吐いた。
「珍しい。二人とも大体の提出書類には期限までキッチリ出すのに。」
「こういうの、苦手なんだよ。あー、小牧にどう説明するか・・・」
ユウヤはあれこれ考えつつもプリントを集める手は止めなかった。マコトは少々暗くなりつつも、再びプリントを集め始める。
三人は散らばったプリントを集め終え、‐一番背の高いユウヤが少々多めに‐プリントを持ちながら、職員室を目指して教室から廊下に出た。
職員室に向かう途中、ふと思い出したようにスズネはマコトに声をかける。
「そういえば、海王星付近でなんか・・・よくわからないのが出てきたよね。絵本に出てきたくじらっぽいって噂だけど。」
「え?委員長も興味あるの!?」
マコトは目を輝かせながらスズネの方を向いたが、勢いで持っているプリントのバランスが少し崩れそうになり、慌ててバランスを取り直した。
「いや、親の仕事の関係でね。私自身、興味あるってわけじゃないんだけど。」
「今、マコトのその話題を振るなよ?一時間は話に付き合わなければならなくなるぞ。」
ユウヤは笑いながらそう答える。マコトは頬膨らませながら、「そこまでは長くならないよ。」と呟いた。
「さっき、進路調査票書いてないって言ってたよね?今回のニュースとか興味あるんだったら、宇宙関連の仕事や大学とか向いてないかなーって。」
その言葉を聞いたマコトは少し悲しそうに微笑んだ。
「宇宙関連の仕事って専門の知識や体力が求められるでしょ?今からじゃ、それは遅いかな?って・・・そもそも僕にできる確証なんてないし・・・」
「そうかな~?まだまだ遅くはないと思うんだけど・・・人生まだまだこれからなんだしっ!」
と、プリントを持ちながらもスズネは少し小走りし、二人に振り返った。プリントの山の横から明るい笑顔が二人を見つめる。
スズネは活発で少しドジを踏むこともあるが、黒く流れるようなショートの髪とくっきりとした目鼻立ちをしており、愛らしいというよりも美人に近い。彼女が学級委員長に選ばれたのは、誰にでも明るく接する事ができる積極性を持っているのと同時に、その容姿によるものなのかもしれない。
そんな彼女の自分たちに対して行った行動が少々可笑しかったのか、ユウヤは鼻で笑いつつ、
「まだまだ〝未来〟のことなんて考えてられねぇよ。ま、考えなきゃいけないんだろうが。だが、今は少しでも高二の〝今〟を楽しみたいって訳さ。」
と、早歩きしスズネを追い越した。つられてマコトもユウヤについていく。ユウヤは歩きつつ、後ろにいるスズネに向かって、
「若宮は〝未来〟のことよりも、来週の小テストで補習にならない事の心配をしておいた方がいいんじゃないか?」
「もー、何よ!来週の小テスト関係ないでしょ!?」
スズネは口を尖らせて文句を言いつつも二人の後を追った。
五・六時限目、HRが終わり、放課後。マコトとユウヤは下校の準備を整え、いざ帰ろうとした時にハツラツとしたが二人を呼び止めた。声の主は、クラス委員長の若宮スズネ。スズネの手には自身の視界を遮るほどの大量のプリント。さらに彼女の机には同じ様にプリントが大量に積まれている。
「今日中に先生に提出しなきゃいけないプリントがあって。やっぱ一人じゃ難しいから、帰り際に悪いんだけどすこーしだけ、お手伝いしていただけないでしょうか?」
「この量・・・またお前他のクラスの分も引き受けたのか。」
スズネは悪戯っぽく舌をだす。ユウヤは溜め息を吐きつつ、スズネが持っているプリントの半分を受け取った。プリントの山から艶やかなショートヘア―とくっきりと整った目と鼻が顔を出す。「僕も手伝うよ」とマコトがスズネの机の上にある大量のプリントを両手いっぱいに持った。
「マコト、あまり無理をするんじゃないぞ・・・で、どこに持っていけばいいんだ?」
「職員室の小牧先生のところ。いや~助かったわ。ありがと!」
「オーケー、職員室の小牧の所な。しかし・・・他のクラスのまでとは。無理し過ぎにも程がある。」
「一ノ瀬君も、普段から他のクラスの分までやっているくせに」
スズネは頬を膨らませながら積み重なったプリントの上から覗かせる目で不機嫌そうにユウヤを睨みつけた。「自分が出来る分をやっているだけなんだが・・・」と、呟きながらユウヤが肩を竦めた瞬間、スズネの机の方から誰かが転び、何かにぶつかった様な衝撃音が聞こえた。二人は音がした方向を見ると、マコトが尻もちをついており、床には大量のプリントが散らばっていた。ユウヤはすぐに生徒が帰った後の机にプリントを置き、隣の机にでも打ったのか、頭をさすっているマコトの所まで行き手を伸ばした。
