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第2.5章 魔女と日常の話
カップ麺 ③
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◇◆◇◆
「まず、りいちゃんの認識を改める所から始めます」
「はい」
「りいちゃんは脂肪吸引をどんな手術だと思ってる?」
「体についた脂肪を吸い取る手術?」
「不正解! 正解は脂肪細胞を吸い取る手術だよ」
「脂肪と脂肪細胞って違うんですか?」
「全然違うよ。脂肪細胞っていうのは要するに袋かな? 人は栄養を摂り過ぎると、この袋に余分な脂肪を詰め込むの。そしてこの袋が風船みたいにパンパンに膨らむ事で体が大きくなるんだよ」
「あの」
「何?」
「脂肪細胞を吸い取るって事はその袋がなくなるって事ですよね? だったら脂肪を溜め込めない太りにくい体になるんじゃないですか?」
「良い所に気がついたね。その通り。それが脂肪吸引の最大のメリットです。でもね? 脂肪細胞って言うのは紛れもなく生きた細胞なんだよ」
「はい」
「そんな生きた細胞を普通に吸い取る事は出来ないの。薬を使ったり超音波を使ったりして、ドロドロに溶かして殺す必要があるんだよ。何も悪い事をしていない健康な細胞をね?」
「……」
「それに脂肪吸引って一箇所だけやるんじゃないんだよ? お腹だけに脂肪がついてるわけじゃないでしょ? 顔も、お腹も、お尻も、太ももも。気になる所全部に針を刺すつもり?」
「……」
「他にも太りにくくなるメリットがあるって言ったけど、それだって全部が本当じゃない。脂肪細胞って言うのはゴム風船なんかよりもよっぽど大きく膨らむんだから。数が減ったら減ったで、残った脂肪細胞は減った仲間の分も一生懸命働いて栄養を蓄えようとするし、数が足りないなーって思ったらまた増えたりもする。そうしてリバウンドした時、脂肪吸引みたいな楽な方法で痩せたりいちゃんは自力でダイエット出来ると思う? それともリバウンドする度に脂肪吸引を受けるつもり?」
「……でも。……でも、だって……。だって私……楽して痩せたい……っ! 汗水垂らしながら痩せるなんて耐えられないもん……! うっ、うぅっ……。どうして人ってこんな太りやすいんですか……?」
「生きる為だよ。大昔、今みたいに皆が皆十分な栄養を取れなかった時代。そんな時代を生き残る為には、人は太りやすくて痩せにくい体になるしかなかったの。そういう体を持てなかった人は皆飢えて死んでいった。いい? 太りやすい体って言うのは恥ずかしい事じゃないの。どんな状況でも生き抜こうとする強い体なんだよ。私は太り安い体の事を誇りに思ってる。りいちゃんはそう思わない?」
「だって……だって……今はそんな時代じゃないじゃないですか。カッコいい人も可愛い人もみんな痩せてるじゃないですか。……サチだって」
「りいちゃん……。……ううん、でもダメだ。ここで甘やかしたら、りいちゃんはきっと何があっても自分以外の力に頼る弱い大人になっちゃうと思う。だから私は鬼になるよ」
「サチぃ……っ」
「いい? りいちゃん。脂肪吸引手術なんてね」
「うぅっ……」
「一箇所しか受けさせてあげないんだからね? 他の部位はちゃんと自分の力で痩せる事! いい?」
「サチぃ……! 好きぃ……!」
りいちゃんと過ごして早五年。生まれて初めてりいちゃんに厳しく接してしまった。私達は早速美容整形外科へ赴いた。……が。
「何でですか⁉︎ 小学生には受けさせられない⁉︎ この病院は医者が患者を差別するんですね⁉︎」
「どの病院だってそう言うに決まってるでしょ⁉︎ こんな小さな子供に美容整形ってどういうつもりだ⁉︎」
「なんですかその言い方! 敬語の使い方もわからないんですか⁉︎ 本当個人経営の病院ってタメ口ばっか使うお医者さんばかりですよね! よっぽど学歴と収入を鼻にかけて患者を見下してるんでしょうね! ふんっ! こっちは保険証だってちゃんと持って来てるのに!」
