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第一幕/出立
[日常]第1話
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「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースです。観測衛星が海王星付近にて、なにか巨大な物体・・・でしょうか?が映っていることを、国連宇宙開発局[UNSDB]が公開しました。これは、一体なんなのでしょうか?」
「くじら・・・の様に見えますねぇ・・・。そういえば三十年前位に流行った絵本がありましたねぇ。確か〝宇宙のくじら〟ってタイトルでしたっけ?いやぁ~懐かしいなぁ~」
「あ、その絵本、子どもの頃に読みましたぁ!くじらの絵がすっごくかわいくてぇ~読んでてなんだかポカポカしたの覚えてるなぁ~」
「あれ?セイラちゃんも読んでたの?けどあれって、結局主人公の少年は元の星に帰らないんだよねぇ。」
「あれぇ~そんなお話でしたっけぇ~?アハハ~覚えてないけどなんかこわ~いぃ」
最近売り出し中のアイドルがバカみたいな声でコメントしている・・・。
水曜の昼下がり、高校の昼休み中に一ノ瀬ユウヤは携帯端末のニュース動画を眠たそうな目で眺めていた。ニュースに映っているは若手のアナウンサーと中年のコメンテーター、そしてアイドル。ユウヤにとってはあまり魅力的な出演者ではなかった。が、寝起きの頭でもニュースの内容が気にかかる。
〝海王星付近に巨大な物体〟〝くじらのような形をしている〟
ユウヤは、前の席に座っている‐自分が昼寝中にも関わらず叩き起こし‐このニュースを急いで見せてきた人物に目を向ける。まぁ、彼にとっては生涯で一度のビッグニュースには違いないのだが。
「ユウヤ、やっぱり〝宇宙のくじら〟は存在したんだよ!」
興奮気味に天野マコトが話しかけてきた。ユウヤは一度伸びをしてから、
「〝くじら〟みたいなものだろ?そもそも観測衛星の映像だし。そこまではっきり映るものなのか?」
と、苦笑する。いつもはぼーっとしているマコトだが、絵本「宇宙のくじら」のことになると別人のように饒舌に話しだす。
「このフォルム、胸ビレ、尾ビレ・・・。[UNSDB]の観測衛星だって一昨年打ち上げた最新式だよ。解像度、耐久性共に折り紙付き。それが捉えたってことは間違いないって。端末のニュース映像が少し雑なだけだよ。」
「自分の端末にケチつけるのかよ。」
ユウヤは再び苦笑しつつ、マコトからニュースを見るために借りていた端末を本人に返した。
「それに、観測衛星の映像を直接見たコメンテーターだって〝くじらの様な・・・〟って言ってたぞ。さすがに直接見た人間の意見だし、存在するって決めつけるのはまだ早いんじゃないのか?」
「それはそうだけど・・・。このコメンテーター苦手なんだよな・・・」
返してもらった端末でニュース動画を繰り返し再生しつつ、マコトはボソボソと呟いた。そんな様子を見つつ、ユウヤはまだ眠そうに欠伸をしながら自分の端末をポケットから取り出し時間を見る。
昼休みも半分を過ぎたあたりか・・・。
ユウヤは再び伸びをして、マコトに話しかけた。
「そもそも、〝宇宙のくじら〟って絵本の空想上の生き物だろ?そんなものが存在するのか・・・?」
「ユウヤ、それは違うよ。ユングヴィ夫妻は実際に見たから絵本に描けたんだ。何回も説明しただろ?」
三十四年前、急速に発達した宇宙開発技術により、人間は一度太陽系外へと探索に出たことがある。ユングヴィ夫妻‐カール・H・ユングヴィとマーガレット・L・ユングヴィ=は海洋学者でありながら、その探索メンバーに選ばれていた。三年間の探索を終え、ユングヴィ夫妻は自らの体験談を元に一年間かけて一冊の絵本を執筆した。
それが〝宇宙のくじら〟
帰還後のインタビューで夫妻は「宇宙でくじらを見た」と発言したことから、一時は「本当に宇宙にくじらがいたのではないか?」と話題を呼び、体験談で描かれたこの絵本がブームになったこともある。三十年前に執筆された絵本ではあるが、マコトは幼い頃から〝宇宙のくじら〟を読み、〝くじら〟の存在を高校二年にもなって信じて疑わなかった。
「そりゃぁ、耳にタコができるぐらい聞いているさ。けど、他の探索隊のメンツは宇宙にくじらなんて見てないんだろ?一学者の発言や執筆物でその存在を確証してもなぁ・・・」
「けどユウヤ・・・!」
「まぁ、それで〝存在しない〟って決定づけるのも少し違うか。何しろ太陽系外の話だし、今回は太陽系内だけどな。」
ユウヤは反論しようとするマコトをなだめると、大きく欠伸をしながらマコトに言った。
