黒乃の短編集

黒野ユウマ

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「さぁ、もう一度遊ぼうか」

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※Twitterで書き散らした黒乃のオリキャラ二人の話です。
※ヴィクス、ヴォリスという名が出ていますが「Happy Hallucination」とは全く別の世界線です。



......................................................




 神の御加護がありますように。
聖母のごとく優しく微笑む銀髪のシスターに、人々は涙していた。

 人々の懺悔に耳を傾け、赦し、彼らにまた新たな一歩を踏みしめるよう導く。何も持たない平民にとって彼女は心の支えだった。

 その微笑みを求めて、今日も教会には人だかりが出来ている。


 そんな彼女は夕方に教会を去り、森のはずれにある自宅へ戻る。
誰も知らない床下の階段を降り、鉄製の重い扉と南京錠で守られた自らのプライベートルームへ足を運び――


「ただいま帰りました、私の愛しいヴィランたち」


 ――冷たい雰囲気の残る部屋の中には、首がずらりと並んでいた。


「やっぱりこの部屋に入ってみんなの顔を見ないと、一日が終わった気がしないわね」

 幾千人と人を殺し続けた最悪の殺人鬼、貴族界で名を馳せた悪女、独裁国家を作り上げた低俗な政治家──この部屋に並ぶのは、人々から忌み嫌われた者たちの首。

「今日も迷える子羊を助けてあげたわ、褒めてくれる?」

 若い男の首を抱え、恋する乙女のように微笑む。
赤錆色の髪に、左目を包帯で隠した若い男。それは、ある盗賊の男の首だった。

「あぁ、でも……貴方は善行を褒めてくれるような人ではなかったわね。ロヴィーナ・サングェ」

 首の名を呼んでは、困ったように微笑んで元の場所に戻す。既に魂と分離されたその首は、もちろん返答などしない。

 次に彼女が手に触れたのは、それより若い少年の首だった。
毛先だけが深紅に染まった紺色の髪、赤と青のピン留めをした、中性的な少年。

「ヴォリス・ブレイズ、貴方はどう思う?」

 うっとりと頬を染めた表情で、少年の首を見つめる。もちろん、その首も反応を示すことはない。

「……なんて、知ってる。貴方も人の善行を褒めるようなタチじゃないわね」

 先程の男の首と同じように、ため息をつきながら元の場所へと戻す。
彼女は、その首たちがまだ元気に生きている頃の姿をよく知っているようだった。

 ただ、それももう少し遠い昔の話。
彼らはもう、振り下ろされた刃によって眠らされた者たちである。

 彼女の望む褒め言葉をささやくことも、彼女を罵倒する言葉を吐くことも、二度と訪れない。


「……貴方ならきっと褒めてくれるわよね」

次に掲げたのは、赤紫の髪に眼帯の少年の首――

「いつだって、貴方は善人の皮を被っていたもの。嘘でも、きっと褒めてくれる。"頑張ったな"ってね」

 ――ヴィクス・ブレイズ。
恍惚とした笑みを浮かべて、その首をじっと見つめていた。



『この時間に生首鑑賞会ということは、今日の仕事は終えたようだね。ミス・クインローズ』


 緑、赤紫、青、赤――色とりどりの光を放ちながら、ふわりと姿を現した少年。
赤紫の髪の生首と同じ赤紫色の目に、ゆるやかな緑色の髪。黒と赤紫を基調としたローブのような服装。

「ごきげんよう、ミスター・ロキ」



 ――ヴァニタス・フレデリカ=ロキ。
その身に神を宿した、半神の少年。彼女が一度手に取った赤と青の少年とそっくりそのまま、同じ声色で彼女に語りかけていた。


『その三人の首を得てからというもの、いっそうご機嫌なようだね』
「えぇ、最高よ!世を暗躍する情報屋に紅血の守り手、稀代の盗賊の首が勢揃いしたんだもの!」
『そう。俺としては、彼らと遊べなくなるのは残念……と、言いたいところだけれどね』

 半神の少年の言葉に、少女が首を傾げる。

『彼らの魂は、まだ生きているようだ』
「生きてる……? 生まれ変わりでもしたの?」
『半分正解で、半分不正解だ』

 少女の周りをふわり、遊ぶように漂う半神。
一周くるりと回って少女の目の前に立つと、にっこりと微笑んで、

『――三人とも、同時に同じ形でこの世に姿を現した』

 意味深に、そう告げた。

 どういうことだと言いたげに、少女は眉を顰める。
言葉遊びが好きなのだろうか、この半神の少年は少女の反応をクスクスと面白がっているようだ。


『一つの肉体に、三人の魂が同時に宿っている。まったく違う人物の魂と同居する形でね』
「? ……多重人格、みたいなもの?」
『そうだね、その言い方の方がわかりやすい』

 だったら、とっととそう言えばいいのに――少女が呆れたようにため息をつく。半神の少年は、変わらず少女を笑って見ていた。


『君にとっても俺にとっても、いい話さ。形は違えど、また彼らと遊べるんだ』
「そう……そうね。彼らがまた悪行をしてくれれば……」

 半神の少年の言葉に、少女は笑む。
花が咲いたような笑みではなく、鋭い光を瞳に宿したシスターらしかぬ微笑みで――


「……私はまた、あの悦びを得られるのね」

 ――人々が彼らの罪を咎め、そして断罪の刃を振り下ろす。
首が落ち、「悪人」の鮮血が飛び散り、「悪」が潰えるその瞬間。

 少女は、その瞬間を何よりも深く愛していた。


「その"肉体"とやら、いつかどこかで会えるかしら」
『きっと会えるさ。死の瞬間、彼らは君の思惑に気付いていたようだからね』

 いつか必ず、俺たちを殺しに来るだろうから。半神の少年は、そう言いながら微笑んだ。
神の慈悲、ではなく――神の悪戯、という言葉が似合う邪悪な光を浮かべて。


「楽しみね、ミスター・ロキ。私は今度も彼らを断罪の道へ歩ませてみせますとも」
『どうだかね。案外君が負けるかもしれないよ?』
「大丈夫。"正義は必ず勝つ"……って、言うでしょう?」
まるでそれが当然のように、自信満々に口角を上げる。


「今度はどんな手を打ってくるのかしら。あぁ、早くゲームを始めましょう! 最悪な男たち!」


 神に祈るかのように手を組み、歪んだ笑みで天を仰いだ。
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