「何美容整形に健康保険使おうとしてるんだ⁉︎ 保険適用外に決まってるだろ!」
「そんなのどうでもいいじゃないですか! 今一番大事なのはこの子です! この子今小六なんですよ⁉︎ 小学校最後の一年なんです! その貴重な時間をダイエットに使わせるだなんて、そんな残酷な真似私には出来ません。手っ取り早く痩せてもらって、一分一秒でも長く綺麗な体で小学校生活を満喫して欲しいと思っています! 子供の些細な願いも聞いてあげられない親がどこにいるんですか⁉︎」
「子供に美容整形受けさせる親こそどこにいるんだ! いいから帰りなさい! そして二度と来るな! あんた達の事は同業者の皆んなにも知らせるからな。二度と子供に美容整形受けさせようだなんて思うなよ⁉︎」
私達は追い出された。
「ごめんねりいちゃん……っ! 私悔しい……! でも安心して……? 正規の医者がダメなら闇医者探すから……! ブラックジャック先生探して見せるから……!」
「いいです……! もういいですサチ……! 私も出来るだけ一人で頑張ってみるから私の為に喧嘩しないで……!」
「りいちゃん……!」
「サチ……!」
こうしてりいちゃんのダイエット生活が始まった。
「りいちゃん! エアロバイク買ってみたよ!」
次の日。Amazonで注文したエアロバイクが届く。
「いいでしょ? これならテレビを見ながら運動も出来るし、ここにスマホをセットすれば動画を見ながら運動する事も出来る。ベットでゴロゴロスマホいじってる時間を運動に回せば一気に痩せるよ!」
「凄いですサチ! 天才じゃないですか!」
一分後。
「サチ……つ、つかれたゃ……! 汗が目に入って……、動画もテレビも見れない……! ひーっ、ひーっ……!」
「りいちゃん⁉︎」
私はすかさず対策を実行する。それはりいちゃんに代わって私自身がエアロバイクを漕ぐと言うもの。
「さぁ、りいちゃん! エアロバイクは私が漕ぐからりいちゃんは私におんぶされながらテレビでも見ててよ!」
「流石ですサチ! それなら体力うんこの私にも出来そうですね!」
「はあああああああああ!」「うおおおおおおおおお!」
私達は二人一丸となってエアロバイクを漕いだ。
数日後。
「三キロ痩せた」
「一キロ太りました」
……何故だ?
「サチ。私思ったんですけど」
食事の準備に取り掛かりながらりいちゃんがふと呟いた。
「パティシエって女の子のなりたい職業上位なのに実際は男の人の方が多いんですよね?」
「そうだね。まぁお菓子作りって本格的に始めると結構体力勝負な所あるから。お店に商品並べる為に朝から晩まで作り続けたりもするだろうし」
「と言う事はお菓子作りって実は痩せるのでは……?」
「りいちゃんも天才だ……!」
私達は早速お菓子作りに取り掛かった。
「に、二の腕が……! ミキサーを使わないと二の腕ってこんなに傷むんだ……!」
「頑張ってくださいさいサチ! 私も卵割りと計量は頑張ってます!」
お菓子が出来て。
「サチは食べないんですか?」
「うん……。疲れすぎて食欲が出ない……。私ももう若くないなぁ……。りいちゃん全部食べていいよ」
数日後。
「ニキロ痩せた」
「一キロ太りました」
……何故だ?
「人間が運動以外で一番エネルギーを消費するのが睡眠なんだって」
寝る時間になってもダイエットは終わらない。
「哺乳類って恒温動物でしょ? 体温を維持する為にかなりのカロリーを消費するんだって」
「ということは寒い環境にしたら体温を上げる為により多くのエネルギーを使うのでは?」
「例えば?」
「エアコンをつけるとか、寝る前にアイスを食べて体を冷やすとか」
「それ採用」
早速私達はアイスを食べ、冷房の効いた部屋で横になった。
「……うっ」
ダメだ。りいちゃんはすっかり熟睡しているけど私は体が冷えて寝付けそうにないや。眠くなるまで軽くランニングでもしてこよう。
数日後。
「二キロ痩せた」
「一キロ太りました」
……何故だ?
……………………何故だ?
