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第二章 魔女とタバコを吸う少年

二冊目

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 ◇◆◇◆

 テレビのニュースを見てため息を漏らす。とても酷いニュースだと思った。三十代の男性が都内の公衆トイレで兄妹二人と無関係な女の子一人を相手に暴行を加えていたという、なんとも惨たらしいニュース。

 通報を受けて駆けつけた警察官によると、三十代男性はトイレの中で蹲りながら苦しんでいたらしい。被害者の状況は兄妹が軽傷で、たまたま立ち合っていた無関係な女の子は顔に針を縫う怪我。でも被害者は三人とも命に別状はないのだとか。

「……」

 酷いニュースだ。本当に酷いニュースだ。

「……つっかえねえ」

 あれだけの大男でありながら子供の一人も殺せていないだなんて。

「……何それ。見かけ倒しじゃん。十人くらいは余裕で殺しそうって……思ったのになー。……あーあ。つまんないの」

 私はテレビを消して布団を頭まですっぽりと被る。俗に言う不貞寝である。

【怒ってる?】

 そんな私の姿がザンドの目には怒っているように映ったらしい。まぁ、目と言っても本であるザンドにそんな物は存在しないけれど。

「……ううん。怒ってないよ?」

 私は勝手に体から飛び出したザンドを体内へ押し戻す。怒ってないとは言いつつもイラっとしたのは事実だ。図星、突かれちゃった。深呼吸でもして落ち着かないと。私は怒っちゃいけないんだから。

「リラーックス……、リラーックス……、リラーックス……」

 いずれ天使になる私に、怒りと言う感情は似合わない。

 それはそれとして今のニュース、一つだけ気になる所があったな。加害者の男が蹲りながら苦しんでいた原因だけど、病院に搬送された男のお腹の中から袋詰めのクッキーが出て来たって。

 動物の体には巨大な空間が存在する。その空間は横隔膜によって二つの空間に分けられており、心臓と肺が収納された空間の事を胸腔。胃や腸のような消化器官に膵臓や脾臓、腎臓等と言った多数の臓器が収納された空間の事を腹腔と呼ぶ。袋詰めのクッキーが出て来たのは、胃の中ではなく腹腔の中かららしい。

 胃の中にクッキーがあったのなら口から入ったという事なんだろう。腸の中にクッキーがあったのなら胃から送られたか、或いは肛門から入れられたという事なんだろう。でもクッキーが出て来たのは大男の腹腔からだ。臓器が収納されている空間にクッキーが入っていた。そんな所に異物を入れる方法なんて、それこそお腹に穴を開けて直接入れる以外に思い浮かばない。

 どうしてそんな所にクッキーなんかが入っていたんだろう。意味がわからい。外科手術をしたとかでもないなら、それこそ瞬間移動をしたとしか……。

「……ねぇ、ザンド」

【何?】

「……。ううん、やっぱりなんでもない」

 もしかして私以外にも本を拾った人間がいるのかな? ……なんて。
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