「無理するなって言ったのに・・・。大丈夫か?マコト?」
「大丈夫?天野君?」
マコトはユウヤの手を取りながら申し訳なさそうに、
「意外に重くて・・・ごめん。迷惑かけちゃって。あー・・・プリントが・・・今すぐ拾うよ。」
一度手に取ったユウヤの手を放して、マコトは直ぐに床に散らばったプリントを拾い始めた。スズネも近くの机にプリントを置き、マコトが広げたプリントを拾うのを手伝い始める。
「?一ノ瀬君どうしたの?」
スズネは、手を差し伸べた状態で静止しているユウヤに声をかけた。その表情はよく見えなかったものも、信じ難いものを見て、少し苛ついている様に見えた。ユウヤはハッとし、「いや、何でもない」といつもの‐少し気だるそうな、だが他人を惹きつける‐表情に変化し、すぐマコトが広げたプリントを一緒に拾い始めた。
「これ、この前の進路調査の・・・」
ふと、マコトは自分が拾ったプリントに目を通した。
「そう、この前の進路調査票。他の人のなんだから、あまりじろじろ見ないでよ・・・で、二人は書いたよね?」
「俺はまだ・・・これって期限過ぎていたりする・・・?」
ユウヤは少々焦った様子でスズネを横目に見た。
「期限過ぎたからこうやって集めて小牧先生の所に持っていくんでしょ。」
ユウヤは天を仰ぎながら、マコトは俯きながら溜め息を吐いた。
「珍しい。二人とも大体の提出書類には期限までキッチリ出すのに。」
「こういうの、苦手なんだよ。あー、小牧にどう説明するか・・・」
ユウヤはあれこれ考えつつもプリントを集める手は止めなかった。マコトは少々暗くなりつつも、再びプリントを集め始める。
三人は散らばったプリントを集め終え、‐一番背の高いユウヤが少々多めに‐プリントを持ちながら、職員室を目指して教室から廊下に出た。
職員室に向かう途中、ふと思い出したようにスズネはマコトに声をかける。
「そういえば、海王星付近でなんか・・・よくわからないのが出てきたよね。絵本に出てきたくじらっぽいって噂だけど。」
「え?委員長も興味あるの!?」
マコトは目を輝かせながらスズネの方を向いたが、勢いで持っているプリントのバランスが少し崩れそうになり、慌ててバランスを取り直した。
「いや、親の仕事の関係でね。私自身、興味あるってわけじゃないんだけど。」
「今、マコトのその話題を振るなよ?一時間は話に付き合わなければならなくなるぞ。」
ユウヤは笑いながらそう答える。マコトは頬膨らませながら、「そこまでは長くならないよ。」と呟いた。
「さっき、進路調査票書いてないって言ってたよね?今回のニュースとか興味あるんだったら、宇宙関連の仕事や大学とか向いてないかなーって。」
その言葉を聞いたマコトは少し悲しそうに微笑んだ。
「宇宙関連の仕事って専門の知識や体力が求められるでしょ?今からじゃ、それは遅いかな?って・・・そもそも僕にできる確証なんてないし・・・」
「そうかな~?まだまだ遅くはないと思うんだけど・・・人生まだまだこれからなんだしっ!」
と、プリントを持ちながらもスズネは少し小走りし、二人に振り返った。プリントの山の横から明るい笑顔が二人を見つめる。
スズネは活発で少しドジを踏むこともあるが、黒く流れるようなショートの髪とくっきりとした目鼻立ちをしており、愛らしいというよりも美人に近い。彼女が学級委員長に選ばれたのは、誰にでも明るく接する事ができる積極性を持っているのと同時に、その容姿によるものなのかもしれない。
そんな彼女の自分たちに対して行った行動が少々可笑しかったのか、ユウヤは鼻で笑いつつ、
「まだまだ〝未来〟のことなんて考えてられねぇよ。ま、考えなきゃいけないんだろうが。だが、今は少しでも高二の〝今〟を楽しみたいって訳さ。」
と、早歩きしスズネを追い越した。つられてマコトもユウヤについていく。ユウヤは歩きつつ、後ろにいるスズネに向かって、
「若宮は〝未来〟のことよりも、来週の小テストで補習にならない事の心配をしておいた方がいいんじゃないか?」
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