「サチ。身長何センチでしたっけ?」
「百六十六」
「体重は?」
「四十四」
「モデルじゃないですかっ!」
りいちゃんは怒りに任せてメリムちゃんをぶん投げた。ページが下になっているから読めないけど、きっとあの中では汚い罵詈雑言が山のように出てるんだろうな。
「全然そんな事ないよ! 普通だよ!」
「どこが⁉︎ そもそも体重を聞かれて躊躇なく答えられる時点で私とは住む世界が違うんですよ!」
りいちゃんは泣きながら部屋の隅っこで体育座りになる。私は自分だけ痩せてしまった罪悪感に囚われながらも、なんとか彼女の機嫌を直そうとすり寄ってみた。
「ねぇ、りいちゃん? もう少しだけ頑張ってみよ? 私スマートになったりいちゃんが見てみたいなぁ」
「……」
「きっとやり方が間違ってたんだよ。じゃなきゃりいちゃんだけが太るはずないもん!」
「……」
「お願いりいちゃん……機嫌直して? あ、そうだ。痩せたら夏休みに食い倒れ旅行とか行ってみない?」
「おおおおおおおおおおお! 痩せる! 絶対痩せてやるうううううううう!」
単純な子でよかった。こうしてりいちゃんのダイエット計画、本気モードが幕を開ける。
りいちゃんは動いた。
「りいちゃん! もしかしてエアロバイクってりいちゃんが漕がないと意味がないんじゃないかな⁉︎」
りいちゃんは食べなかった。
「そうだ! 私がお菓子作りで体力使ってもそれをりいちゃんが食べてたら意味がないじゃん!」
そして寝る前だって動き続けた。
「ファイト! ファイト! ほらりいちゃんもっと足あげて! ランニングが終わったらぐっすり寝れるよ!」
そんな日が続いた。そして。
「おめでとう、りいちゃん」
「うっ……うぅっ……! 辛かった……、辛かったですサチ……っ」
「でも昔の服が着れるようになってよかったじゃん」
「……はい」
「お祝いに今日は目一杯美味しい物食べよ?」
「本当ですか……?」
「もちろん。りいちゃん頑張ったもんね? 何食べたい?」
りいちゃんは瞳に涙を浮かべながら満面の笑みで答えた。
「カップ麺」
「まず、りいちゃんの認識を改める所から始めます」
「はい」
「りいちゃんは脂肪吸引をどんな手術だと思ってる?」
「体についた脂肪を吸い取る手術?」
「不正解! 正解は脂肪細胞を吸い取る手術だよ」
「脂肪と脂肪細胞って違うんですか?」
「全然違うよ。脂肪細胞っていうのは要するに袋かな? 人は栄養を摂り過ぎると、この袋に余分な脂肪を詰め込むの。そしてこの袋が風船みたいにパンパンに膨らむ事で体が大きくなるんだよ」
「あの」
「何?」
「脂肪細胞を吸い取るって事はその袋がなくなるって事ですよね? だったら脂肪を溜め込めない太りにくい体になるんじゃないですか?」
「良い所に気がついたね。その通り。それが脂肪吸引の最大のメリットです。でもね? 脂肪細胞って言うのは紛れもなく生きた細胞なんだよ」
「はい」
「そんな生きた細胞を普通に吸い取る事は出来ないの。薬を使ったり超音波を使ったりして、ドロドロに溶かして殺す必要があるんだよ。何も悪い事をしていない健康な細胞をね?」
「……」
「それに脂肪吸引って一箇所だけやるんじゃないんだよ? お腹だけに脂肪がついてるわけじゃないでしょ? 顔も、お腹も、お尻も、太ももも。気になる所全部に針を刺すつもり?」
「……」
「他にも太りにくくなるメリットがあるって言ったけど、それだって全部が本当じゃない。脂肪細胞って言うのはゴム風船なんかよりもよっぽど大きく膨らむんだから。数が減ったら減ったで、残った脂肪細胞は減った仲間の分も一生懸命働いて栄養を蓄えようとするし、数が足りないなーって思ったらまた増えたりもする。そうしてリバウンドした時、脂肪吸引みたいな楽な方法で痩せたりいちゃんは自力でダイエット出来ると思う? それともリバウンドする度に脂肪吸引を受けるつもり?」
「……でも。……でも、だって……。だって私……楽して痩せたい……っ! 汗水垂らしながら痩せるなんて耐えられないもん……! うっ、うぅっ……。どうして人ってこんな太りやすいんですか……?」