「うんじゃ、俺はもうひと眠りするわ。昼休みが終わりそうになったら起こして。」
「あ、ごめんユウヤ。昼寝の邪魔をしちゃって。バイトで忙しいのに。」
「お前にとって大ニュースだったんだろ?気にすんなって。」
そうして再びユウヤは浅くも、だが心地よい眠りについた。
「くじら・・・の様に見えますねぇ・・・。そういえば三十年前位に流行った絵本がありましたねぇ。確か〝宇宙のくじら〟ってタイトルでしたっけ?いやぁ~懐かしいなぁ~」
「あ、その絵本、子どもの頃に読みましたぁ!くじらの絵がすっごくかわいくてぇ~読んでてなんだかポカポカしたの覚えてるなぁ~」
「あれ?セイラちゃんも読んでたの?けどあれって、結局主人公の少年は元の星に帰らないんだよねぇ。」
「あれぇ~そんなお話でしたっけぇ~?アハハ~覚えてないけどなんかこわ~いぃ」
最近売り出し中のアイドルがバカみたいな声でコメントしている・・・。
水曜の昼下がり、高校の昼休み中に一ノ瀬ユウヤは携帯端末のニュース動画を眠たそうな目で眺めていた。ニュースに映っているは若手のアナウンサーと中年のコメンテーター、そしてアイドル。ユウヤにとってはあまり魅力的な出演者ではなかった。が、寝起きの頭でもニュースの内容が気にかかる。
〝海王星付近に巨大な物体〟〝くじらのような形をしている〟
ユウヤは、前の席に座っている‐自分が昼寝中にも関わらず叩き起こし‐このニュースを急いで見せてきた人物に目を向ける。まぁ、彼にとっては生涯で一度のビッグニュースには違いないのだが。
「ユウヤ、やっぱり〝宇宙のくじら〟は存在したんだよ!」
興奮気味に天野マコトが話しかけてきた。ユウヤは一度伸びをしてから、
「〝くじら〟みたいなものだろ?そもそも観測衛星の映像だし。そこまではっきり映るものなのか?」
と、苦笑する。いつもはぼーっとしているマコトだが、絵本「宇宙のくじら」のことになると別人のように饒舌に話しだす。
「このフォルム、胸ビレ、尾ビレ・・・。[UNSDB]の観測衛星だって一昨年打ち上げた最新式だよ。解像度、耐久性共に折り紙付き。それが捉えたってことは間違いないって。端末のニュース映像が少し雑なだけだよ。」
「自分の端末にケチつけるのかよ。」
ユウヤは再び苦笑しつつ、マコトからニュースを見るために借りていた端末を本人に返した。
「それに、観測衛星の映像を直接見たコメンテーターだって〝くじらの様な・・・〟って言ってたぞ。さすがに直接見た人間の意見だし、存在するって決めつけるのはまだ早いんじゃないのか?」
「それはそうだけど・・・。このコメンテーター苦手なんだよな・・・」
返してもらった端末でニュース動画を繰り返し再生しつつ、マコトはボソボソと呟いた。そんな様子を見つつ、ユウヤはまだ眠そうに欠伸をしながら自分の端末をポケットから取り出し時間を見る。
昼休みも半分を過ぎたあたりか・・・。
ユウヤは再び伸びをして、マコトに話しかけた。
「そもそも、〝宇宙のくじら〟って絵本の空想上の生き物だろ?そんなものが存在するのか・・・?」
「ユウヤ、それは違うよ。ユングヴィ夫妻は実際に見たから絵本に描けたんだ。何回も説明しただろ?」
三十四年前、急速に発達した宇宙開発技術により、人間は一度太陽系外へと探索に出たことがある。ユングヴィ夫妻‐カール・H・ユングヴィとマーガレット・L・ユングヴィ=は海洋学者でありながら、その探索メンバーに選ばれていた。三年間の探索を終え、ユングヴィ夫妻は自らの体験談を元に一年間かけて一冊の絵本を執筆した。
それが〝宇宙のくじら〟
帰還後のインタビューで夫妻は「宇宙でくじらを見た」と発言したことから、一時は「本当に宇宙にくじらがいたのではないか?」と話題を呼び、体験談で描かれたこの絵本がブームになったこともある。三十年前に執筆された絵本ではあるが、マコトは幼い頃から〝宇宙のくじら〟を読み、〝くじら〟の存在を高校二年にもなって信じて疑わなかった。
「そりゃぁ、耳にタコができるぐらい聞いているさ。けど、他の探索隊のメンツは宇宙にくじらなんて見てないんだろ?一学者の発言や執筆物でその存在を確証してもなぁ・・・」
「けどユウヤ・・・!」
「まぁ、それで〝存在しない〟って決定づけるのも少し違うか。何しろ太陽系外の話だし、今回は太陽系内だけどな。」
ユウヤは反論しようとするマコトをなだめると、大きく欠伸をしながらマコトに言った。
「うんじゃ、俺はもうひと眠りするわ。昼休みが終わりそうになったら起こして。」
「あ、ごめんユウヤ。昼寝の邪魔をしちゃって。バイトで忙しいのに。」
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