「生きる為だよ。大昔、今みたいに皆が皆十分な栄養を取れなかった時代。そんな時代を生き残る為には、人は太りやすくて痩せにくい体になるしかなかったの。そういう体を持てなかった人は皆飢えて死んでいった。いい? 太りやすい体って言うのは恥ずかしい事じゃないの。どんな状況でも生き抜こうとする強い体なんだよ。私は太り安い体の事を誇りに思ってる。りいちゃんはそう思わない?」
「だって……だって……今はそんな時代じゃないじゃないですか。カッコいい人も可愛い人もみんな痩せてるじゃないですか。……サチだって」
「りいちゃん……。……ううん、でもダメだ。ここで甘やかしたら、りいちゃんはきっと何があっても自分以外の力に頼る弱い大人になっちゃうと思う。だから私は鬼になるよ」
「サチぃ……っ」
「いい? りいちゃん。脂肪吸引手術なんてね」
「うぅっ……」
「一箇所しか受けさせてあげないんだからね? 他の部位はちゃんと自分の力で痩せる事! いい?」
「サチぃ……! 好きぃ……!」
りいちゃんと過ごして早五年。生まれて初めてりいちゃんに厳しく接してしまった。私達は早速美容整形外科へ赴いた。……が。
「何でですか⁉︎ 小学生には受けさせられない⁉︎ この病院は医者が患者を差別するんですね⁉︎」
「どの病院だってそう言うに決まってるでしょ⁉︎ こんな小さな子供に美容整形ってどういうつもりだ⁉︎」
「なんですかその言い方! 敬語の使い方もわからないんですか⁉︎ 本当個人経営の病院ってタメ口ばっか使うお医者さんばかりですよね! よっぽど学歴と収入を鼻にかけて患者を見下してるんでしょうね! ふんっ! こっちは保険証だってちゃんと持って来てるのに!」
「何美容整形に健康保険使おうとしてるんだ⁉︎ 保険適用外に決まってるだろ!」
「そんなのどうでもいいじゃないですか! 今一番大事なのはこの子です! この子今小六なんですよ⁉︎ 小学校最後の一年なんです! その貴重な時間をダイエットに使わせるだなんて、そんな残酷な真似私には出来ません。手っ取り早く痩せてもらって、一分一秒でも長く綺麗な体で小学校生活を満喫して欲しいと思っています! 子供の些細な願いも聞いてあげられない親がどこにいるんですか⁉︎」
「子供に美容整形受けさせる親こそどこにいるんだ! いいから帰りなさい! そして二度と来るな! あんた達の事は同業者の皆んなにも知らせるからな。二度と子供に美容整形受けさせようだなんて思うなよ⁉︎」
私達は追い出された。
「ごめんねりいちゃん……っ! 私悔しい……! でも安心して……? 正規の医者がダメなら闇医者探すから……! ブラックジャック先生探して見せるから……!」
「いいです……! もういいですサチ……! 私も出来るだけ一人で頑張ってみるから私の為に喧嘩しないで……!」
「りいちゃん……!」
「サチ……!」
こうしてりいちゃんのダイエット生活が始まった。
「りいちゃん! エアロバイク買ってみたよ!」
次の日。Amazonで注文したエアロバイクが届く。
「いいでしょ? これならテレビを見ながら運動も出来るし、ここにスマホをセットすれば動画を見ながら運動する事も出来る。ベットでゴロゴロスマホいじってる時間を運動に回せば一気に痩せるよ!」
「凄いですサチ! 天才じゃないですか!」
一分後。
「サチ……つ、つかれたゃ……! 汗が目に入って……、動画もテレビも見れない……! ひーっ、ひーっ……!」
「りいちゃん⁉︎」
私はすかさず対策を実行する。それはりいちゃんに代わって私自身がエアロバイクを漕ぐと言うもの。
「さぁ、りいちゃん! エアロバイクは私が漕ぐからりいちゃんは私におんぶされながらテレビでも見ててよ!」
「流石ですサチ! それなら体力うんこの私にも出来そうですね!」
「はあああああああああ!」「うおおおおおおおおお!」
私達は二人一丸となってエアロバイクを漕いだ。
数日後。
「三キロ痩せた」
「一キロ太りました」
……何故だ?
「サチ。私思ったんですけど」
食事の準備に取り掛かりながらりいちゃんがふと呟いた。
「パティシエって女の子のなりたい職業上位なのに実際は男の人の方が多いんですよね?」
「そうだね。まぁお菓子作りって本格的に始めると結構体力勝負な所あるから。お店に商品並べる為に朝から晩まで作り続けたりもするだろうし」
「と言う事はお菓子作りって実は痩せるのでは……?」
「りいちゃんも天才だ……!」
私達は早速お菓子作りに取り掛かった。
「に、二の腕が……! ミキサーを使わないと二の腕ってこんなに傷むんだ……!」
「頑張ってくださいさいサチ! 私も卵割りと計量は頑張ってます!」
お菓子が出来て。
「サチは食べないんですか?」
「うん……。疲れすぎて食欲が出ない……。私ももう若くないなぁ……。りいちゃん全部食べていいよ」
数日後。
「ニキロ痩せた」
「一キロ太りました」
……何故だ?
「人間が運動以外で一番エネルギーを消費するのが睡眠なんだって」
寝る時間になってもダイエットは終わらない。
「哺乳類って恒温動物でしょ? 体温を維持する為にかなりのカロリーを消費するんだって」
「ということは寒い環境にしたら体温を上げる為により多くのエネルギーを使うのでは?」
「例えば?」
「エアコンをつけるとか、寝る前にアイスを食べて体を冷やすとか」
「それ採用」
早速私達はアイスを食べ、冷房の効いた部屋で横になった。
「……うっ」
ダメだ。りいちゃんはすっかり熟睡しているけど私は体が冷えて寝付けそうにないや。眠くなるまで軽くランニングでもしてこよう。
数日後。
「二キロ痩せた」
「一キロ太りました」
……何故だ?
……………………何故だ?
「サチ。身長何センチでしたっけ?」
「百六十六」
「体重は?」
「四十四」
「モデルじゃないですかっ!」
りいちゃんは怒りに任せてメリムちゃんをぶん投げた。ページが下になっているから読めないけど、きっとあの中では汚い罵詈雑言が山のように出てるんだろうな。
「全然そんな事ないよ! 普通だよ!」
「どこが⁉︎ そもそも体重を聞かれて躊躇なく答えられる時点で私とは住む世界が違うんですよ!」
りいちゃんは泣きながら部屋の隅っこで体育座りになる。私は自分だけ痩せてしまった罪悪感に囚われながらも、なんとか彼女の機嫌を直そうとすり寄ってみた。
「ねぇ、りいちゃん? もう少しだけ頑張ってみよ? 私スマートになったりいちゃんが見てみたいなぁ」
「……」
「きっとやり方が間違ってたんだよ。じゃなきゃりいちゃんだけが太るはずないもん!」
「……」
「お願いりいちゃん……機嫌直して? あ、そうだ。痩せたら夏休みに食い倒れ旅行とか行ってみない?」
「おおおおおおおおおおお! 痩せる! 絶対痩せてやるうううううううう!」
単純な子でよかった。こうしてりいちゃんのダイエット計画、本気モードが幕を開ける。
りいちゃんは動いた。
「りいちゃん! もしかしてエアロバイクってりいちゃんが漕がないと意味がないんじゃないかな⁉︎」
りいちゃんは食べなかった。
「そうだ! 私がお菓子作りで体力使ってもそれをりいちゃんが食べてたら意味がないじゃん!」
そして寝る前だって動き続けた。
「ファイト! ファイト! ほらりいちゃんもっと足あげて! ランニングが終わったらぐっすり寝れるよ!」
そんな日が続いた。そして。
「おめでとう、りいちゃん」
「うっ……うぅっ……! 辛かった……、辛かったですサチ……っ」
「でも昔の服が着れるようになってよかったじゃん」
「……はい」
「お祝いに今日は目一杯美味しい物食べよ?」
「本当ですか……?」
「もちろん。りいちゃん頑張ったもんね? 何食べたい?」
りいちゃんは瞳に涙を浮かべながら満面の笑みで答えた。
「カップ麺」
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